【コミカライズ決定】なぜか転移魔法はいつも隣国の殿下の元に〜 なにもわかっていない皇女は殿下に溺愛されています

植まどか

第1話 転移魔法を間違えた

間違えた!

 そう思った時にはもう遅かった。

 転移魔法の詠唱を間違えて、そのまま転移が始まったのだ。


 わたし、レナリーナ・ダズベルは12歳。ダズベル王国の第3皇女だ。


 魔法師団に所属するロン叔父さまに苦手な魔法をこっそり教えてもらっている。

 いまは昼寝をするのだと言って自分の部屋にひとりで篭り、転移魔法の自主練習の最中だった。

 本当は城の裏にある森に転移魔法で転移するはずだったのに。

 森に転移したあとは、森で大好きな絵をゆっくり描くつもりだった。


 もう転移が始まると止められない。

 無事にどこかに着いてくれればいいのに。

 目の前の白い靄が晴れてくる。

 祈るような気持ちで目をそっと開けてみる。

 同時にキーンと金属音が聞こえる。

 大人の男性の怒号のような声も聞こえる。

 やっぱり、城の裏の森ではなさそうだ。


 目を開けると飛び込んできたのは、見慣れない白い石造の建物が並び、地面は石畳で広場のような少し拓けた場所である。


 わたしは茫然と立ち尽くした。


一体ここはどこなんだろう…


 隣に人の気配がして咄嗟に横を見ると、同じ年ぐらいの少年が片膝を突いて足首を押さえていた。


 わたしが転移で突然現れたので、驚きで声も出ないようで私を下から睨み、すごい表情で固まっている。


 その時、大きな男がこちらに向かって剣を振りかざし、なにか叫びながら声を上げて走ってくる。


「ーーーー死ねっ!!」


 防御魔法!!


 咄嗟に一歩前に踏み出し、防御魔法をわたしと少年の前に展開する。


 キーーーン!!!

 張った魔法陣が男の剣を弾く。


 なんとか間に合った。

 男が弾かれた勢いで後ろに尻餅をつき、そのままの勢いで石畳で1回転…。


 いまだ!


 片膝を突いていた少年に手を差し出す。

「貴方が狙われているの?」

「…うん」

「逃げるわよ!!」

 差し出したわたしの手を取り、少年が立ち上がる。


 初めて見る街だ。

 どこに逃げたらいいのかわからない。


「こっちだ!」


 少年がわたしの手を引き、走り出す。

 よく見ると、尻餅をついている大男以外に、もう1人大男に剣で応戦している商人っぽい人がいる。


「あの商人は?」

「仲間だ!助ける!」

「わかったわ!」


 駆け寄りながら、とにかく絶対に間違えない得意な魔法を必死で考える。


 これしかない!

 頭の中でイメージを作り詠唱する。

 稲妻のような光が一瞬で大男に堕ちた。


 ドスン!!


 大きな地響きがしたかと思うと大男が地面に仰向けに転がった。

「なにが起こった?」


 商人が剣を持ったまま呆然としている。


 大男は手足が痺れるようで奇妙な声を上げながら、転げまわり手足をさすっている。


 うーむ。

 イメージしていた魔法と少し違うような…?


「ザック、無事か?」

 少年が立ち尽くす商人にザックと声を掛ける。

 商人がハッと我に返った。


「…大丈夫です。ディ…ディルは?」

「俺は大丈夫。この少女が助けてくれた」

「とにかく、いまのうちに逃げますよ!」


 ザックと呼ばれた商人の男を先頭に、わたしは少年に手を繋がれたまま、一緒に走り出した。



 細い路地を何本も何本も駆け抜け、街の外れまで来たのか人通りがなくなり、坂道を上がりきったところの小さい庭がある青い屋根の古い一軒家に入った。


 

 家に入ると小さな玄関ホールがあり、右側の扉を開けると食堂兼居間なのか、年代物の使い古したテーブルセットとソファが置いてあった。


「ここまで来たら、大丈夫だろう」

「恐らく、大丈夫でしょうね。ディル、足に怪我をされてますね」


 わたしも逃げている途中から気になっていた。

 ディルと呼ばれる少年が足を引きずるように走っていたのだ。


「見せてください」

 商人は有無を言わさずにズボンの裾を上げた。

 少年の足首が一目で見てわかるぐらいに腫れている。


「これは、まずいですね。骨にひびが入っている可能性がありますね」

「これぐらい、なんともないよ」

 少年が俯いて小さな声で呟く。

 本人は隠しているつもりでいるんだろうけど、青い顔の額にうっすら汗をかいている。

 よほど痛いんだろう。


 これは、見て見ぬふりはできない。

「あの…もし、良ければわたしに任せてもらえないですか?」


「「…えっ?」」


 返事を聞く前にわたしはしゃがんで少年の足に触れた。


 触れたところに熱を集める。

 絶対、成功する。集中して。

 

 わたしの手のひらと少年の患部がポゥーと明るくなった。

 わたしの身体にも熱を感じる。

 上手くいった。


 良かった。


 全身の力が抜けて、目の前の景色が薄くなっていく。だんだん視界がなくなる…

 あー 倒れる。

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