第9話 奇跡の出会い

【Sideカリン・シー・カリビアン】



私はカリン・シー・カリビアンと申します。


私の趣味は料理です。

美味しい物を食べたとき、人は幸せを感じられるのです。


我が領は海と面していることもあり、お父様は海運業をされています。

外国からの珍しい食材や調味料を仕入れては、王国で販売しております。


亜人達の中には海に強いマーメイドと呼ばれる種族がいて、私たちは彼らを労働者として働いてもらっています。

もちろん、ちゃんとした給金をお支払いして蔑むようなことは絶対に致しません。

彼らは私たちの家族であり、私たちにとって友です。


家ではとても楽しい毎日を送っていて、そんな私には憧れの友人がおります。

彼女の名はアイリス・ヒュガロ・デスクストス公爵令嬢様ですわ。


彼女は幼い頃からとても愛らしい容姿をしておられて、私は彼女にあった瞬間、奇跡の出会いをしたと確信しました。


同い年とは思えない美しさ。

人を引きつけるカリスマ性。

何事も優雅に出来てしまう知性。


全てが完璧なお嬢様で、私の憧れの人です。


そして……彼女の兄であり、テスタ・ヒュガロ・デスクストス様はいつも研鑽を止めず、凜々しく整った容姿をされた私の初恋の人です。


ですが、12歳になった私は自分で鏡を見るのも嫌なほど醜く太ってしまいました。

これではテスタ様に選んでもらうことも、アイリス様の横に立つことも出来ません。


自分でも気にしているところへアイリス様から……


「カリン。美味しいのだけど、最近のあなたは見るに堪えないわ」


私は料理が得意です。

本日もアイリス様に喜んでほしくてマフィンを作ってきました。

憂いをおびた顔で、溜息ばかりついているアイリス様を元気づけようと思っておりました。


ですが、アイリス様から私に対してご指摘を受けました。


「えっ?」

「ご自分で、もうわかっているのではなくて?」


お茶会の席でアイリス様が私の容姿のことを言われていたことに、すぐに気づきました。周りの令嬢様方からも私を笑う声が聞こえてきます。

あまりのショックで涙を浮かべて、お茶会から走り去ってしまいました。


公爵家の敷地はとても大きくて広いので、泣きながら走っていた私はどこか知らない場所へと迷い込んでしまいました。

誰かに助けを求めるために、道を聞こうにも誰もいません。

アイリス様に言われた言葉が何度も頭を反芻して涙が浮かんできます。


「このまま誰にも会えないで、死んでしまうのでしょうか?」


不安と悲しみで途方に暮れる私は悪い方向に気持ちが傾いてしまいます。


「誰?誰かいるの?」

「えっ?人?」


助かるかもしれないと思った私は、男の子の声がした方へ向かいます。


そして、息を飲むことになりました。


男の子?のはずなのに、とても美しく綺麗な肌。

引き締まった身体に、輝きと柔らかさを感じる髪質。


「あわわわわ」


マーメイドの男性たちは鍛えられた褐色の肌で、彼らの裸を見ても何も思いませんでした。


それなのに……目の前の少年の肌は、白く綺麗な裸で。

穢してはいけない、見てはいけないと……目を背けてしまいます。


ですが、チラリと見た身体は彫刻のように美しく。

私のような醜い者が見て、穢してしまったでしょうか?


「お姉さんは、姉様のお客様かな?」

「姉様?」


姉様と言われてアイリス様の顔が浮かびました。

私の胸が締め付けられる苦しみが支配します。

それでも、どうにか彼の身体を見ないようにしながら、顔を見ようとして私は驚きました。


彼の顔にはどこかアイリス様の面影があり、似ているところがあります。


「アイリス様の弟君ですか?」

「うん。ボクはリューク・ヒュガロ・デスクストスだよ」


あわわわわ。尊い!!!


リューク様はテスタ様とは対照的な男の子でした。

寡黙でいつも厳しい顔をされているテスタ様。

相反して陽だまりのように暖かな笑みを浮かべるリューク様。

天真爛漫な声で、私に自己紹介をしてくださいます。

身体だけでなく、お顔すら見てはいけない。

私のような醜い者が彼を穢してはいけないのです。


「わわわわわあっわわわわわわ、私はカリン・シー・カリビアン伯爵令嬢と申します」


なんとか自分の名を口にすることが出来て、彼を見ないように地面に向かって頭を下げました。


「ふふ。カリンお姉さん面白いね」


ハゥッ!!!私の奇怪な行動を笑ってくれるリューク様……好き。


「ねぇ、お姉さん。お姉さんも貴族なら属性魔法を使えるの?」

「はっはい!使えます!」


何故か平伏したままの私にリューク様が屈んで話しかけてくれます。


「ボク、魔法が好きなんだ。見せてくれる?」

「もちろんです!喜んで!」


自分の得意分野で話が出来るなら私は誰にも負けない自信があります。


「うわ~、凄く元気になった」


私はスカートの中に隠し持っていたポーチから食材と鍋を用意しました。


「えっ?今、どこから?」

「あっあの、魔法を使いますので、どうか服を着てくださいませ」

「あっごめんね」


リューク様は身体をタオルで拭いて、服を着てくれる。


「私の属性魔法は【料理】ですわ」

「【料理】?属性魔法で器具を出したの?」


ポーチのことはお父様との約束で内緒ですわ。

火種を用意して、【料理】魔法を発動する。


・下拵え

・調理

・盛り付け


【料理】魔法は食材を最高の状態で調理できますわ。


「ムーンラビットのスープを作りました。どうぞ召し上がれ」


何やら考え事を始めたリューク様の目の前で簡単なスープを作りました。

即席で作った料理を見て驚いているようです。


「うわ~、美味しそうな匂い。いただきます」


わ~綺麗な男の子が私のスープを食べてくださいました。

もっと良い物を食べてもらいたい。

ちゃんとした調理場で、ちゃんとした料理を作ってあげたい。

私が作った物を食べてもらえることがこんなにも嬉しいなんて!!!


「美味しい。それにこれはバフ効果かな?うん。これは凄い」


スープを飲んだリューク様は素直に美味しいと喜んでくださいました。

真面目な顔で何か考えているようですけど、そんなお顔も凜々しい。


「ねぇ、カリンお姉さん」

「はっはい!」

「ボクが大人になったら、ボクのために毎日スープを作ってくれない?」


えっ?それってプロポーズ?えっえっ?私、今プロポーズをされましたの?

いやいやいや、ありえませんわ!!!

こんな醜く太った私が目の前にいる美しい男の子が相手にするはずがありませんもの、良い夢を見られましたわ。


きっと料理人として雇いたいとか……


「ボクと結婚してよ」


プロポーズでしたわ!!!!

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