第31話 王弟殿下ってどの人?
ノエルちゃんと騎士団の訓練場の見学に向かっている。
昼前だが、よく晴れていて陽射しがきつい。
ディルのきっと凛々しいであろう訓練姿を見たいと思う純粋なミーハーな気持ちと、王弟殿下とディル達王都のイケメン騎士団がボーイズラブらしく、その王都の騎士団を単純に見たいという好奇心と、見たこともない王弟殿下に対してモヤっとした気持ちを抱き、なにやら一言で言い表わせない気持ちでチャドワ湖沿いをノエルちゃんと歩く。
そんなわたしのぐちゃぐちゃした気持ちを露ほども知らないノエルちゃんにはなんだか申し訳ない。
ディルと仮りでも付き合っていることだけでも言っておいた方が良い気がするが…。
それにしてもよく考えたら、隣国の皇女が騎士団の訓練をお忍びで見に行くなんて、機密情報を見てしまうような少し後ろめたい気持ちもある。
「レナちゃん、緊張している?」
さっきからいろいろ考えて無口で歩いていたので、ノエルちゃんから見て怖い顔にでもなっていたんだろう。
「うん。少しね。麗しい騎士団の方々が訓練されている時間だといいわね。」
「きっと大丈夫よ。でも、お昼休憩になってしまったら残念だから少し急ぎましょう!」
小走りとまでは行かないが早歩きで訓練場に向う。
チャドワ湖沿いにある訓練場近くまで来たら、女の子たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「良かった!間に合ったみたいね!」
もうノエルちゃんは走り出している。
わたしもノエルちゃんを追うように続く。
訓練場では騎士様達が2人1組のペアになって、剣の打ち合いをしていた。
この人達がフラップ王国の騎士団なんだ。
確かにみんなすごい筋肉マッチョだ。
少し距離があるので噂される端正な顔立ちがイマイチよくわからない。
でも、ディルはすぐにわかった。
見つけられて心臓が一瞬ドクっと早打ちをした。
ザックさんと一緒のようだ。
騎士団はみんな同じ制服だし、少し距離もあるのにディルをすぐに見つけられてしまうのは、仮恋人の特権なのだろうか。不思議だ。
「レナちゃん、王都の騎士団に知り合いがいるんでしょう?いた?」
「うん。見つけられたわ。」
「どの人?どの人?それにしてもどの人もいいからだをしているわね。」
「本当に素敵ね。ディルは端から2番目のこっちに背を向けている人よ。」
「あの人ね。背中を向けていて、顔がよくわからないのが残念。」
人垣がすごく、ノエルちゃんはぴょんぴょんしながら見ている。
そういうわたしも背伸びだ。
「あの彼はレナちゃんの恋人なの?」
ノエルちゃんはニヤニヤしながらこっちを見て聞いてくる。
「うん。先日、付き合うことになった。でも仮よ!仮恋人なの。」
「仮り?なにそれ?」
ノエルちゃんが理解出来ない!と言った顔をしている。
「うーん。お互い住んでいる国が違うからね。わたしはダズベル王国だし、彼はフラップ王国の王都でしょ。本当に付き合うことになったら、いろいろ大変そうだしね。」
そう。このまま本当の恋人になってしまいたいが、政略結婚が目前に迫った現実は無理だ。
よく侍女達が恋愛話をしてくれて、遠距離は最悪とか言っていたことも思い出す。
そうだよね。
このまま本当の恋人になっても遠距離恋愛になってしまう。
上手くいくなんてあり得ない。
どうしてか、ディルとの恋愛をあきらめる理由ばかりを探してしまう。
「なるほど。そういうことね。遠距離は辛いわよね。会えない時間がふたりの絆をさらに深めるとかあれ、絶対違うものね。逆に溝が深まるわよね。レナちゃん達は上手くいくといいわね。騎士団の彼なんて、エリートなんだから絶対逃しちゃダメよ!」
ノエルちゃんがキリッとした表情で教えてくれる。
そうだよね。
ディルはかなりの優良物件だと思う。
マナーも完璧だし、エスコートもスマートだし、それにあの端正な顔立ちと漆黒の瞳で見つめられたら、落ちない女性はいないんではないかと思ってしまう。
あの麗しい感じで王弟殿下にも愛を捧げているんだよね。
そういえば…
「ノエルちゃん、王弟殿下ってどの人?ここにいる?」
隣国の王子なのにわたしはいままでフラップ王国の王族に会ったことがない。
第三皇女で継承順位も低く先日まで学生だったこともあって、国際交流は兄や姉がずっと出てくれていたこともあるが、もっともこのフラップ王国は何年か前まで王族の権力争いで荒れていた時期があったらしいのでその時は交流が途絶えていた。
騎士団の面々を虜にする美男子の殿下。
一体、どんな方なのだろう。
「わたしは見たことがないんだよね。確か王弟殿下の名前は…ディ、ディカルト殿下!」
「ありがとう。そうなんだね。ノエルちゃんでもディカルト殿下のお顔はわからないんだね。」
訓練場で打ち合いをしている騎士団を見る。
あの中にディルが愛するディカルト殿下がいらっしゃるのね。
「ちょっと他の人に聞いて見ようよ。」
ノエルちゃんが前の列にいる女性に声を掛けようとした時だった。
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