第19話 陛下と団長

目を爛々とさせている陛下…兄はさっきと打って変わって上機嫌だ。

「あの女性不信だったディルが女性と馬に乗っていたんだよな。一体,かみなりしいたけの聖女はどんな女性なんだ?」


 ザックの方を慌てながら見ると,自分で説明しろと顎でクイクイと促される。


 仕方ない。


 下手に誤魔化して後々に面倒になるのも困るし、ここは味方を増やしておきたい。


「俺の聖女様が再び現れました。」


「「は?」」

 兄も、俺の事情を知る団長も思ってもない言葉に理解の範疇を超えたらしい。


「えっ~と、だから俺の聖女様…6年前に突然現れて俺とザックの窮地を救ってくれた少女が、昨日サンダースの近くで再び俺の元に現れたんです。」

 

「「ええええっっっ!!!!」」


「そうなんです。簡単に信じられませんよね。俺もそうですから。そして彼女自身は隠していますが、恐らくダズベル王国の第3皇女のレナリーナ姫です。」


 もう,驚き過ぎて兄と団長は声も出ないようだ。

 

「彼女のことは6年前からレナと呼んでいます。今回はレナが転移魔法でベルからラストリアに行こうとして上手くいかずに俺の目の前に転移してきました。これ以上、転移魔法を繰り返すのは危険と判断をして、ラストリアまで馬でレナを送り届けたんです。「かみなりしいたけの聖女」はその道中で子どもを助けたのがきっかけで椎茸がたくさんできるようにレナが少しお手伝いをした結果です。」


 言い切った。


 横目でザックを見ると、よく出来たと言わんばかりにひとりうんうんと頷いている。


「驚きついでに話しますがレナはラストリアのアドレのパン屋に滞在しています。」


 兄が目を丸くするのがわかった。


「…アドレのパン屋…。」

「そうです。それと…」


 言おうか言わまいか一瞬迷ったが,ここははっきりさせておこう。


「俺は6年前からレナが好きです。今回の再会をきっかけにまた惚れました。必ずレナに俺のことを好きになってもらいます。いずれは婚約したいと考えていますので、その時はご協力をお願いします。」


「……わ,わかった。ディルの気持ちはよくわかった。」

 兄が絞り出すように返事をする。


「レナが皇女だということを俺は知らないことになっているし、俺もレナに騎士であることは伝えていますが、俺自身を見て欲しいので王弟であることは伝えていません。そのあたり、レナにプロポーズするまで口裏を合わせて頂けると助かります。」


 兄と団長は目を白黒させながらも、深く頷いてくれた。


「だから…ラストリアなんだな。」

 団長が俺がなにかを企んでいると睨んでいたが真相がわかって納得したようだ。


「はい。魔獣の出現は俺にとって渡りに船です。ラストリアに行く理由ができました。」


 その時だった。ドアがノックされ、騎士団のひとりが団長を呼びに来た。


「団長、お忙しいところすみません。って…あれ,副団長も!ちょうどよかった!おふたりに急ぎのお話しがありまして…」


 団長は話しがいいところだったので、この間の悪さにチッと舌打ちをしている。


「団長もディルもこの話は改めて話そう。もう行っていいぞ。魔獣のことは頼んだ。」

「「承知しました。」」


 俺はとりあえずレナのことを兄にも親同然の団長にも伝えられたのでホッとした。


「ザックは残れ。」


 俺たちと一緒について出ようとしていたザックが兄に呼び止められる。


 ザックはそれはそれは嫌そうに振り返っていた。

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