第9話 余剰価値

 個人的には、マルクス経済学が労働価値説を前提にしていることが様々な矛盾を生じているのではないかと考えますが、マルクスの死後にマルクス主義は幾つかに分派して生き残っているようです。何分にも経済学を深く勉強したこともなく、マルクスに関して勉強したことない人間がマルクス主義を批判しても意味はないことは承知していますが、心霊世界から見たマルクス主義の考察には多少なりとも意味はあるのではないかと思います。

 しかし、マルクスの主張の全てが間違っていたわけではなく、各国の政策に取り入れられている主張もあります。例えば、累進税はほとんどの国で採用され、銀行の国有化は金融危機の際に日本、米国、ヨーロッパで採用されました。また、児童の工場労働の撤廃は採用されているだけでなく、教育の無償化なども一部は採用されています。これは資本主義経済の修正と言える動きではありますが、マルクス主義を部分的に採用した成果と言えます。

 さて、今回の考察は、マルクス主義を擁護する文章を読んでいると耐え難い程の悪想念を感じる理由の考察から始まりました。ここまで、マルクスが資本論を書いた当時の社会情勢の考察をしましたが、今回は「剰余価値」を取り上げたいと思います。何度も書きますが経済学にはさほど詳しくもない人間ではありますが、この「剰余価値」の考え方を読んだ際には、「労働価値説」を読んだ時以上に頭の中が疑問だらけとなりました。しかし、マルクス主義の根底にある思想が垣間見えた気がしました。

 「剰余価値」とは、商品の価値から生産手段の購入費と賃金を除く残りの部分である利潤のことです。マルクスは、労働者が自己の賃金にあたる価値量を生む労働を必要労働、剰余価値を生む労働を剰余労働として後者は必要労働をこえて行われるとしています。

 少し解説しますと、「労働価値説」を前提にして考えますと、商品の価値とは労働者が生み出す価値と必要経費となります。この論理に従うならば、経営者が資産を形成するためには、労働者を搾取する必要があり、巨万の富を得た者は、労働者を搾取した結果として富を得ているとの考えとなります。これは「労働価値説」を前提に考えるならば、当然の帰結とも言える考えであり、倫理的な矛盾はないと考えることができます。しかし、商品の価値は、労働で決まるのではなく、需要と供給で決まるとするならば、「余剰価値」の前提となる労働価値説は否定されることから、この「余剰価値」も否定されることになります。

 「余剰価値」では労働者は常に搾取される立場となりますが、これは奴隷労働を前提にした考えではないかと思われます。奴隷労働の場合には、奴隷は常に搾取されるだけであり、生産の成果は常に奴隷の所有者の富となります。この場合には、「余剰価値」の考えは成立することになります。しかし、労働者と従業員の関係が雇用契約で成り立っている場合には、前提条件が異なります。

 労働者と従業員の関係が雇用契約で成り立っている場合には、労働に対する賃金も需要と供給で決まります。経営者は、需要に供給が追い付かなければ、生産を拡大します。生産を拡大するならば、人手不足となり、労働者を採用しますが、労働者が十分に確保できなければ、賃上げすることになります。逆に需要が低迷して生産量を削減しなければならない状況に陥るならば、余剰人員が生まれ、採用している従業員を解雇するか、給与の削減をしなければならない状況になります。つまり労働の対価も需要と供給によって決まることになります。

 経営では、経費削減は重要ではありますが、人件費を削ることよりも売り上げを伸ばすことを考えるのが常識です。逆に売り上げが低迷するならば、経費を削減するしかなくなりますが、人件費を削減するならば、優秀な人材から流出することも常識です。優秀な人材が流出することは企業にとって大きな痛手となります。優秀な人材を確保するには、長い時間と経費も必要なことは、経営者ならば常識です。もっともそれを理解していない経営者もいることも事実ですが、多くの企業では社員教育をしています。つまり、企業としては、高い報酬を払っても報酬に見合う成果を残してくれるならば良く、何も低賃金で労働者を酷使する必要はありません。

 低賃金で従業員を酷使する企業は、ブラック企業と呼ばれていますが、ブラック企業かどうかを見分けるコツは、定期的に求人誌を見ていれば分かります。低賃金で労働者を酷使する企業は、いつも人材不足に悩まされていることから常に求人募集をしています。低賃金で労働者を酷使するならば、労働者の定着率が悪くなるのは当然であり、優秀な人材が育つはずもありません。優秀な人材を確保できなければ、企業としての成長も見込めないことから、この「剰余価値」の考えは、間違っていることになります。

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