第27話 ステータス

 入学式で行われたチュートリアル戦。

 あれのお陰でボクへ向けられる視線が決まった。


 マーシャル公爵家派閥の者たちからは嫌悪と敵意を含んだ視線。

 デスクストス公爵家派閥の者からは尊敬と崇拝を表すような視線。

 王女やそれ以外からは、興味はあるが話しかけるのを躊躇う視線。


 互いの派閥により、教室の中は少しばかり殺伐とした雰囲気を保っている。

 敵意をもっている相手でも、ボクが教室に入って視線を向けると焦って視線を逸らすので問題にはならない。


「脅しの効果が出ているようだな」

「どうかしましたか?」

「いいや。そんなことよりも今日は後で時間あるか?」

「はい。あっ!魔法を試させてもらえるのですか?」

「あ~それもあったな。でも、今回は別件だ」

「え~」


 口を尖らせて拗ねるリベラはなかなかに可愛い顔をしている。

 カリンと比べれば、身体はまだまだ発展途上ではあるが、顔は十分にトップクラスでさすがはヒロインの一人だ。


「また今度な」

「わかりました。それではどのような用事で?」

「ああ、ちょっとマジックウォッチの検証をしようと思うんだ。付き合ってもらえるか?」

「もちろんです!魔導具の検証は私もするつもりでした。面白そうです」


 リベラと検証の約束が出来たので、俺は今後の授業計画を組むことにした。


 基本的にアレシダス王立学園の授業は自由選択制になる。

 好きな教科を選択して授業を受けるため、様々な分野が勉強できる。

 ただ、基本学科がいくつか存在しているので、基本学科からテストなどの出題がなされる。


 貴族や騎士は、魔法や実技にばかり重きをおく者が多いので、基礎的な知識を学ばせるための処置だ。


 このとき、主人公であれば……


 勉強系を重点的に強化していくと……特待生や商人と仲良くなりやすく。


 特待生や商人はランキング戦ではそれほど活躍できない。

 ただ、ランキング戦で負けてクラスダウンをしても、学科と魔法のテストが行われる度にクラスアップしてくるので、ゲーム的にはいつの間にかヒロインが0クラスに戻ってきていることがある。

 攻略したい場合は、チームを組んでランキング戦のときに守ればいい。

 そうすることで0クラスから落ちることなく仲良くなるタイミングが増えるのだ。



 魔法系を重点的に強化していくと……王女や魔女っこと仲良くしやすい。


 実際は、王女を攻略するためにはランキング戦で王女を倒す必要があるので、魔法と実技の能力を上げておかなければ勝つことはできない。

 そのため魔法系を重点的に強化すると、リベラ一択ということになる。



 実技系を重点的に強化していくと……公爵令嬢や冒険者と仲良くしやすい。


 公爵令嬢は元々好感度が高いので、そのまま鍛えて週末なども一緒に過ごすだけで攻略出来てしまうチョロインだ。

 逆に冒険者は仲良くなれるが、攻略するためには王女と同じく、ランキング戦だけでなく剣帝杯で勝利して強さの証明をしなければならない。


 このとき相談役としてシーラス先生に相談し続けていると、攻略ルートに入れるというわけだ。


 とまぁ主人公ではないボクには関係ない思考を働かせてしまった。


 今後の活動を決める大事な授業決めをどうするかということになるが……まず大前提として動くのは無し。実技系は一切選ばない。


 テストもないので、無視してオールオッケー。


 勉強系は本を読むのと一緒で話を聞くのは面白そうだが、基礎的な授業で十分な気がする。

 やっぱり興味があるのは魔法、快適さを追求するためには、ボクが知らない知識を学べることが大事だな。


「決まりましたか?」

「ああ、魔法学と魔導具学を主にして、後は基礎授業で埋めた」

「ふふ、一緒ですね。私もリューク様と同じ内容です」


 ボクの選択を聞いてリベラが嬉しそうな声を出す。

 やっぱり魔法を勉強するとリベラと仲良くなる。


 この教室で仲良く話してくれるのはリベラだけだ。

 本来のキモデブガマガエルのリュークには二人の手下がいた。

 今のボクにはリベラがいて、関係性は皆無だがふと視線を向けてしまう。


 一人はズル賢そうな伯爵子息タシテ・パーク・ネズールで、ネズミのような顔をしている。身長が低くて魔法と学科は得意だけど、実技が苦手なキャラだ。

 狡賢い頭脳と、意外に便利な属性魔法を使うため敵としては弱いが、面倒な相手として出現する。


 もう一人は子爵家のご令嬢ヒメーノ・グッ・ゴウマン。

 キモデブガマガエルのリューク君にとっては愛人候補だ。

 こちらは実技が得意で、学科が苦手、魔法は普通程度。

 オデコが広くて可愛い顔をしているが、リュークの金銭が目当てな小悪魔ギャルキャラだな。


 リベラが甲斐甲斐しく世話をしてくれるので、二人との接点はない。

 同じ派閥の友人同士で仲良く過ごしている。

 友人を含めた四人がデスクストス公爵家の派閥に属している。


 ボクが本来の悪役貴族メンバーに視線を向けていると、リベラが覗き込んできた。


「どうかされましたか?」

「いや、何もないよ」

「そうですか、それでは個別練習室に行きましょうか」

「個別練習室?」

「はい。知りませんか?我が校の敷地はとても広く、様々な施設があります。

 0クラスは全ての施設を優先的に利用できます。

 例えば、今から向かう個別練習室は、個人が静かに勉強や魔法の訓練したいときに、そのための部屋を学校側が用意してくれているのです」


 0クラスが学校の様々な施設を優先的に使えるっていうのはこういうことなのか……


「わかった。行こうか」

「はい」


 教室を出て、個別練習室に入る。


 個別練習室は、予約制らしいのだが、0クラスと言うだけで優先的に使うことが出来る。

 扉を締めると異空間になっているのか、かなりの広さがあって魔法だけでなく実技の練習も出来そうな部屋だった。


「ここで勉強するのか?」

「はい。ここは魔法陣で空間を広げています。本来は……」


 リベラが魔法を唱えると、異空間といった感じを受けた部屋が、机が二つ並ぶ小さな個室へと変わる。


「おお、これなら落ち着いて勉強ができそうだな」

「ふふ、凄いことが出来るのに、こういうことは知らないんですね。リューク様は不思議です」


 リベラに笑われてしまった。

 ボクは部屋の中を見て、床に描かれた魔法陣を見る。


「へぇ~こんな魔法の使い方もあるのか……凄いな」

「やっぱりリューク様も魔法好きですね。魔法陣は魔法を定着させるために必要なんです。上手く書けなければ発動しませんので、絵を書く才能もいるんですよ」


 魔法は便利ではあるけれど、使うためには努力が必要になることが多い。

 無属性魔法は、魔力に頼る部分が多いが発想力や創造力がなければダメ。

 属性魔法は、固定魔法のおかげで使いやすいが、応用するためには練習が必要だ。


「魔法は奥が深いな」

「はい!だから面白いのです!」


 魔法狂いのリベラがスイッチを入れてしまう前に話題を変えよう。


「じゃ今日の目的だ」

「はい。マジックウォッチの検証ですね。それでは私の分を紙に書きますね」


 名前:リベラ・グリコ

 年齢:15歳

 レベル 4 

 魔物討伐数 36体


 所属、0クラス


 実技評価 C評価

 学科評価 B評価

 魔法評価 S評価


 成績ランキング 7位


 取得魔法


 無属性魔法


 ・生活魔法

 ・強化魔法

 ・支援魔法


 属性魔法


《水》魔法


「成績ランキングは7位か、凄いな」

「そうでしょうか?リューク様は2位ですよね?」

「ああ、まぁそうだな」


 属性魔法が《水》であることも意外だった。

 自然系ではあるが、《水》は発現率が高いので希少魔法には分類されていない。


属性魔法に驚かれましたか?」

「正直、驚いた。リベラなら応用もたくさん出来そうだから、使い勝手が良さそうだ」

「はい!そうなのです!《水》は使いやすいと思っています。攻撃や防御、支援にも応用が利くのでこれからが楽しみです」

「うむ。俺のも見せておくか」


 名前:リューク・ヒュガロ・デスクストス

 年齢:15歳

 レベル 1 

 魔物討伐数 0


 所属、0クラス


 実技評価 A評価

 学科評価 B評価

 魔法評価 S評価


 成績ランキング 2位


 取得魔法


 無属性魔法


 ・生活魔法

 ・強化魔法

 ・支援魔法

 ・回復魔法

 ・???


 属性魔法


《睡眠》魔法

《怠惰》魔法



「これは!!!よろしかったのですか?この属性魔法は秘匿されるものですよ!」

「まぁマルさんは知っているし、国には登録されているからな。リベラが学園内で話さなければ問題ないさ」

「かしこまりました。ですが、これならばダンを一瞬で寝かせた理由がわかります。それに???はなんでしょうか?」


 ボクも気になっていた。


 詳細が見えるマジックウォッチを操作する。


 ???=登録されていない魔法。解析不明。


「ああ、なるほど。リューク様のオリジナル魔法ですね。マジックウォッチでは判断できないのですよ!」

「バルのことか!う~ん、正体不明の魔法をもっていることはわかるから凄いのか、解析できないからダメなのかよくわからないな」

「マジックウォッチもまだまだ進化していくものです。これからに期待ですね」


 ボクらは互いのマジックウォッチを見ながら詳細を確かめて語り合った。

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