第24話 エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス
【Sideエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス】
私の名前はエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスと申します。
アレシダス王国第一位王女として、この度アレシダス王立学園に入学することになりました。
私は、王族として最高の教育を受けてきたこともあり、首席合格を果たしたと学園側から連絡を頂きました。
「エリーナ王女よ。入学おめでとう」
「ありがとうございます」
王国の学園長をされている叔父様に挨拶に参った私はお茶を共にすることになりました。
「さて、今後の学園生活ではあるが、なかなかに優秀な者が集まった」
「どういうことでしょうか?」
「ふむ。エリーナには教えてあげよう。今回、君はどの教科でも一位を取れてはいないんだ」
「えっ?」
首席合格と聞いていた私は、三学科のどれかで一位を取ったのだと思っておりました。
「実技試験一位は、冒険者ルビー君じゃ」
実技試験は、さすがに一位は無理だと思っていました。
私には昔なじみであるリンシャン・ソード・マーシャルがいるからです。
猪武者と言えば彼女は怒るでしょうが、騎士の家系に生まれた彼女は幼い頃から、自身を鍛えていたため、魔法を使わない実技のみにおいて私では彼女に勝てません。
ですが、そんな彼女を越える逸材がいたことに驚いてしまいます。
「学科一位は平民出身のミリル君じゃな。平民ということもあり、今回は特待生として受け入れておる」
名も聞かない平民の子に負けたことに、私はスカートの裾を掴んで悔やみました。
「フォフォフォ、悔しいと思うことはいいことじゃ。
伸びる可能性を秘めておるということじゃよ。
最後に魔法試験の一位はリベラ・グリコ君じゃ。
魔法省に父を持つ子じゃよ」
三人とも同性だと聞いて、負けた悔しさが強まりました。
必ず学園で雪辱は晴らさせてもらう楽しみが出来ました。
「エリーナは、実技三位。学科三位。魔法三位じゃ。十分に優秀であり首位合格じゃよ。これからのエリーナには期待しておるよ」
学園長先生の部屋を退出した私は奥歯を噛みしめました。
王族である以上、他者から侮られるわけにはいきません。
「必ず、首位は譲りません」
入学式で首席合格者として挨拶するように言われ、壇上に立ちました。
「首席合格を果たしましたエリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスです。
それぞれの試験では一位にはなれなかったと連絡を受けております。
そんな私がここで話をさせてもらうことは申し訳ありませんが、選ばれた限りは全力で務めさせていただきます」
自分で伝えることで、アレシダス王立学園のレベルの高さを生徒達に伝えます。
話をしている間、私から生徒の姿が一人一人見えています。
その中で、高位貴族に用意された座席で居眠りをする一人の男子生徒が目に入りました。
今回、男性で高位貴族として入学してくる最高位はデスクストス公爵家の者です。
そんな高位貴族が王族の話を聞かずに居眠りをしている行為に、怒りを通り越して呆れと失意がわいてきました。
あのような者が公爵家に属しているなど、アレシダス王国も貴族を見直すときがきたのかもしません。
話を終えた私が壇上を降りて、学園長先生が入学式を締めくくりました。
入学式を終えると教室でオリエンテーションが行われるため、0クラスの教室に入り、先生の説明を聞いていました。
ランキング戦の話をしている途中で、リンシャンの騎士が挙手して立ち上がりました。
「俺の序列は20位だ。このクラスでは一番下ということになる」
リンシャンの騎士が、デスクストス公爵子息にランキング戦を申し込みました。
私としては、入学式で話をしている時に居眠りをされた恨みもあるので、公爵家の者が騎士に叩きのめされる光景を見たいという気持ちが少しばかりありました。
「俺と勝負してもらう。リューク・ヒュガロ・デスクストス」
「なぜ?ボクは面倒なことはしたくないなぁ~」
まさか!王国貴族が戦いを申し込まれて拒否するなど、プライドがあればありえない!
「はっ、怖じ気づいたのか?」
私は信じられない者を見るように、デスクストスを見ました。
「ハァ~。ねぇ、君とランキング戦するメリットがボクにはないんだけど。
君は確かに成績ランキングを上げられるけど。
ボクにメリットがないのにどうしてしないといけないの?
そんなこともわからないバカなの?バカの相手はしたくないんだけど」
挑発に挑発で返しているように見えてはいますが、結局戦いは嫌だと言っているだけです。
それでは貴族としてのプライドは守られません。
「きっ貴様!栄えあるアレシダス王国の貴族ならば、仕掛けられた戦いを受けるのが当たり前だろ!」
「ハァ~、なら君が相手をしてあげれば?ボクはめんどうだからパス」
これほどまでにやる気も、プライドもない貴族を私は初めて見ました。
この男はどこまでアレシダス王国貴族を辱めれば気が済むのでしょうか?リンシャンではないですが、怒りから席を立ちました。
「実技成績上位者のダンさんと、魔法成績上位者のデスクストスさんのランキング戦は誰もが見たいところです。
デスクストスさん。
学園のルールに従い個人成績下位の者が上位の者に挑む形でのみ成立します。
拒否権は上位者にないと思います。
また、貴族の義務として民を導く者であるべしという言葉もあります。
貴族として拒否することは許されませんよ」
彼の逃げ場を奪う発言をして、拒否できないようにしてしまう。
「わかりました。アレシダス様のおっしゃられるがままに」
物凄い溜息と嫌そうな顔を私に向けて同意を示しました。
この私に向かって、あのような態度を取る人は初めてです!なんと無礼な!
相当に弱くて負けるのが嫌なのでしょう。
私は、彼が負ける姿を想像して笑ってやろうと決めました。
「開始」
先生が開始の合図をした瞬間。
デスクストスは、素晴らしい体術を持って騎士を圧倒してみせました。
それはダンスを踊るように美しく、戦いに見惚れてしまうほど強かったのです。
マーシャル家お抱えの騎士の動きも悪くありません。
悪くはありませんが、大人と子供が戦うほどの技量差があるように感じられます。
「チェックメイトだ」
彼が終わりを告げると、騎士は意識を失ってしまいました。
決着かと思っていると、デスクストスは意識を失った騎士を、何かしらの魔法で闘技場の天井近くまで浮き上がらせました。
「なっ、何をするつもりだ!!!」
リンシャンの叫び声。
「勝者 リューク・ヒュガロ・デスクストス!デスクストス君。ダン君を下ろしなさい!!!」
先生の声に焦りが交じっている勝利者宣言。
もしものことを考えて、私は魔法を放つ準備をします。
「いいですよ」
デスクストスは一切ためらうことなく、魔法を解除しました。
リンシャンの騎士が落下していく。
「キャーー!!」
魔法を発動させようと魔力を流し始めて、別の魔法がリンシャンの騎士が落ちる地点に仕掛けられていることに気づきました。
私は気づいて魔法を止める。
しかし、魔法は発動されることなく、先生が空中でリンシャンの騎士を受け止めました。
「なっ、何をする!この卑怯者!ダンは意識を失っていたんだぞ」
リンシャンは魔法に気づいていないようです。
正式なランキング戦を行った後の出来事で、デスクストスを罵る行為は些か品位に欠けていますね。
「ボクにランキング戦を挑んだのだろう?それくらいの覚悟は持ってもらわないと困るが?」
デスクストスは視線をランキング戦を見ていた私たちへ向けました。
「他の者たちも腕に自信があるなら、ランキング戦を受けてやる。サービスだ!」
今、戦ってデスクストスに勝てると思う者はいないでしょう。
私は視線こそ外しませんでしたが、奥歯を噛みしめました。
「なんだ?誰もいないのか?戦闘を行って疲れているかもしれないぞ?」
デスクストスは興味を失ったように大きな息を吐いて顔を上げました。
「ボクは知識を持つ者を尊敬する。魔法を追求する者も尊敬する。
だが、力だけのバカを嫌う。
こいつのような野蛮人ならば、ランキング戦で二度と再起できないようにしてやろう。待つのもあきた。ボクに挑む者は当たり前の明日があると思うな……わかったか?」
この場にいる者はデスクストスの悪態に反論できない。デスクストスの言葉に、強さに、飲み込まれた。
宣言を終えたデスクストスはリベラ・グリコを伴って闘技場を後にする。
「かっ、必ずダンがお前を倒す!覚えておけ!」
リンシャンの言葉に応じることなく、デスクストスは闘技場を去り、クラスメイト達は一斉に息を吐いた。
呼吸することも忘れるほどの圧倒的な強さを彼は示した。
あまりにも鮮やかで、相手を傷つけることなく圧倒した実力。
敵を残忍に傷つける容赦の無さ。
動きに無駄がなく、彼がどれだけ鍛錬を積んできたのか一目で分かってしまう。
負ける姿を笑おうと思っていた自分を戒め、彼の元へ向かう。
「少し、良いかしら?」
これまでの私の態度も悪かったと思うが、彼から向けられる視線は凄く嫌そうだった。
「なんですか?王女様」
「王女様ですか……エリーナで結構よ」
「そうですか。じゃあ、ボクもリュークで結構。それで?何か?」
「王族である私にそこまで鬱陶しそうな顔をする人はあなたぐらいよ」
やる気がない。
プライドもない。
鍛錬を重ねた者だけが使える体術を披露して。
魔法の才能は私以上。
彼の態度には、実力が伴っている。
「あなたの実力、見せてもらったわ。ちゃんと努力しているのですね。見直したわ」
「それはどうも」
「お兄様からテスタ様の話は聞いていたけど、デスクストス家にはあなたもいることを認識させてもらったわ。
素晴らしい戦いを見せていただきありがとうございます。それだけを言いに来たの」
兄は、デスクストス公爵家のテスタ様とマーシャル家のガンツ様が優秀だと言っていた。
だけど、同い年にもいるじゃない……リューク・ヒュガロ・デスクストス、覚えておきましょう。
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