第28話 モーニングルーティン

怠惰なボクではあるけれど……ボクの朝は早い。


何故かって?美容はね……一日にして成らずなんだよ。


キモデブガマガエルにならないために始めた美容だけど、今ではボクにとってのライフスタイルになっているんだ。


まずは、目が覚めると横で眠る天使の寝顔を見つめる。


この時間は何より大切だ。


人は一人で生きていくことはとても辛いから、隣で天使がいると思うだけで幸せな気持ちになれる。

学園にきて一番よかったことは、夜にカリンといられることだよね。


カリンは料理だけでなく、学科をメインに授業を組んでいる。

学科と言っても様々な分野があり、将来は経営者のカリビアン伯爵の仕事を手伝うんだって張り切っているので勉強をして疲れてしまっている。


目標に向かって頑張る彼女はとても素敵で可愛いと思う。


彼女は寝かせたまま、まだ暗い時間に起きて早朝の散歩へ出かける。

激しく動くのは嫌いだけど、散歩は好きだ。

朝は、日差しが少なくて日焼けのリスクも少ない。

だけど、日焼け止めは絶対に忘れない。


今までは家の庭を散歩するだけだったけど、これからは学園を散策できるので少しワクワクしてしまう。


「少し汗を出すか、バル、トレース」

「(^^)/」


広場を見つけたので、バルを召喚して身体を預ける。

バルは、ボクの脳内にある格闘技の型を再現して身体を動かしてくれる。


5歳の頃に比べれば、バルも進化した。


最初の頃は、フワフワと物を運ぶぐらいしか出来なかった。


だけど、今では


・フォルムチェンジ

・トレース

・コントロール


の三つの魔法を組み合わせて使えるようになった。


フォルムチェンジは、バルの形状を変化できる魔法だ。


普段は魔力の塊であるバルは風船のような形をしている。

そこから某有名クッションメイカーが発売している全身が預けられるクッションへフォルムチェンジさせて移動の乗り物に変化させる。


元々、荷物を運べるなら人も運べるでしょってね。


ただ、魔力だけでは供給が切れれば不安定になり、維持することも難しくなる。

魔力と相性の良く、自由自在に変化する素材があれば、バルのボディーを作ってみたい。


「ふぅ~いい汗掻いたな」


トレースはボクの脳内で見たことがある格闘技の知識や、この世界に来てから見た戦闘をトレースして、データを集める統計学から最適の戦闘方法を編み出す。

学園に来る前は騎士の戦いや亜人の戦いを見た。

学園ではランキング戦があるので、魔法使いの戦いを見ることが出来るので良い学習空間だ。


ダンとの戦闘では、ダンの戦い方がデータになかったので、相手を倒す最適解をバルが選択して戦った結果だった。


「バル、コントロール」


コントロールは、ボクの意識が脳内で覚醒状態にありながら、バルが身体を動かす遠隔操作魔法だ。


人は自身の身体に脳内セーブをかけている。

それは身体に害を及ばさないために、危険から身を守る処置として自己防衛本能が働く。

だけど、コントロールを使うと、ボクはゲームのコントローラーをもった状態になって防衛本能を取り払うため限界を超えた動きが出来るようになる。


身体を動かすのはバル。

操作するのはボク。


これのメリットは、しんどさや痛みを感じないで済むところだ。

寝ながら自分を操作して身体を鍛えられたらラクで良いのにって考えたことはないだろうか?まさにそれだ。

バルを発動していても、俺自身の意識があるので魔法も使える。

バルを解除する前に回復魔法で治しておけば、ボクは何も感じない。


デメリットは、まだまだ細かいことが出来ない。


洗顔をバルにしてもらおうと思ったけど、顔をゴシゴシ擦って水もビチャビチャになってしまうことがわかった。力加減って難しいんだね。


「ふぅ~良い時間になったな」


運動と魔法を同時に鍛錬できるバルは大発明だと思う。


自分の部屋に戻ったボクはシャワーを浴びて洗顔、化粧水、乳液を済ませる。


そして、ここからがボクにとって至福の時間だ。


どうして大商店マイドに行ったのか?そこにしか売っていない大発明があるからだ。


それこそ【魔導ドライヤー】!!!

これが無ければ髪をさらさらに保つことが出来ない。

セットをすることも、イケメンを維持することもできない。


温風と冷風を小さな魔導具の中に詰め込んだ夢の発明に感謝したい。


これが発明されるまでは自然乾燥で、髪の毛のはねを気にしていたけど、今では櫛がスッと通るようになった。


「椿オイルはまた夜に」


ここまでの用意が終わって制服に袖を通すと……


「リューク様。そろそろ起床のお時間です」

「ああ。今出るよ」


リベラが起こしにやってくる。

最初は着替えも手伝おうとしてきたリベラに、制服を着て出ると……


「あっ、ご自分で着られたのですね」


物凄く残念そうな顔をされた。

まぁ、シロップにも最初だけで途中から自分で着ていくようにしたら同じ顔をされた。


「はいはい。朝食を食べに行こうか」

「はい!」


寮の朝食は、食堂で自由に食べられるバイキング形式だ。

シェフはいないのかって?はは、貴族の一部が自分用に連れている子もいるけど、基本的には寮で用意される食事はバイキングだよ。


「姉様、おはようございます」


食堂に行くと、VIP席で姉様が紅茶を飲んでいた。

低血圧で朝は機嫌が悪い姉様は、朝食を取らずに蜂蜜ティーを飲むのが定番である。


「ええ。おはようリューク。リベラ女史もおはよう」

「アイリス様、おはようございます」

「リューク、あなたはしっかりと食べないとダメよ」


学校に来るようになって知ったが、姉様は気づかいが出来る人だった。

家に居るときはあまり話をしたこともなかったけど、学校に来ると兄様や父上がいないからか厳しさが減って優しい一面を見ることもある。


「はい、姉様。リベラ、行こう」

「はい。アイリス様失礼します」

「ええ」


カリンも朝は弱いので、ボクが朝食を食べ終える時間になっても降りてこない。

また夜に会えるので、リベラと朝食を食べて学校へ向かう。


これがボクのモーニングルーティンで、結構忙しい。


年老いたら今のルーティンは止めるかもしれないけど、そのときでも健康的な身体は維持したいと思う。

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