第13話流れ着いた場所は……
──アイザックside──
「……痛っ!!!!」
痛む頭に触れるとヌルとした感触と共に、血が滴っているのが分かった。
「私とした事が油断した……」
増水した川に落ちた子供を助けたまでは良かったが、大木が流れてきた事に気づかなかった……
その衝撃で気を失い、下流まで流された様だ。
応急処置としてシャツを破り、頭に巻き止血した。
「……さて、困った……」
私は自分のいる場所が何処なのか検討もつかない。
しかし、まあ、上手く岸につけて良かった。気を失ったまま流されていたら命を落としていたかもしれない。
私が死んだら、あの令嬢は悲しむだろうか?
(いや、私の事を本気で嫌っているようだし、喜ぶかもしれないな)
クスッと笑みがこぼれた。
自分の死を喜ぶかもしれないのに、自然と笑みがこぼれたのを不思議に思った。
自分が死んででも喜ばしたいと思ったのかもしれない。
最近のシンシア嬢とは
私がシンシア嬢を見つけると相変わらず苦虫を潰したような顔をするが、他愛のない話を少し交わせるようになった。
(……ふふっ。シンシア嬢は本当に面白い)
完璧に隠れているつもりなんだろうが、
頭隠して尻隠さず状態で隠れているから、簡単に見つけれる。
まあ、完璧に隠れていたとしても、探し出す自身はある。
一度、どうしてすぐに見つかるのか聞かれたことがあった。
その時は「そんなに殺気まみれでれは、すぐに見つかりますよ」と答えた。シンシア嬢は気づいていないと思うが、当初あった殺気は徐々に薄れ始めていて、今では殆ど感じられない程になっていた。それがどれ程嬉しかったことか。
今からが勝負だと思っていた矢先にこの失態だ……
時折、私を切なそうに見てくる時がある……
あれはきっと、私を通して祖父を見ているのだろう。
シンシア嬢が何故祖父を嫌っているのかは分からない。
それでも、私と祖父は血は繋がっていても違う人物だ。
シンシア嬢……いや、シンシアには私自身を見て欲しい。
私の想いに気づいて欲しい。
そう思っていると、目の前が暗くなってきた。
血を失いすぎたらしい。
「……最期に、もう一度……」
そう呟き、その場に倒れた。
◇◇◇
──シンシアside──
「待て!!お前正気か!?」
「離して!!正気も正気よ!!」
今、私は本来の姿に戻ったライに羽交い締めにされている。
こうなった経緯は、数分前に遡る……──
私はイアンからアイザックが下流に流され、未だに行方が分からないことを聞いた。
その瞬間、私は全身の血の気が引いた。
何故?私にも分からない。
アイザックが死んだかもしれない。前までの私なら小躍りして喜んでいた。
毎朝毎晩私を追っかけ回して、隠れている私を見つけた時の嬉しそうな顔が思い出された。
ダロンに似た憎たらしい笑顔。最初の頃は何度も殺してやろうかと思っていた。その度ライに止められたけど……
そんな事を毎日繰り返される内に、ダロンの笑顔がアイザックの笑顔に塗り替えられていた事に気づいた。
アイザックの笑顔だと思えば悪い気もしなくなった。
そんな時に突如訪れた事態、アイザックが行方不明……
私は無意識の内に体が動いていた。
そして、冒頭に戻りライに全力で止められている。
「お前が行ってどうする!?お前は今生身の人間なんだぞ!?」
「分かってるわよ!!これで死んだら盛大に祀ってよね!!」
「はぁ!!!?お前は馬鹿なのか!?死ぬ為に転生したんじゃないだろ!?あいつは副団長だ!!大丈夫だから落ち着け!!」
確かにライの言っている事はもっともだし、私が行かなくても騎士であるイアン達が何とかしてくれると分かっている。
分かっているんだけど……
「ねぇ、ライ。多分、私はここで行かなきゃ未練が残って死んでも死にきれないと思うの……貴方は私が悪霊にならない様、見張りに来たんでしょ?なら、ここは離すのが得策じゃない?」
一旦落ち着いてライに話した。
落ち着いて話す私にライは真剣な面持ちで聞いていた。
「──……お前、そんな風に思えるほどアイツの事が気にかかるのか?」
「……分からない。分からないけど、ここで行かなきゃ後悔すると思う」
「私は長い事お前のことを見ていた。悪霊の時からの仲だからな。だからこそ、今回は幸せになって欲しいと思っている。……だがなもし、また前の様に裏切られたらどうする?私はお前が悲しむところを見たくない。これは神としてでは無い。友としての願いだ」
初めてライの思いを聞いた私は胸が熱くなった。
ライがここに置いてくれと懇願した時は「何で私が面倒見なきゃならないのよ」と何度も思った。
よく食べるし、よく喋るし、何より小煩い。
だけど、一度も間違ったことは言ったことないし、私を何度も助けてくれた。
いつの間にかライが隣にいるのが普通になってた……
そんなライは私の幸せを願っている。
確かに、ここでアイザックを助けに行って裏切られた日には目も開けられない。
けど、何となく分かる。
(あの人は私を裏切らない)
確信に近いその思いがあれば私は大丈夫。きっと……
私の決意が固まりライを見つめていると、ライも察した様で盛大な溜息と共に「……分かった」と一言。
「お前は言うことを聞けと言って聞くような奴じゃないしな」
優しく微笑むライは、本物の神様らしかった。
(いや、神様なんだけどね)
そうと決まれば。と部屋をでて行こうとした私をライが引き止めた。
「まだ文句があるのか?」と思っていたら、私の額にキスをしてきた。
「おまじないだ」
微笑んでいるライに文句のひとつでも言ってやろうと思ったが、口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない。
顔を真っ赤にして狼狽えていると、ライに襟元を掴まれさっさと部屋の外に追い出された。
ここでようやく
「こんの、セクハラスズメ---!!!」
そう叫ぶことが出来た。
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