第2話

 シャルロッテとエドゥアルトは5歳のときに婚約を結んだ。国王と宰相であるシャルロッテの父親が決めた婚約だ。


 幼い二人には恋愛感情などという意味も知らなかったが、それでも成長するにつれて情というものは芽生えていった。それは男女の愛情とは程遠い、友情や同志のような感覚だった。


 将来、立派な国王と王妃になって二人で国を繁栄させよう……よくそうやって一緒に未来を語り合っていた。二人は仲間であり戦友だった。

 シャルロッテはこのまま成人しても、エドゥアルトと一緒に国家のために切磋琢磨をしていくのだろうと信じていた。


 

 転機は学園への入学だった。


 この国では、貴族は15歳になると王都にある学園に全員通うことが義務付けられている。

 そこにローゼが辺境の地より入学してきたのだ。

 彼女は元平民で、父親が男爵位を金で買ったばかりなので貴族令嬢としての基本も出来ていなかった。

 その奇抜な姿は他の令嬢からは眉を顰められていたが、貴族令嬢らしくない天真爛漫で飾らない性格に令息たちからは密かに人気を集めていた。


 その中には、エドゥアルトもいた。


 窮屈な王宮暮らしの彼にとってローゼの快活な姿は新鮮で、とても輝いて見えた。

 そして彼女にとっても王子様である彼は、特別で憧れの人だった。


 二人が惹かれ合うのに時間はかからなかった。

 はじめは人知れずに愛を育んでいた。だが今では、エドゥアルトは「最愛の君」と堂々と公言して二人は深い交際をしていた。


 シャルロッテは「王族としての品格に関わる」と、何度かエドゥアルトに諫言をしたが、彼は聞く耳を持たなかった。

 二人の間に生まれた小さな亀裂はみるみる広がっていって、今や乗り越えられないくらいに溝は深く広くなっていた。


 太陽の下を仲睦まじく並んで歩くエドゥアルト王子とローゼ男爵令嬢。

 日陰でぽつねんと一人で佇むシャルロッテ侯爵令嬢。


 王子を巡る二人の令嬢の対比はあまりにも残酷で、はじめは侯爵令嬢派だった者たちも「次期王妃は男爵令嬢に違いない」と、だんだんと離れて行ったのだった。



「もう、潮時かしら。……でも、やっぱり諦めきれないわ」


 これまで夜の湖のように沈黙していたシャルロッテだが……ついに我慢の限界が来た。

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