第10話 怠惰に必要なもの

鑑定を受けてから属性魔法の訓練を始めている。


分からないことがあると、マルさんに質問できるので、前よりも魔法への理解が深まってきた。


無属性魔法は、魔力を様々な形へ変化させるイメージでよかった。

だけど、属性魔法は決められた属性を魔法として使うため、無属性魔法とはルールが違う。


ボクの属性魔法【睡眠】と【怠惰】は、理解すればするほどチート魔法だった。使うための訓練が重要だ。

今後のボクにとっては素晴らしい力になってくれる。


初めて鑑定を受けた日、理解できたのは属性魔法には固有魔法と呼ばれる基礎的な魔法がいくつか存在するということだ。


例えば、【火】を授かった子には……


・点火

・ファイヤーボール

・ファイヤーアロー


という三つの固有魔法が使えるとする。


点火は指先に火を灯し。

ファイヤーボールは、灯した火をボールのように固め。

ファイヤーアローは、灯した火を矢のようにして飛ばす。


つまり、


点火は火を発現させる、着火を覚える初歩魔法。

ファイヤーボールは、魔力を練って固める訓練をするための初歩魔法。

ファイヤーアローは、魔力を飛ばすための初歩魔法。


それらを学ぶことが出来るということだ。


ボクが習得した【睡眠】の場合で例えるなら


スリープ

スリープタイム

スリープデリート


スリープは触れている対象を眠らせる。

これは自分にもかけることが出来て、眠らせる時間はランダムだ。

寝る時間はその人によって異なる、込める魔力によって睡眠の深さや長さも変わるようだ。


スリープタイムは、触れている対象を眠らせる時間を指定出来る。

8時間と設定すれば、何をしてもその人は絶対に8時間は起きない。

つまり殺されても、痛みを感じても起きることが出来ない。


スリープデリートは、スリープを仕掛けた相手や、普通に寝ている人を強制的に起こすことが出来る。

強制睡眠妨害が出来るということだ。

なかなかに意地悪な魔法だと思う。


これだけ聞いてもチートだと分かってもらえただろうか?

もちろん、魔法には魔法耐性や妨害魔法が存在するので、防がれて失敗することもある。

はたして初見で【睡眠】を妨害しようと考える人がいるだろうか?意味がわからないと思う人の方が多いと思う。


【怠惰】にいたっては何が起きたのか理解できないかもしれない。


しかも、今説明したのが基本的な固有魔法であり、そこから応用や発展魔法も作り出すことが出来る。


すでに、ボクは一つの応用魔法を思いついた。


それは離れた対象を眠らせるスリープアローだ。

ファイヤーアローがあるのだから、スリープアローがあってもいいじゃないか。

わざわざ触れると言うことは、ボクが動かなければならない。

だからわざわざ動かなくても眠らせられる方法を考えたというわけだ。


スリープの魔法を矢として飛ばした際に、アローに当たった人を眠らせてしまう。


テスト中に先生を眠らせてしまえばカンニングをやり放題だ。


属性魔法の実験に明け暮れていると時間が足りない。


料理はシロップと交代でしているので、その時間がめんどくさい。

全てシロップに押しつけることも出来るが、シロップはあまり料理が上手くない。

メイドとして掃除や洗濯、ボクのお世話は完璧なのだが、料理だけはなかなか上達しない。


今後の課題ではあると思っているが、シロップ以外で信頼出来る人がボクのために料理を作ってくれないだろうか?


家族が信用できなくて、シロップ以外の働く者たちも信用していないボクとしては、なかなかに難しい課題である。


そんなことを考えながら軽い運動をして汗を流した後に、水浴びをしているところ……


「このまま誰とも会えないで、死んでしまうのでしょうか?」


不安そうな女の子の声が聞こえてきた。


「誰?誰かいるの?」

「えっ?人?」


水浴び中はシロップも側には近づかないので、声がしてビックリした。

現われたのはふくよかな体型ではあるけれど、可愛らしい容姿をした女の子だった。


「あわわわわ」


ボクが上半身裸でいることに慌て始める女の子。

服装からして、どこかの令嬢だと思う。

アイリス姉さんの友達かな?


「お姉さんは姉様のお客様かな?」

「姉様?」


最近のアイリス姉様は自分の派閥を作るために、貴族の令嬢を招いてお茶会をしている。

本編でも、悪役令嬢として出現する姉様は厄介な敵とし出現する。

属性魔法も強力なので、倒すのに苦労するのだ。


お茶会に来ている令嬢の一人が迷い込んできたのかな?ボクはタオルで身体を拭いて彼女の顔を見る。


「アイリス様の弟君ですか?」

「うん。ボクはリューク・ヒュガロ・デスクストスだよ」


なんだか動き一つ一つが大げさで面白い人だ。


「わわわわわあっわわわわわわ、私はカリン・シー・カリビアン伯爵令嬢と申します」


いきなり土下座した。なんで?


「ふふ。カリンお姉さん面白いね」


あっ?目の色が変わった。

好意を持ってくれているのかな?

悪い子ではないと思う。

でも、どうして土下座しているんだろう?


昔から、家族から無関心な瞳を向けられていたので、相手の好意や悪意などに敏感になってしまった。

好意的な目を向けてくれるなら別に見てくれてもいいのに。


「ねぇ、お姉さん。お姉さんも貴族なら属性魔法を使えるの?」

「はっはい!使えます!」

「ボク、魔法が好きなんだ。見せてくれる?」

「もちろんです!喜んで!」


ボクがお願いすると嬉しそうに立ち上がって、次の瞬間には目の前でスカートがまくり上がった。

何が起きているのかわからなくて唖然としてしまう。

いつの間にか彼女の前には食材と鍋が用意される。


「うわ~、凄く元気になった」


変貌ぶりに驚いてしまう。

鍋はどこから出したのかな?


「えっ?今、どこから?」

「あっあの、魔法を使いますので、どうか服を着てくださいませ」

「あっごめんね」


言われるがまま、水滴をタオルで拭き取り服を着る。


「私の属性魔法は【料理】ですわ」

「【料理】?属性魔法で器具を出したの?」


調理を始めると、動作一つ一つに淀みがなくて洗練されている。

本当に料理が好きな人なんだ。

魔法がカリンお姉さんの能力を引き上げているのかな?


「ムーンラビットのスープを作りました。どうぞ召し上がれ」

「うわ~、美味しそうな匂い。いただきます」


属性魔法で作られた料理に興味があったから、ボクはすぐにスープを飲み干した。

ヤバっ!美味い。

この世界に来てここまで美味しい料理は初めて食べた。


「美味しい。それにこれはバフ効果かな?うん。これは凄い」


料理を食べた身体が熱くなってくる。

凄く身体が軽くなっているのに力は漲っている。

これはバフ効果の含まれた料理なんだ。


「ねぇ、カリンお姉さん」

「はっはい!」

「ボクが大人になったら、ボクのために毎日スープを作ってくれない?」


彼女を手放してはいけない。


ボクの言葉に戸惑ってはいるけど嫌そうじゃない。


伯爵家ってことは、公爵家が取りつぶしになっても、彼女の家ならお金持ちだし養ってもらえるかな?それに毎日美味しいご飯も食べられて、怠惰な未来のために絶対彼女は必要だ。


「ボクと結婚してよ」


ボクは伯爵家に婿入りします。

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