第100話:最初の宣言

 怒号と叫び声が止み、地下闘技場にひと時の静寂が訪れた。

 閉ざされた地下の中、一陣の風が吹いた。その風は一人の少女を纏い、肩まで伸びたハチミツ色の髪を靡かせた。

「———シリウス」

 オスカーの呼びかけにシリウスは頷いた。それはどこか安堵に満ちた表情で、何か一つの覚悟を決めていた。

 シリウスは傷一つ付いていない鎧を取り、オスカーが渡したローブを纏う。

 鎧を着けていた時にはただの少年にしか見えなかったのに、戦いが終わった途端に少女は支配者としての威厳と、漂白とした雰囲気を纏っていた。

 その場にいる皆がその少女に釘付けになる。

 日没後の薄明りがスポットライトのように少女だけを照らした。そして、示し合わせもなく、七星卿たちが膝を下りその道を作った。

―――僕はこの光景を知っている。

 これから歩む苦難の道を恐れることなく歩む幼い女王の姿を。

 王国の歴史に刻まれる王道の第一歩。

 吹き抜けの天井から降り注ぐ光の柱の中、すらりと抜いたレイピアの剣先を天へと向け、シリウスは叫んだ。


「我が名はシリウス・クロード・ベルンシュタイン! この場所は私が征服する! そして、この日、この時を持って、グラン・シャル王国十二代目の王となる!」


 シリウスの宣言に騎士たちは雄叫びを上げ、己の持つ剣と槍を掲げる。

―――ああ、そうか。

 僕は、この日の光景を見るために、この時代に来たんだ。


 けれどこの時、僕は忘れていた。

 遠い未来で、この少女が狂王と呼ばれていたこと―――。


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