第25話 夕食は最高級の料理にデザートを添えて
主人公ダンとのチュートリアル戦は思った以上に得るものがなかった。ダンは弱くて相手にならないし、ヒロインたちからは敵視されただろうし、めんどうなことばかり、本当に無駄でしかない。
ゲームの強制力が働いたのだろうけど、金輪際かかわらないでほしい。
ハァー、リンシャンが発した捨てセリフを聞いた以上、ダンとの戦いは回避できないんだろうな。
本来のシナリオなら、チュートリアルで勝利したダンに対して、リュークが半年に一度の挑戦を仕掛けていく。
チュートリアルはリュークが負けることが決まっている戦いだった。
だけど、決定事項と言える事象を覆すことが出来た。
それは、今までしてきたことが無駄ではなかったことを証明できたことになる。
「これからは、平穏無事な学園生活が送れればいいんだけど」
夜景の向こうに見える校舎は、これからの憂鬱な出来事が待ち受けているかのように、不気味な雰囲気を醸し出している。
「そんなところで何をしているんですか?」
夜風に当たりながらテラスで考え事をしていると、本日の功労者に声をかけられる。
「久しぶりに食べる君のご飯が美味しくてね。食べ過ぎてしまったから、休憩だよ」
「ふふ、それはよかったです。リュークが食べてくれると思って、腕によりをかけて作りましたからね」
グラスを持って現われたのは、ボクの婚約者カリン。
ホールは、黒の貴族寮と呼ばれており。
宰相家の派閥のみが住んでいる。
そこに住んでいる寮の中で、皆が入学祝いをしていた。
先輩方から、有難いお言葉を新入生たちが聞いているところだ。
主催者は姉様で、ボクも新入生代表の挨拶を済ませた。
「本当に君の料理は他の誰よりも美味しくて元気が出るね」
「ふふ、そんなに褒めないでくださいませ。調子に乗ってしまいますわ」
「調子に乗って良いと思うよ。料理の腕だけじゃなくて、飲食業の経営や、ダイエット食品の開発も力を入れて、凄い功績を作っているんだからね」
ボクは茶目っ気たっぷりに彼女を褒め称える。
「もう、それも全てリュークの助言があったからではありませんか」
「そんなことはないよ。綺麗になりたいと言ったのはカリンだからね。
ボクは知恵を少しばかり貸しただけさ。
その知恵を活かしたのも、それを商売に昇華させたのもカリンだし、カリビアン家の功績だよ」
そう、あの日……綺麗になりたいと言ったカリンにバルを使った健康ダイエットを提案した。
その際に食事に関しての助言も行った。
健康的に美しくダイエットを行う。
そのために必要なものは美味しい食事であると……栄養学の話を軽くしただけで、カリンはダイエット食を開発した。
カリン自身が成功したこともあり、女性だけが入れるレストランを作り、限定で食べられる飲食店まで始めた。
カリビアン伯爵は、カリンの料理の才能を商売に活かす方法を思いついた。
激甘料理かワインに合う味の濃い料理が多かった飲食店業界に【ヘルシーで美味しい料理】を提供するレストランの展開を始めた。
王都に住まう貴族だけでなく、平民のご婦人方たちの心を掴んだというわけだ。
いつの世も、女性が美しさを求めることに限りはないね。
それだけで終わらないのがカリビアン伯爵。
ダイエットに成功したカリンを看板モデルにして、ダイエット企画や、運動方法を伝授するエステサロンの経営までするようになった。
カリビアン伯爵の商売意欲の素晴らしさには頭が下がる。
「そうやってご自分のことを誇らないのはいけませんわよ。私だってリュークのことを褒めたいのです」
「ボクのことはいいんだよ。前にも言っただろ?カリビアン家に富を集めてボクを養ってほしいって」
「ふふ、そんなことを言ってしまう貴族の男性はあなただけです。それが本気なのですよね?」
「もちろん」
彼女と過ごした三年間、ボクたちはたくさんの話をした。
自分が家族から無関心にされてきたこと。
シロップだけがボクの味方であり、家族であること。
怠惰で快適な生活を目標にしていること。
そして、カリンの料理に惚れ込んでいることを伝えてある。
「私は料理だけですか?」
身長は、この三年でボクの方が高くなり、可愛い婚約者様が見上げるほどになった。
ただ、見下ろした婚約者様の胸部は脅威と言わずにはいられないほど成長されており、ボクは自分が怠惰であると言う自覚はあるものの、性欲がないとは言っていない。
「もちろん、今ではカリンを心から愛しているよ」
女性として、魅力的な成長を遂げたカリンの腰へ、そっと手を回して抱き寄せる。
「いけませんわ。皆さんがホールにおられます」
「じゃあ、今日はカリンの部屋に泊まってもいい?」
「結婚前の男女ですのよ」
彼女が年上の女性としてボクを窘める。
ならばと、ボクは彼女の前で膝を着く。
「例え、公爵家が潰れようと、伯爵家が潰れようと、ボクにとっては家よりもカリンが大切なんだ。
もう君無しでは生きていけない。
どうか君の側にいさせてほしい」
「まぁ……そこまで言われてリュークを拒める女性はいないです。悪い人」
カリンはそう言ってボクの胸に飛び込んできた。
ボクはバルを出現させて、カリンを抱きしめたまま、夜の散歩へと飛び立つ。
絨毯ではないけれど、二人が乗ってもクッションは快適な寝心地を提供してくれる。
「久しぶりですね。夜のお散歩」
「空だけはボクらを縛らないからね」
「ふふ、シロップさんだけは許しますが、他の女性と散歩をしたら嫉妬しますよ」
「う~ん、状況によるだろうけど、命に関わらない限りは君とシロップ以外は一緒に乗らないことにするよ」
二人はしばらく夜の空を楽しんで、カリンの部屋へと姿を消していった。
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