ボンヤリとした記憶に

 いつだったかは、はっきりと覚えていないけど、私は小さい頃に、何度かテレビで、こんな話を放送していた記憶がある。


 ヨーロッパのどこかの国の男の子が、家の近くの森で、しょっちゅう御伽話おとぎばなしに出てくる小人みたいな妖精を見た、と言っていた。

 それだけではなく、その国のあるおばあさんも、子どもの時に、湖の近くで妖精を見たんだって。

 それから、他のテレビ番組でも、日本人のある女の子が、仏間で座敷童子を見たらしい。


 その頃の私は、「へえー、そんなことが本当にあるんだ」と思いながら、そんなテレビ番組を見ていた記憶がある。

 しかし、私のお父さんはよく、「んなこと、ある訳ねーだろっ」と言い放ち、その次には、妖精や座敷童子についてのテレビ番組を、リモコンですぐに野球中継に替えてしまうのだった。


 それから、私とお父さんはリモコンの取り合い。

 見兼ねたお母さんが間に入って、私たちのくだらない争いを止めようとしていたな~。



 そして、ある日。

 隣町に住む、うたゑばーちゃんの家に行った時、お父さんが馬鹿にしてた、妖精や座敷童子についてのテレビ番組のことを、ばーちゃんに話した。


「ハハハッ。それは、なかなかおもしろい話じゃな」


 うたゑばーちゃんは、湯呑ゆのみに入った温かい緑茶をすすりながら、そう言った。


「まあ、『子ども』というのは、心がとっても純粋じゃからなぁ。そんなことがあっても、ちっともおかしくはないよ。『子ども』ってな、大人には見えないものが見えたりするもんかもしれんなぁ」


 湯呑ゆのみ卓袱台ちゃぶだいに置いて、ばーちゃんは窓の外に目をやった。


「で、ばーちゃんはな、昔からずうーっとあるもんには、『神様』やら『精霊』やらが住み着いておる、と聞いたことがあるぞ。

 ……ほれ、ツルんたーの地区の公園の近くに、大きなサクラの木があるじゃろ。あの木はな、ばーちゃんが生まれる前から、あるらしいよ。だからよ、もしかすると、そのサクラの木に『神様』か『精霊』が、おるかもしれんなぁ〜」


 ばーちゃんがそうやって話してくれた時は、私は本当にワクワクしていたものだった。


「ねえ、ばーちゃん」


 私は目をキラキラと輝かせながら、ばーちゃんに近寄った。


「いつか……。いつか、私もその『神様』や『精霊さん』に、会えるかなぁ」


「ああ、もちろんっ! いつになるかは本当に分からんがね。それと、奴らはかなり気まぐれらしいぞ。そうやったら、ツルがいい子だったらの話になるかもだけどよぉ。とりあえず、いつかはいつかだねぇ。ハッハッハッハ~」


「ええ~。何それぇー」


 そんな、うたゑばーちゃんとの会話は、とても印象深くて、今でも忘れられない。

 それに、その頃の私は、随分ずいぶんと生真面目に『神様』や『精霊』の存在を信じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る