トンネル-1


 けっきょく占い師さんは山奥に続くトンネルまでついてきてくれた。

忌野いまわの」と書かれたバス停を過ぎ、通行止めのロードコーンとバリケードを跨いだ後も。ひび割れたコンクリートの舗道で転ばないように支えてくれた。生い茂って先の見えない草叢を越えた後も。

 やっぱり親切で、そして、素直じゃないひとだった。


「カマナカ、そこで止まれ」


 鎌仲さんは聞いていないようだった。占い師さんは慌てた様子で彼を掴み、トンネルの入り口に近づけないようにする。


「何すんだよ占い師!」


「お前がその先にまで行く義理はない。戻ってこれへんくなるぞ。俺ら詩人の亡霊なんか、ひとたまりもあらへん。何のために閉鎖したと思っとんねん」


「でも、それじゃ嬢ちゃんが、」


「このガキやったら、帰れる。大丈夫。ここまでお膳立てされて帰れへんなんてあってたまるか。……まあ、一応、俺からも渡しとこか」


 そう言って、占い師さんは懐から一枚の羽根を取り出した。付け根のところで紐が通されていて、ネックレスみたいに首から下げられるようになっている。


「いざと言う時に助けになるはずやから失くさんように持っておくんやぞ」


「これは……?」


「お守りや。この町やこの世ではこういうモンにもちゃんと効果がある。最悪なくてもいけるとは思うんやけどな、保険や」


 彼はくちばしを器用に使って羽根飾りを私のうなじのところで留めた。そして鎌仲さんの方を向いて「お前も何か渡しとけ。心配なんやろう?」鎌仲さんはしばらく悩んだ様子だったけれど、尻尾の方の羽根を一枚抜いてもらって私にくれた。


「嬢ちゃんだから、特別にやるよ。大事にしてやってくれよな」


 私はそれをネックレスの紐に通した。「ありがとう」と鎌仲さんに微笑みかける。そして「行ってくるね」


「おう、ぜったい無事に帰ってくるんだぞぉ!」


 トンネルのなかは真っ暗だった。はじめは入り口から射す光で足下も見えていたんだけれど、やがてそれもなくなって、壁に手をついて歩いていたのだけれど、地面につまずいて転んでしまった。からんころん、と何かを落とした音がした。音のした方を探ってみたのだけれど何もない。首に下げたネックレスは無事だった。


 安堵に息を吐いて、ふと、自分が出口と入り口、どちらの方角を向いているのか分からなくなってしまったことに気が付いた。胸の奥に抑えていた恐怖が噴きあがった。よろめきながら壁を探して、ようやく見つけたそれに伝って歩こうとすると、いつの間にか壁はなくなっていた。

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