第10話「魔術の才能、人生プラン、そして疑惑」
その後、俺は各属性を彼女たちの教わる通りにやってみた。その結果――
「『
そう。俺は全ての属性の初級魔術を―どれも一発で出来たわけではないが―使えてしまったのである。
この結果には、これからが楽しみにならない訳にはいかない。なにせ全属性を扱える魔術師は稀代の魔術師と呼ばれ、同じ時代に二人以上いないと言われる程希少な存在なのである。やはり俺も転生者。俺にしか無い特別な能力を得て大活躍する内容のラノベが出来上がってしまいそうな展開だ。俺は一体これからどんな活躍をしてしまうのか――そう胸を躍らせていたが、周囲の反応は俺が思っているよりかは冷たいものであった。
「流石ね、フリッツ。全属性を扱えるなんて」
「すごいです坊ちゃん!流石エルガー陛下のご子息ですね!」
「このリーセ!こんなにも素晴らしい方に使えられて光栄です!」
いや、確かに褒められてはいるし、すごいヨイショはされてるんだけど…。
全属性使いだよ?同じ時代に二人といない、伝説の魔術師だぜ?なんかこう…びっくりし過ぎて腰抜かすとか、全員起立して拍手喝采とか、王に報告せよ!って兵士に命令するとか、それくらいのレベルなんじゃないの?全員立ってるし王は親父なんだけど。
「流石、エルガーの子供ね。あの人と同じで、全ての適性を遺伝するなんて」
そんな中、うんうんと頷いていたニクシーの口から衝撃発言が飛び出した。
ちょっと待て、どういうことだ?
「え、お、お母様?お父様の適性は……」
「ええ、あの人は全ての属性に適性があるわ」
同じ時代に二人いるじゃん。
―――
なんでも俺の父親、エルガーは全ての属性に適性があり、かつほとんどの属性を上級まで扱うことが出来る、魔族だけでなく全種族を代表する大魔術師なんだそうだ。
彼はその強大な力を以って、保守的で人族からの攻撃に対してまともな対応を取ることの無かった前魔王を打ち倒し、混沌と混乱によって支配されていたこのアドラ大陸を平定したほぼ全ての魔族から尊敬されている魔王だと言う。
俺はこの城から出たことがない。そのため民衆の意見を聞いたことは無いが、確かにメイドさんや執事さんの態度からはエルガーに対する尊敬の念が見て取れる。
そんな彼の子供である俺は、可能性自体は低いが、全属性に適性があるだろうと予想はされていたらしい。それならば何故俺にはどの属性に適性があるのかすぐに調べなかったのだろうかと疑問に思ったが、歴代魔王は腕力でその地位に昇りつめた者が多く、俺は武術か魔術どちらを扱うでもよく本人の意思を尊重したかったからしい。全属性が扱えるかもしれない子供にそれ以外の道を与えることを許すとは、この家族は本当に俺の事を愛しているようだ。
「まぁ、どっちも極めるに越したことはないな」
その日の夜、俺は寝室の窓から城下の景色を眺めつつ、そう言った。
城下の景色とは言ったものの、視界に入るのは鬱蒼とした森だ。どうやらこの城から一番近い街までは馬で一時間ほどかかるらしい。
今日の適性調査で、俺は全ての属性の魔術を扱えることがわかった。しかし、それでも全て初級だけ、だ。確かに全属性扱えることはすごいことなのだろうが、初級しか使えませんとなると周りの評価も低いだろう。目的がなんであれ、器用貧乏よりも一つに秀でた専門家の方が役に立つパターンが多いだろう。
今の俺は、親の遺伝で全属性の魔術を使える、七光り魔術師に過ぎない。これからの俺がどうなるかは俺のこれからの努力次第だ。俺が将来魔王になるって言うなら、強いに越したことは無い。明日から武術や勉学の他に魔術も頑張って行こう。
そこでふと、俺はこんなに努力して、父親になれと言われたからといって素直に魔王になる必要はあるのだろうかと思った。俺の前世はただのサラリーマン。魔王になれと言われても難しいものがある。今の俺は五歳だが、前世の知識がある。今からこの城を脱走し街に逃げたりすれば、スムーズとは言わないが生き抜くことは可能であろう。
しかし俺は、この考えを即座に捨てる。
俺には魔神との契約がある。その契約が何かはまだ明かされていないが、俺が何かどでかい事をしなければいけないことは恐らくだがわかっている。その契約を果たさなければ俺は八つ裂きになってしまうらしい。そんなことは避けたいし、あの魔神も俺にとっては『お姉ちゃん』の一人である。出来る限り力になりたい。そして、そのどでかい事をやるためにはきっと魔王という地位は役に立つだろう。魔王と呼ばれる存在がどれくらいの権力や力を持つかは分からないが、何の役職でもないただの俺よりかは遥かに魔神の力になるに違いない。
取り敢えず、俺のこの世界での目標は、魔神の契約を果たすために力を蓄えておくこと。そして良い魔王になることだ。民や軍が言うことを聞かなければ魔王になっている意味がないしな。
そして、折角の異世界なのだからハーレムも作りたい…。そう、俺の俺による俺のための『お姉ちゃん』ハーレムだ!きっと俺が名君と謳われる王になれば周辺諸国の王女とか貴族令嬢なんかが嫁入りに!!この世界に一夫多妻制が存在していることは確認済みだ!!!
「でも俺がそんないい王になれるかね…」
先述した通り、俺の前世は一介のサラリーマン。国を運営する能力など持ち合わせてはいない。正直自信が無いな…。いや、俺一人で国を運営する必要は無いか。例えば家臣なんかを置いて補佐してもらえればいいのか…。
「あっ」
そして俺は閃いてしまった。先ほどの目標二つ、同時に達成できてしまうかもしれない案を。
俺の第一お姉ちゃん、クリスは化け物級の頭脳を持ち、今も十七歳にしてアスモダイ家の家臣として政務の一端を担っているらしい。
それならば俺が魔王になった暁には、家臣として…宰相みたいな立ち位置から俺を補佐してもらえればよいのでは…?あのクリスの事だ。きっと俺の頼みは聞いてくれるだろう。しかし宰相だけでは足りない。軍を指揮する者や外交を担当する者だって必要だ。
つまり、俺は魔王になるまでに俺の家臣となってくれる『お姉ちゃん』をスカウトし、魔王になったら家臣となった彼女らに囲まれウハウハ生活を出来るのでは…?勿論俺も王として仕事はさせてもらう、彼女らは魔王の家臣として格式高い位置に収まれる。win-winではないだろうかこれは。
しかし問題なのは…
「俺が彼女らに魅力的に見える必要があるか…」
彼女たちに対する俺の矢印だけでは、流石にそれはハーレムとは言えない。それはそれで楽しいけれど、折角『お姉ちゃん』に囲まれるなら俺の事も好いてもらいたい…。では魅力的な男性とは?
俺は鏡を見る。イケメンだ。そう、今世の俺はイケメンなのである。エルガーとニクシーの顔を見れば整った顔をした子供が産まれるのは当然なのだが。つまり、*イケメンに限る、といった前世では涙を飲んだ事例はクリアしていると言っても過言では無いだろう。そうすれば後はそれ以外の部分だ。昔偉い人は言っていた。小学生は足の速い奴がモテて、中学生は喧嘩が強い奴がモテて、高校生は頭のいい奴がモテる。そう、モテるのに必要なのは武力と知力。…多分。
俺が明日から『お姉ちゃん』ハーレムを作るためにやるべきことは、武術を鍛え、魔術を鍛え、勉学を頑張る。これだ。
そうと決まれば今日は寝て、明日から頑張るぞ。待ってろ魔神。
そう考え俺はふかふかベッドに横になり、目を瞑る。
頭に浮かぶのは今日の魔術の練習。最初に放った『氷弾』。ふと、クリスが放った『氷弾』、その二回目を思い出す。あの時の氷塊は大きかった。俺の二倍くらいはあった。
「!?」
そこまで考えて、俺は飛び起きた。
あれ?俺の氷塊、あんなに大きくなかったな。
おかしいくないだろうか。俺は魔神との契約で周りに『お姉ちゃん』がいれば魔力量が上がり、魔術の威力が上がる、と言われた。
しかしあの時『お姉ちゃん』は周りに三人いたにも関わらず、俺の『氷弾』の氷塊はクリスのそれの半分くらいの大きさだった。魔神が嘘をついた?
いや、考え直せ。
もしかしたら今日俺が放った『氷弾』の氷塊は『お姉ちゃん』がいた結果、あの大きさだったと考えるのはどうだろう。
つまり、俺の氷塊は元々くっそ小さくて、魔神との契約の『お姉ちゃん』ブーストの結果、あそこまで大きくなったと。
もしそうなら結構将来が不安だが、思いついたなら試してみなければ気が済まない。
俺は部屋の空いた窓から外に向かって右手を突き出した。
「『魔術の祖よ。我に豪氷の力を以って、かの者を穿つ力を――『氷弾』』」
氷塊の大きさは――庭でやった時と同じ大きさだった。
俺は氷塊をその場に落とし、まじまじと見る。
庭でやった時によく見たわけではないが、然程違いは無いように見える。
念のため、治癒属性以外の属性も試してみたが、結果は変わらず。
うーむ、一体どういうことだろうか。魔神が嘘をついた?しかし彼女はそんなことをやるようには見えなかった。人を見る目があることは俺の数少ない自慢の一つなのだが…。
いや、まだ魔術を使い始めて一日目だからな。明日から頑張れば、結果は変わるかもしれない。
明日から忙しくなる。
俺は気持ちを切り替えて、ベッドに入りなおしたのだった。
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