第4話
(――計画通りね)
シャルロッテは心の中でほくそ笑む。
全てが彼女の計算通り。勉強熱心な彼女は、此度の王子と男爵令嬢の大恋愛について、無言を貫く水面下でずっと調査・分析を行っていたのだ。
なぜ、王子は男爵令嬢に惚れたのか。
彼女のどこが良かったのか。
男爵令嬢と自分たち貴族令嬢との差異はなにか。
令息たちの心を鷲掴みにする彼女の魅力はなんなのか。
密かな調査の結果、彼女はある事実に辿り着いたのだ。
王子は男爵令嬢自身が好きなわけではない。
男爵令嬢の平民的な立ち居振る舞いが好きなのだ。
ローゼは元平民なだけあって、貴族の常識を知らない。令嬢としての所作も教養も、なにもかも。だから生まれた時から王宮暮らしのエドゥアルトにとって、彼女の全てが新鮮だったのだ。
王子の周囲には家格の相応しい人物が配置される。彼らは総じて高位貴族の出身で、幼少の頃から一流の教育を受けてきた。
そんな中で培養された王子にとって、貴族社会では非常識すぎる男爵令嬢は感動するほどに目新しかった。
だから、王宮という狭い世界から飛び出したいと常々思っていたエドゥアルトは、これまで触れたことのない領域にフラフラと引き込まれて行っただけだったのだ。
ならば、自分がその「型破りな令嬢」になればいい――そうシャルロッテは考えた。
真面目な彼女はお忍びで王都へ下り、平民の友人を作って平民の常識や平民の恋愛事情を学んでいった。
同い年の少女や、果ては娼館の人気ナンバーワンの娼婦に男女の駆け引きの運びを教えてもらったのだ。
料理も練習して、平民のようなヘアメイクや言葉遣いも勉強して……苦労の末、彼女は男爵令嬢を凌駕する平民然とした令嬢に変貌を遂げたのだった。
(侯爵令嬢が男爵令嬢に負けるなんて絶対にあり得ないわ)
シャルロッテには王子の婚約者としての矜持があった。
王子の婚約者になったその日から、未来の王妃になるために血の滲むような努力をしてきた。そして名実ともに、王子の婚約者に相応しい完璧な令嬢になったのだ。
そんな誉れ高い己が、ぽっと出の元平民の男爵令嬢なんかに婚約者を取られるなんて許されない。
こんな屈辱は侯爵令嬢の自分には要らない。
(絶対に、エドゥアルト殿下をわたくしの元に取り戻してみせる……!)
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