第四話・イケメンは何をしても許される
「全然、着かねーじゃん……」
もう何時間、乗っているだろうか。九時に迎えが来て、今は四時をすぎたところだ。
流石リムジンとあって、乗り心地は良く、酔いはない。パーキングエリアでトイレ休憩もとってくれる。車内には高そうな飲み物やスイーツもある。
しかし、全然着く気配がない。
しかも、長時間ずっと車に揺られているせいなのか、睡魔に襲われかけている。いっそ寝てしまおうか。
「……さん!黒瀬さん!着きましたよ。」
段々と降りていく太陽を見つめながら、こくり、こくりと微睡む。
誰かの声で、ハッと現実に引き戻される。いつの間にか車は停まっていて運転手がドアを開けていた。
外に出ろ、と目で促されたので仕方なく外に出る。リムジンは俺を下ろすと静かにまた発車してどこかへ行った。
「すっげー……」
俺の目の前には、10階建てで横も縦も大きい建物と、その建物の正面にかなり大きな門が聳え立っていた。
周りは広大な敷地を守るように、高さ10メートル程の壁に囲まれていて、正面の門が埋め込まれるように立っている。
流石、政府が建てた施設。金がかかってるのを感じる。何億だろうか。見たところかなりあるように見える。
「君が黒瀬 糸くんかな?」
「あ、はい。」
大きな建物に圧倒されていると、俺の前に一人の男性が立っていた。小さく返事をすると、笑って小さく頷いた。
身長は俺より少し高いくらい。俺が百七十前半なので、大体百八十くらいか。
重めの前髪から切れ長の目が覗いていて、笑うとそれがきゅっと細まって少し腹黒そうな印象を受ける。でもカッコいい人だ。
この人は何してる人なんだろうか。偉い人とかなのか。頭良さそうだし秘書とかか?
「分かった。俺は
じゃあ俺のあとに着いて来てください。」
何やら考え込む俺を察してくれたのか、名前を教えてくれる。雨宮先生。どうやら俺の副担任になるらしい。
雨宮先生は俺の荷物を運転手から受け取って歩き出した。後に俺も慌ててついて行く。
雨宮先生は門の警備員の前で立ち止まると、何かやりとりをした。警備員は門の脇で何やら操作をし、門が静かに開いていく。
続いて入ると、さっきは壁と門で見えなかったらしい大きな扉が待ち受けていた。ここでもまた、警備員に目配せすると、警備員が扉を開けた。
目配せをしただけで扉を開けさせているのを見ると、この人の権力は副担任よりか、ずっとすごいんじゃないのだろうかと思う。
扉の中に入ると、巨大なホールに出た。
ホールの奥には外に出る道が続いていて、左右に大きな階段。天井はステンドグラスで、高そうなシャンデリアもぶら下がっている。
壁にかけられている絵や、その額縁からも、やはり、かなりの金額がこの建物にかけられていることが一目瞭然。
すごい。少しでもいいから分けて欲しいくらいだ。
「壊したら賠償金どんくらいいくかな、壊してみてぇ。」
「お前、見た目クール系のイケメンなのに、中身は結構狂ってるね。」
思ったままにぼそりと呟くと、前を歩いていた雨宮先生が俺の言葉に反応した。
先生は、何故か隣に来ると肩を組んできた。さらさらの髪が宙に靡いて、清潔感のある香りが漂う。
良い匂いだな、なんて思いながらも何をするのか気になり、首を傾げる。
と、俺の顔を覗き込み、鼻の頭を細長い指でトントンと突くとクスクスと笑った。
見た目は腹黒そうにだが、案外気さくで良い人なのかもしれない。
「よく言われます。
でも先生も、中身少しはおかしいと思います。だって見た目腹黒そう。」
「あはは、お前面白いねぇ。
大丈夫、天照に選ばれる子は全員個性的だから。君と同じくらいにはね。」
「嫌な予感しかしねぇよ。しかもそれ大丈夫って言わないだろ。」
雨宮先生はお腹を抱えて笑いながら、色々な国の偉い方も来るからね、金はかけられてるよ。と教えてくれた。
壊さなくてよかった。そんな物壊したら賠償金一生かかっても払いきれないほどだったかもしれない。
「あ、施設内広いからね、慣れるまではあんまり動きまわらない方が良いよ。」
雨宮先生は離れると、俺の手を掴んでホールの真ん中を突っ切って外に出る。
外には、俺達がいた建物と円になるような形で、幾つかの塔と建物が立っていた。中心には庭園がある。塔の奥にも他に建物があるらしいが目を凝らしてもよく見えない。
「教室はこの正面の建物だからね。これだけ覚えとけばどうにかなるから。」
先生は俺の手を引いたまま、綺麗に整えられた庭園を踏んで歩いて行く。恐らく、このまま突っ切って早く着こうって考えだ。
仕方なしに俺も雨宮先生の後ろを着いて行く。植物や花が潰されていく少し不思議な感覚が足を刺激した。
にしても、良いのだろうか。すごい綺麗にされてるのに、ぐしゃぐしゃにして誰かに怒られないのか。不思議に思い、聞いてみる。
「大丈夫、ただの薬草だから。しかもお前も俺に着いてきてんだから同罪でしょ?」
「この人腹黒い!!」
最悪な答えが返ってきた。しかもいつの間にかお前呼びになっている。これがイケメンは何をしても許されるってヤツだろうか。
建物の内部に入ると、本館と似た造りで、小さめのホールと左右に階段がある形になっていた。
一緒に左側の階段を上っていくと、ちょうど中心部分にある教室で立ち止まった。
「俺はお前の荷物寮に置いてくる。
これから一緒に戦う、お前の新しい仲間達だ。ほら、入ってみるといい。」
背中を押されて、今はまだ閉じられているドアの前に立つ。中は明かりが付いているのが見えて、話し声も聞こえてきた。
どんなヤツがいるんだろう。仲良くなれると良いけど。内心ちょっと不安になりながら、ドアを開けた。
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