第34話 快適なダンジョンアタック

 森ダンジョンは、学園の敷地内にある山の中に存在する。

 山全体とはいかないが、ある程度の高さまで上がるとダンジョン化していて、ダンジョンコアはダンジョン頂上付近の洞窟内にあることが確認されている。


 敷地は広大で、領地の広さだけならばレベル3相当のダンジョンではあるのだが、学園の生徒がモンスターを狩るため、ダンジョンレベルが上がらなくて、レベル2ダンジョンとして認定されていた。


「リューク様、しんどくないですか?お水飲みますか?」


 腰にロープを巻き付けた特待生孤児ミリルが甲斐甲斐しくボクの世話を焼こうと声をかけてくる。

 カリンに聞いたのだが、ミリルは孤児院の炊き出しをしていたときに助けた子なのだそうだ。

 全然覚えてないや。そのときの恩を返したくて世話をしたいんだって。

 カリンへ、そのときのお礼を言いに来て、チームになったのでボクの世話をさせてほしいと許可を取っていった。


「ううん。喉渇いてないから水はいいや」

「そっ、そうですか……何かしてほしいことはありますか?」

「今のところはないかな?あっ、あそこに矢を撃って」

「はい!」


 召使いではないけど、便利に働いてくれるので助かる。

 えっ?今は何をしているのかって?ダンジョン攻略だよ。

 女騎士殿が、週末にダンジョンに行くっていうから強制的に連れてこられたんだ。

 本番まで待てばいいのにね。

 と言っても、ボクはバルに乗ったまま魔法を発動しているだけなんだけどね。

 移動はミリルが引っ張ってくれるし、ぶつかりそうになったらバルがエアーバックになるし、動かないって最高。


「倒しました」

「お疲れ~」

「魔石を狩ってきたにゃ」

「ご苦労様~」


 ボクの手足となって動く二人は、次々と魔物を倒して魔石と素材を集めてくる。

 ダンジョンって凄いね。マジックウォッチにチーム登録しているからわかるんだけど、モンスターを倒すのに協力したことが認められると経験値をもらえるみたい。

 モンスター討伐数0なんだけど、レベルが5になったよ。


 素材も、カリンが買ってくれたマジックバックに入れて、ルビーは倒し漏れて寝ている魔物を狩って魔石を集めてくれるから、ボクは何もしなくて大丈夫。


「おい!」

「うん?何?」

「これのどこがダンジョン攻略だ?」

「だから、何が?」

「戦闘が無いじゃないか!!!」


 何を怒っているのだろう?チームだから一緒にいるけど、一番働いていない。

 ボクは動いてはいないけど、属性魔法睡眠を応用して、半径30メートル以内に近づいた敵を眠らせている。

 新しい魔法、オートスリープアロー様々だね。

 無属性魔法のサーチも上手く機能して、敵と認識した相手をオートで眠らせる。


 ミリルは、弓を使って敵を討ち。

 ルビーは討ち漏らして倒していない魔物の魔石回収をしてくれている。


 一人だけ何もしないで怒鳴るリンシャン。

 もしかして女の子の日なのかな?それなら関わらない方が得策だね。


「…………」

「無視するな!」

「もう、うるさいなぁ~何が不満なの?」


 こんなにも快適で安全にダンジョン攻略できているのに何が不満なのかわからない。


「全部だ!どうして、お前はクッションに乗って寝ているんだ!?

 どうしてミリルがお前を運んでいるんだ!

 どうして魔物が戦わずに寝ているんだ?!

 これじゃ戦闘の訓練にならないだろ!ハァハァハァ」


 一気に叫んだリンシャンが息を切らしてしまう。


「ミリル、説明できる?」

「はい!お任せください!」


 ボクは説明がめんどうなので、ミリルに丸投げした。


「リューク様がクッションに乗って寝ているのは、動くのが嫌いなのと、集中するためです。

 私が運んでいるのは、リューク様が動かなくても移動できるようにするためです!

 モンスターが寝ているのは、リューク様が魔法を発動してくれているからです!

 ダンジョンは危険なところなので、戦闘が苦手な私は弓で魔物を倒せるので、簡単にレベルが上がります!以上です」


 ハキハキとした口調で説明してくれる。

 ミリルは「ちゃんと説明できました」と言いながら頭を撫でられるためにやってくる。

 ボクは「よく出来ました」と頭を撫でる。


「あ~ズルにゃ。私も撫でてほしいにゃ」


 魔石を狩りに行って戻ってきてルビーも、ミリルの反対にやってきて撫でられる。

 可愛い女の子二人を侍らせるような見た目になるが、彼女たちのご褒美が頭を撫でられることでいいならラクでいい。


「だからそれがおかしいだろ!ダンジョンは危険なところなんだ!!

 助け合うことで絆を高め合ってチーム力を向上させるんだ!

 これでは寝ている魔物を倒すだけの作業でしかないだろ!」


 ダンジョンの中で叫び続けるリンシャンは危機管理能力がないのかな?

 危険って自分で言っているのに魔物を引き寄せるとか、もう少し考えてほしい。


「ハァ~、それの何が悪いの?」


 実際、危険がなくて安全に魔物を狩れている。


 レベルが上がれば自分たちも強くなる。

 チームも安全。

 ダンジョン攻略も安全。

 みんなが強くなって学園も安全。


 何が悪いの?


「わっ……悪くは……ない」


 モンスターの死体はダンジョンに吸収されていくので、死屍累々という気持ち悪い状況にはならない。

 むしろ、魔石を回収されたモンスターは綺麗に消えて無くなるので、大量に倒してダンジョンを弱体化させれば、他のチームも弱い魔物しか出なくなるのでラクに戦える。


 ラクにレベルが上げれて、他の人の助けにもなって何が悪いの?


「だが、こんな戦い方……」


 尻つぼみに言葉を失うリンシャン。


「ねぇ、君は仲間を危険に晒したいの?」

「違う!私は……」

「魔物は討伐しなくちゃいけない相手なんだよね?

 それを簡単に倒すことができれば、倒す人も、魔石を待っている人も喜ぶじゃないの?いい加減どっちが不謹慎なことを言っているのかわかってくれないかな?」


 ここまで言わなければならないのだろうか?

 戦闘バカに戦闘するなということが、そもそも無理なのかな?


「……」


 黙り込んだリンシャンに二人も気まずそうな顔をする。


「ハァ~、気に入らないなら今日はもう解散にしよう。本番の課外授業じゃないんだ。リーダーがやる気ないなら仕方ないね」

「まっ、待ってくれ。私が……悪かった。続けよう。まだ時間はある」


 黙って働くようになったリンシャンが、ルビーと共に魔石の回収と、倒し切れていない魔物狩りをして初ダンジョンを終了する。


 学園に魔石を提出して完了となるわけだが……解散寸前でリンシャンが立ち止まる。


「リューク・ヒュガロ・デスクストス」

「なに?」

「私と成績ランキング戦をしてほしい」

「ハァ~、ダンのときのこと忘れたの?殺すよ」

「……」


 思い詰め、覚悟を決めた瞳でリンシャンがジッとボクを見る。


「そんな真剣な目で見られてもな……ハァー、めんどうだな。ルビー」

「はいにゃ!」

「お前が相手をしてやれ。代理人って奴だ」

「まかせるにゃ!」

「まっ、待て!それでは意味が」


 自分勝手にこちらの都合も考えないで、戦闘で決着をつけようとする。

 自分が間違っているとは考えないのかな?


「何?意味?ボクには戦うことに意味なんてないよね?君には意味じゃなくて、目的があるんでしょ?

 君が勝ったら、魔法を使わないで魔物と戦闘をしろとでも?わざわざ危険なことを強いるの?」

「そっ、それは……」


 瞳が揺らぎ迷っている姿を見せる。


「前にも言ったけど、力だけで決めようとする野蛮な奴は殺すよ。

 君はそれでもボクと、どっちの意見が合っているか決める戦いをするんでしょ?ボクは代理人を立てた。

 彼女が負ければ、君の言うことを聞くかもね。

 その代わり負ければ従ってもらう」


 これはボクなりの譲歩だ。


 めんどうな戦いをしたくないってのもあるけど、彼女の気持ちを発散させてあげることで大人しくなってくれればそれでいい。

 それを示す方法を彼女は戦うことでしか伝えられない不器用な人なんだろう。


「……わかった。ルビー、頼めるか?」

「わかったにゃ。ランキング戦をリンシャンに挑むにゃ!」

「承諾する」


 めんどうな女子を気遣うってめんどうだなぁ~。

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