第39話 課外授業

 課外授業に使われる森ダンジョンは、広大な山がダンジョン化している。


 人数の多い生徒たちを、教師陣だけでバックアップするのは無理なため、成績優秀者たちからダンジョン調査を行っていく。


 成績優秀者として、0クラス、1クラス、2クラスの三クラスが、数日に分けてダンジョンに寝泊まりして調査を行う。


「それでは本日から課外授業に入ります。


 課外授業は、0クラスから順番に一日づつズラしてダンジョンに入ってもらいます。

 ダンジョンに入ってからは三日間、ダンジョン内で生活をしてもらいます。

 それはダンジョン内で生き残ることを意味しています。

 食事の用意や寝床の確保なども皆さんで行ってください。


 先生方も救援用に準備はしていますが、先生が介入した時点で成績評価が下がることを覚悟してください」


 シーラス先生が代表して課外授業の説明を終える。

 今日までに準備をしてきたチームメンバーたちが各々のチームで固まり始める。


「おっ、おい」


 チームリーダーであるリンシャンではあるが、ルビーに負けてからはダンジョンに潜っても大人しくなった。

 ダンジョンを終えても文句を言うことなく立ち去っていく。


 だが、今日はリンシャンから珍しく言葉を発してきた。


「なに?」

「どうしてなんの用意もないんだ?」


 リンシャンは重そうな鎧を来て、リュックを背負っている。

 三日間ダンジョンの調査するだけにしては、随分と重装備だと言わざるを得ない。


「逆に君は荷物が多すぎないか?」

「それはそうだろう。三日間も外で過ごすんだ。食事だけでなく、女性であれば準備が必要だからな!」


 リンシャンの発言にミリルとルビーが顔を見合わせる。


 元々、孤児で朝の用意は水で顔を洗うだけだったミリル。

 冒険者として、野営が多い生活をしてきたルビー。


 二人ともダンジョンで過ごす際も、装備と保存食程度で女性の準備という物は最低限しか用意していない。


 だが、公爵家の令嬢として育てられたリンシャンは、従者を男性のダンだけにしているので、女性の従者を連れて居らず、必要な物は全て自分で用意してきた。

 別にそれが悪いとは言わないが、ダンジョンに行く用意としては……不適切としかいいようがない。


「ルビー。バックの中身を見てやって」

「はいにゃ」

「ミリル。マーシャル嬢へダンジョンに挑戦する際の説明をして」

「わかりました」


 ボクから言われるよりも、同性に言われた方が納得できるだろう。


 リュックを剥ぎ取られて、鎧を脱がされ……なんとも情けない姿になったリンシャンがミリルに説教に近い説明を受けている。


 身軽になったリンシャンがボクの前に立つ。


「どっ、どうして私がこんな目に」


 腰には剣。

 背中には丸盾。

 防具の下には簡易なパンツとシャツ。

 大事なところだけを守る鎧。


 引き締まった身体は意外に着やせするタイプでスタイルが良い。


 腰には小さなポーチがあり、保存食と水筒が入れられている。


「うん。そんなもんじゃない」

「ちょっと待て!ミリルに説明を受けたから、私が無駄な荷物を持ってきたことは分かる。

 だが、どうしてお前は武器一つ持っていない!食事はどうした?!わっ、私は食料を分けてやらんぞ!」


 一応、こちらを心配して聞いてくれているのかな?

 ルビーとの戦いに負けたからか、それともダンに何か言われたのか……前よりは随分と大人しくなった。


「ボクのことは気にしなくていいよ。三日間よろしくね。暗くなる前にいいところを確保したいから行こうか」

「はい!」「はいにゃ!」「わっ、わかった」


 リーダーが大人しくなったので、仕方なくボクが出発の合図を出すことにした。

 どうせボクはミリルに引いてもらうだけなので、クッションに座って本を読む。


「……おっ、おい」

「うん?なに?」


 ダンジョンに入ってもいない山の中で、リンシャンがボクの横に立って問いかけてきた。


「ダンから聞いた」

「何を?」


 本へ向ける視線を彼女に向けることなく、話半分で聞いておく。


「……医務室まで運んでくれようとしていたと」

「結局、ダンが運んだけどね」

「……ミリルから……孤児院を助けたと聞いた。本当か?」

「さぁ、そんなことあったかな?」

「むむむ……私はルビーに負けた。私よりも強いルビーがお前の方が強いと言っていた。たっ、鍛錬はずっとしているのか?」


 う~ん、なんだこいつ?


 今日は、めっちゃ話しかけてくる。

 別に本を絶対に読みたいわけじゃないけど、話しかけられるのはちょっとめんどうだな?


「してないよ。身体動かすの嫌いだからね。はい。話は終わり。ダンジョンに入るよ」

「わかった!」


 ダンジョンと言う言葉に反応して、リンシャンは臨戦態勢に入る。

 だが、ここからの作業も慣れてきて、三人はボクの魔法で眠った魔物を討伐していく。


 夜まで討伐と休息を繰り返して、テントの用意をする。


「なっ、なんだこれは?!」

「うん?天幕だけど。見れば分かるでしょ」

「分かるが、こんな大きな物」

「うるさいなぁ~ボクのポーチはマジックバックなの。チームなんだから知っているだろ。そこに入れていただけだよ。一日中外で過ごしたんだからシャワーも浴びたいし、ベッドで寝たいからね。

 ちゃんとケアをしないとお肌に悪いんだぞ」


 天幕は四人が寝ても十分な広さがあり、簡易トイレ、魔導シャワーも完備している。

 全て、カリンが購入して持たせてくれた物で、去年のカリンたちも天幕で過ごしたそうだ。


 カリンがしてくれたら料理も美味しくなるが、用意してくれた保存食とポーチに入れられてきた食料で簡易な食事を作っていく。


「野営で、こんな豪華な食事が!」


「本当にうるさいな。美容には良質なタンパク質と脂質が必要なの。糖質と小麦はお肌の敵!食事は身体の資本だろ」


 大豆で出来たパスタに干し肉と野菜のスープ。

 簡易ではあるが、カリン発明のダイエット食は味もいい。


 振る舞ってあげてるのにうるさい奴だ。


 一通り食事とシャワー、美容関連の寝る準備を終えて布団へ入る。


「おっ、おい。寝ている間の見張りは誰からするんだ?良ければ私が最初にやるぞ」


 夜になって張り切り出したリンシャン。

 ボクは説明するのもめんどうになってミリルに託した。


「リンシャン様、見張りは不要です」

「はっ?」

「リューク様は、寝ている間も常時魔法を発動できるそうなのです。

 ですから、寝ている間も魔物は天幕の周囲30メートルに近づけば寝てしまうので問題ありません」


 リンシャンがこちらへ視線を向けているのを感じるが、ボクは無視して眠りについた。


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