キャラクター未満な奴ら!

兎緑夕季

第1話

「おい、目を覚ませ!」


見知らぬ男の声で重いまぶたを開く。

そこは真っ暗な空間が広がっていた。どこまでも続く闇だ。

出口は見えない。


「お前、呑気だな」


その男は真っ白だった。あえて言うなら白いタイツを頭からかぶった感じだ。

しかし、それは僕も同じだ。そして、そうした白い連中がひしめき合っていた。


「ここは?」


「なんだ。新入りか?」


頭にハテナマークが浮かんでいる気分だった。


「ここはキャラクター創造機関だ」


「なんだそれは?」


「だからキャラクターだよ。アバターって言った方が分かるか」


「僕たちの分身を作るのか?」


「違う。俺たちがキャンパスなんだよ」


ますますわけが分からない。


「こういうのは身をもって体験した方が早いな。おっと噂をすれば…」


突然、ツインテールに手作り満載のワンピース姿の女性が一筋の光をバックに現れた。さながらスポットライトを浴びるアイドルのようだ。

しかし、その顔はポリゴンである。


「未満キャラクターの皆さん。ついにキャラクター装備争奪戦の時間がやってきました。」


女性の高らかな宣言に真っ白な奴らは歓喜の声を上げた。このノリに僕も参加しなければならないのか?


「あなた方はまだ何色にも染まっていない純粋なプログラムです。さあ、どんな肩書で世界に送り出されるのか楽しみですわ。それじゃあ、スタート!」

女性のウインクと共に暗闇から謎の檻が出現する。


“グルルルルッ”――


なぜか不穏な音が鳴り響いた。


「まずは狂暴なモンスターさんの登場です!」

柵が重々しく開き、いかにも闇のモンスターが放たれる。


「なんなんだよ!」


やはり状況のつかめない僕の手を取って走り出す男。


「これは外れだ」


真っ白な奴らは逃げ惑っていた。


「さあ、お前ら頑張れよ」


さっきまで可愛らしかった女性と同一人物とは思えない残酷な言葉が耳に入る。

その瞬間、すぐ後ろで真っ白な奴の一人がモンスターに踏みつけられていた。


食べられるのか?


そう思ったが、真っ白な奴はモンスターと同化していく。


女性の顔が高揚の色に変わる。


「キャラクター第一号が誕生!闇に蠢くモンスターさん。どうぞ勇者にバッサリやられてきてください!」


モンスターへと姿を変えた元真っ白な奴は新たに出現した出口から飛び出していった。


「全く意味分からん」

一連の流れに呆気にとられる僕。


「ああやって、設定がつけられると俺たちは世界に送り出されるんだ」


「世界?」


「僕たちは一体なんなんだ?」


「だからキャラクターだってば…」


「はあ…?」


「やっぱりわかってねえのかよ」


僕と同じみための白タイツは大きなため息をつく。

「さあ、続きましてはラッキースケベ能力を持つ青年だ!」


学生服を着た一見すると冴えない男の子がスポットライトを浴びて登場する。


周りにいた白タイツたちが目の色を変えて彼を見据えていた。


「男の子は誰の手に?では、用意スタート!」


女の大げさな声を合図に白タイツたちは青年を一心に見つめている。まるで獲物を視界に捉えているかのようだ。


「あの、さっきのモンスターが出てきた時と態度違わなくないか?」


僕は素直な感想を述べた。


「そりゃあ、モンスターになりたい奴なんていないだろ?」


「まあ、そうだな?」


やはり僕はこの白タイツの言葉はピンとこなかった。


だが、無数の白タイツたちはラッキースケベ能力を持つとされた青年に群がっていた。


ある意味、バーゲンセールに来たおばちゃん達のようだ。


「みんな、世界に出たら良い人生を送りたいもんな」


説明してくれるこの白タイツは悟ったように何度も頷いていた。


「ラッキースケベ能力ってほしいか?」


「ほしい奴は多いだろ。後、人気なのは美少女キャラとか金持ちキャラとか、チート能力を持ってる奴とかだな…」


「はあ…」


「おっと、ついに勝者が決まりました!」


女の声で再び、青年の方に向き直れば無数の白タイツたちが悔しさのあまりうなだれていた。その中央には天高く腕を伸ばしたラッキースケベ能力を持つ青年がたっていた。


その後も普通の通行人やOL、老人などの設定をつけられたキャラと白タイツが融合していった。


なるほど。なんとなくこの場所のルールを理解した。


「僕たちはああやって設定されていくのか」


「だから、そう言ってるだろ?」


懇切丁寧に説明してくれる白タイツはあきれ顔でこちらを見ていた。


「君は希望か何かあるのか?」

素朴な疑問を投げかけた。


「俺は猫になりたい」


「はあ?」


予想外の言葉が飛び出してきて驚く。


「猫?」


「自由だろ?」


「自由なの?猫って人じゃないけどありなのか?」


「ありだろう。前回は塀に取りついた幽霊だったからな」


「なんだそのパワーワード。というかお前何回かこのシステム利用してるのか?」


「すでに50回目だ」


「そんなに?」


思わず大きな声を上げてしまう僕。


「もし、キャラクター設定がなされなかったらどうなるんだ?」


と聞き返した。


「そんなの存在価値無しとされて消滅させられるに決まってるだろ」


マジか…。


人知れずため息をつく後ろでうなり声が耳をかすめた。

背中に獣臭と不穏な気配を感じとる。


少しばかり、視線を後ろに向けると眼光鋭いライオンがこちらを見据えいていた。


若干、毛並みが悪いのは気になるが、


「ゲッ!いつの間に…」


突然、訪れた機会ではあるが正直ライオン設定つけられるのはどうなんだろう。


そう思っている間にライオンは僕を素通りしていく。


ライオンが目を付けたのは先ほど猫になりたいと言った白タイツであった。


「ええ~。ライオン?俺は小さな猫がよかったのに」


白タイツは半ば投げやりにつぶやいたのち、ライオンに喰われた。いや、融合したのであった。


「動物園のしゃべるライオンキャラ定着しました。いってらっしゃい」


女の鼻につく甲高い声が空間に響き渡った。


見渡せば、僕と同じ姿の白タイツは数えるほどに減っていた。


こうしてはいられない。僕もなんでもいいから設定つけてもらわないと。


「さあ、続きましては…」


女のテンション高めな声に吸い付けられるように僕は走った。


そしてつけられた設定は…


「野原にそっと生える雑草。融合完了です。イエ~イ!」


僕は勇者の傷を癒すのに役立つ薬草効果を持つ雑草として世界に送り出された。

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キャラクター未満な奴ら! 兎緑夕季 @tomiyuki

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