地検特捜部 S

沢藤南湘

地検特捜部 S

陽が、島に隠れるまでまだ時間があり、海を照らし、空も茜色に染まりつつあった。

「この町ともおわかれか~」感傷的になった佐山忠孝が、つぶやいた。

 佐山は、この町で生まれ、母親節子ひとりで育てられた。父親は、富田源一郎で衆議院議員を三期目、民自党に属している実力者だ

 佐山は、県立南昌高校を卒業した。一浪して、東都大学法学部に合格した。学生時代は、勉学に励み、大学四年の時に司法試験に合格、卒業後、検察官の道を選んだ。

 明日の朝の新幹線で勤務先の大阪に向かう予定であった。

 恋人の大原信子とは、昨日、銀座で送別の晩餐を済ませていた。

 朝、佐山は母に別れを告げて、家を出た。

 東京駅の新幹線乗場に、大原信子が、佐山忠孝を見送りに来ていた。

「元気でね」

「信子も。たまには大阪に遊びに来いよ」

 大原信子は、電車が見えなくなるまでホームに立ち続けていた。

 佐山は、新大阪について電車を二つほど乗り継いで小さな駅近くにある清風寮に入った。

 部屋は、六畳の一間に机と押し入れがついているだけであった。

 佐山の職場の歓迎会は、地検の近くの小料理屋を貸し切って行われた。

 歓迎の挨拶に部長が、席を立った。

 話の内容は乏しかった。

 佐山もそれに倣って、簡単な挨拶を終え、一人ずつ席を回りながら酒を注いだ。

 参加者が、二十人近かったので、自席に戻ってから何分もしないうちに、幹事が中締めと称して、副部長に挨拶を求めた。 

 一本締めといったので、皆が両手を構えたので、佐山忠孝も分からずに皆に従った。

 佐山は帰るつもりであったが、隣に座っていた清水がもう一軒行こうと誘ってきたので、後に続いた。 海の近くに小さな店の前にスナックセブンと書かれた看板が見えた。

 薄暗い店の中に入ると、カウンターの前に五つの席と四人掛けのテーブル席が一つあるだけで、こじんまりしていた。カウンター席の一番奥に、客が一人いた。

「清水さん、お久しぶりね」五十前後の和服姿の似合う女が、客との話を中断して、我々のほうに顔を向けた。

「ご無沙汰」

「お二人?」

 頷いた清水は、カウンタの中心部の椅子に腰をおろし、佐山忠孝は、その左側に座った。

「ママ、今度うちの部にきた佐山さん」

 佐山忠孝は、よろしくと言って、頭を下げた。

「政代です、こちらこそ御贔屓にお願いします。何を飲まれますか」

「麦焼酎のお湯割りを」

「清水さんは、いつものでいいわね」

 カウンターにそれぞれのグラスが置かれて、清水は、グラスを私のグラスに当て、橋に座っている客に向かって、グラスを上げた。

「佐山さんは、関東の方かしら」

「ママ、佐山さんは、湘南ボーイなんですよ」

「そうですか、湘南のどちらですの?」

「藤沢の腰越の近くです」

「佐山さん、ママも藤沢に住んでいたことがあるそうだ」

「藤沢のどちらですか」

「本町です」

「そうですか。市民病院がある所ですね」

「佐山さん、ママに娘さんがいるんだけれど、ママに似て、きれいなんだよ」

「是非、恵が、手伝いに来る日にまた来てくださいね」

 清水と佐山は、二時間ほどで店を後にした。

 佐山忠孝は、しばらくの間、新入者教育をまた受けさせられて、寮と庁舎の往復の日々を送った。

 新入は、佐山と他の部署の矢崎健と山下登の三人だった。

 教育期間を終えた佐山忠孝は、矢崎と山下を誘って、スナックセブンに行った。

「いらっしゃいませ」カウンターの中に、政代ではなく、若い美しい女性がいた。佐山は、驚いた。

「伊藤恵さん?」

「あれ、佐山君」

 他の二人は、しばらく佐山と彼女を交互に呆然と見ていた。

「どうぞ、皆さんお座りください」

「ママの娘さんが、恵さんとは驚いたな」

 佐山は、恵とは、神奈川県の藤山中学の同窓生だったことを矢崎と山下に説明した。

「皆さん、何飲まれますか」

「焼酎でいいよな」佐山忠孝が二人に向かって言った。

 ふたりが頷くと、佐山が恵にボトルを注文した。

「ボトル代は、俺が払うから」

 佐山たちは、二時間ほどで店を出た。

 大原信子との連絡は、いつの間にか途絶え、寂しさを紛らわすだけでなく、恵に好意を抱いた佐山は、恵が、カウンターに入る日は必ず店に行った。

 佐山は、恵の顔を見ているだけで心が和んだ。

 恵が来ないある日、政代が寂しそうに言った。

「佐山さん、実は、恵には旦那がいるの。今まで黙っていて、ごめんなさい」

「そうですか」

 政代が俯いて黙った。

 大阪に赴任して、三年が過ぎた夏の日、佐山忠孝に、東京地方検察庁特別捜査部への異動の辞令がでた。

 いわゆる東京地検特捜部への異動で、栄転であった。

 佐山は、久しぶりにセブンを訪れた。

 開店したばかりの店には、政代と恵の二人がカウンターの中にいるだけだった。

「いらっしゃい、久しぶりですね」恵が、嬉しそうに言った。

 佐山の顔を見て、政代は買い物を思い出したと言って、店を出て行った。

「佐山さん、どうかしたんですか、元気ないみたい」

「東京に転勤することになったので、今日はその挨拶に来ました」

 恵は、驚きながら、佐山の顔をうかがった。

 沈黙が、続いた。

 政代が、帰ってきた。

 重々しい空気を感じた政代が、入り口で言った。

「佐山さん、花火が上がってますよ。ふたりで浜に出て、見てきたらどうかしら」

「恵さん、行きましょう」

 佐山は、何かを決心したように力強く言った。

 浜に出る道の両側には、露店が所狭しと並んでいた。

 人込みを避けて、浜辺に出たふたりは、人数が少ないところに腰をおろした。

 花火が、次々と打ち上げられた。

 ふたりは、黙って打ち上げられている花火を追っていた。

 恵が嗚咽しているのに、佐山は気づいた。

「恵さん」

 顔を上げた恵の目から涙が、流れていた。

「佐山君、いつ東京へ行くの」

「明後日の月曜日に行きます」

「そう。佐山君について行きたい」

 驚きのあまり、佐山は、それに答えることができなかった。

 ふたりは、抱き合い、恵の震える唇に佐山の唇を合わせた。

 新大阪駅で新幹線に乗った佐山を見送った恵の表情は、暗くひどく落ち込んでいた。

 恵の夫は、ギャンブル依存症で給料をすべてギャンブルに費やしてしまうため、恵は、政代の手伝いで得たわずかな金で毎日の生活費に充てていた。

 恵が、離婚を決意した時には、すでに子をおなかに身ごもっていた。

 夫が、そのことを知ると、しばらくして、一切のギャンブルを断ち、給料を恵に渡すようになった。

 恵は、政代にすべてを話した。

「恵、お腹の子は、誰の子なの?」

「お母さん、何言ってんのよ。間違いなく夫の子よ」

「じゃあ、佐山さんに一日も早く事情を話して、謝ったらどうかしら」

「どう謝ったらいいかな」

「それは、佐山さんに直接会って謝ったほうがいいよ」

 東京は、秋雨前線がまだ停滞していて、朝から雨が降っていた。

 佐山忠孝は、地下鉄丸の内線に乗り、霞が関駅で降りて、しばらく歩いて、検察庁の庁舎の前に立った。

「この九階が、今日から俺の勤め先か」

 佐山は、こみあげてきた興奮を感じながら建物に入って行った。

 職場にも慣れた頃、大阪の伊藤恵から電話があった。

「佐山さん、今度の日曜日、空いていますか。そちらに行ってお話したいことがあるの」

「ええ」佐山は、久しぶりに聞いた恵の声に心が躍ったが、恵は、待ち合わせの場所と時間を確認すると電話がきられた。

 東京に来てからは、恵への思いは、ますます膨らむばかりであった佐山忠孝は、やや緊張した面持ちで、東京駅新幹線中央口で彼女を待った。

 中央口を出てきた恵の顔には、佐山とは違って笑顔がなかった。

 佐山は、尋常ではないことがこれから起こるのではないかと危惧しながらも言った。

「恵さん、まず食事にしましょう」

「はい」と恵は、佐山の顔を面と向かって見ずに答えた。

 駅を出て近くのレストランに入った。注文を終えてから、佐山が口を開いた。

「何かあったんですか」

 恵は、覚悟を決めて、夫の子を身ごもったことや夫が立ち直ったことを俯きながら話した。

「それは良かった」佐山は、笑顔を作って応えた。

「佐山君、ごめんなさい」

「いいえ、恵さんが幸せになってくれれば、僕も嬉しいです」

 食事を終えたふたりは、新幹線中央口で別れた。

 恵は、一度も振り向かずにエスカレータに乗って、消え去った。

 佐山の目が、霞んだ。

「俺の恋は、いつもシャボン玉のように儚く消えていくのか」とつぶやいて、喧騒な駅をでた。

 数日後、南昌高校の同窓会が、学士会館で開かれた。

 ホールに入ると、佐山忠孝は、親友の戸部から声がかかった。

「佐山、大阪の生活はどうだった?」

「結構楽しかったよ。一度ぐらい、遊びに来てくれればよかったのに」

「そういえば、大原信子さんのお父さんが、栄光不動産の重役になったそうだ」

「そうらしいな。さすがだな」

「おまえ、四組の村山って覚えているか。あいつ、栄光不動産で課長になったらしい。それはどうでもいいんだが、大原信子さんが、その村山と婚約したそうだ」

「なに」佐山は、絶句した。

「先ほど、村山から聞いたんだ。おまえ、大原さん付き合っていたんじゃないか」と戸部が言った。

 大原信子は、数人に囲まれて談笑していた。

 さすがに、信子に未練がある佐山は、先日の恵との別れから間もないだけに、

(なんでこの俺が、いつもこんな目に合わなきゃならないんだ)嘆きいた。

 佐山は、村山一郎を探して、会場をさまよい歩いた。

 村山が、山形良子と話をしていたところを見つけて、佐山は、割って入った。

「おう、佐山、久しぶりだな」

「村山、今度大原さんと結婚するんだってな」

「そうなんだ。彼女と婚約したよ。おまえ、学生時代に信子さんと付き合っていたんだろう」

(勝手に横恋慕しやがって、いつか見返してやる)優越的な態度を取る村山一郎に対して、佐山は、怒り心頭に発した。

「ところで、佐山の親父さんは、確か国会議員だったな」

「そうだが、なにか」

「いや別に」

「信子さんを幸せにしてやれよ」と佐山は、水割りグラスを差し上げ、その場を後にした。

 数日後の夜、料理屋花筏の一室。

「今日は、お忙しいところわざわざご足労いただき、ありがとうございました。いつもお世話になっておりますので、ごくつろぎいただければ幸いです」と大手栄光不動産株式会社の羽生徹都市開発部長が、挨拶を述べ、頭を下げた。

 課長の村山一郎も頭を下げた。

 それに対して、沖浜市の池沢宏土木部長が

「お招きいただきありがとうございます」と応えて、池田政子都市計画課長ともども、頭を下げた。

「池沢部長、うちの社長が、是非小暮副市長と食事をしたいと言っています。その旨、小暮副市長にお伝えいただけませんか」

「分かりました。伝えておきましょう」

 それを機に、村山が、ブザーを推して、料理を催促した。

 四人の前に料理が並べられた。

「僭越ですが、今後の皆様のご健康とご活躍を祈念しまして、乾杯」と羽生徹が言って、グラスを上げた。

 飲めない池田政子は、半分ほどビールが入ったグラスを上げた。

 四人は、しばらくの間、無言で料理に舌鼓を打った。

 再び、羽生が、話始めた。

「おかげさまで、計画予定地の土地買収をほぼ完了しました。池沢部長、計画の進捗はいかがですか」

「依然として、状況は変わっていません。副市長は、積極的に計画を推進しようと考えているようですが、市長が、相変わらずこの計画に異を唱えています。市民も賛成派と反対派に真っ二つに割れています」

「そうですか」

 それから話は、ただの雑談に終始して、お開きとなった。

 村山が、持参した紙袋を、お土産と称して、池沢と池田に手渡した。

 店の玄関前で待っていた二台のハイヤーに池沢と池田がそれぞれに乗って、帰って行った。

 その数日後、東京地検宛に沖浜市のリゾート開発計画の件で、栄光不動産と沖浜市役所の間で贈収賄が行われていると匿名の告発状が届いた。

 検事正の小池隆は一読してから、次長検事の佐藤和雄を自室に呼んだ。

「佐藤次長、これを読んでください」と小池は、先ほど読み終んだ告発状を手渡した。

 しばらくの間、佐藤の告発状をめくる音が続いた。

「もしこのことが本当なら、大変な事件になりますね。しかし、どうしてこの告発状を我々の所に送ってきたのでしょうか」

「それは私にもわからないが、検察としては見逃すことはできないが、立件できなかったら一挙に国民の信頼を失うことになります」

「分かりました。平田特捜部長と相談して、早速プロジェクトを組みます」

 佐藤は、部屋を出て、次長検事室に戻ってから特捜部長の平田栄を呼び出した。

 そして、沖浜市のリゾート開発計画にまつわる官民癒着を訴える告発状を平田に渡した。

 佐藤からプロジェクトチームのメンバーの作成を依頼された平田は、席に戻るとすぐにメモ用紙に案を書きつけた。

 主任検事を副部長の川上要とし、メンバーは検事の山本進、梶山茂、副検事の佐山忠孝、事務官の湯上太郎と山田真理子とした。

 そして、平田は、早速この案をパソコンで作成した稟議書を次長の佐藤和雄に提出した。

 この稟議書の決済は、一時間足らずで承認された。

 すぐに、平田は、メンバーを会議室に招集した。 

 佐山だけでなく招集をかけられた検事や事務官たちも、大変な事件に関わるのではと神経をとがらせていた。

 平田は、このプロジェクトの目的の説明及びメンバー紹介を行った。

「この案件は、秘密裏に進めていく。マスコミなどに漏れて、横やりなどはいるようなことがあれば、特捜の存在意義まで疑われる可能性があるので、ここにいる人間以外には、本件の話は一切しないように心してかかってくれ。では、川上主任検事、後をよろしく頼む」

 平田が、部屋を出ると川上が、沖浜市のリゾート開発計画にまつわる沖浜市職員と栄光不動産の贈収賄について書かれた告発状のコピーを皆に配った。

「佐山君、東京での初仕事だ。頑張ってくれ」と川上が、佐山を励ました。

 佐山は、はいと答えるのが精一杯であった。

(大原信子の結婚相手の村山一郎の勤め先で、また彼女の父親が重役の栄光不動産の贈賄を暴く仕事を担当するとは、なんというめぐりあわせなんだ)佐山は、辛い仕事が回ってきたと嘆いた。

 栄光不動産の社長大熊裕次郎と専務の大原信一郎が、赤坂の料亭’ひょうたん’の一室で副市長の小暮正一の到着を待っていた。

「大原専務、小暮さんという人はどんな人ですか」

「商務経産省からの出向で、年齢は。四十五歳ぐらいだったと思います。ゴルフを二年前から始めたそうで、今は病みつきになっているようです。スコアーは百前後と聞いてます」

「上級官僚ですか。副市長になってから何年目ですか」

「確か二年数か月だと思います」

 十五分ほど過ぎた。

「お客様が、お着きになりました」扉の向こうから、女将の声がした。

「どうぞ」大原と大熊が、扉の横に立ち、副市長の小暮正一と土木部長の池沢宏を迎えた。

「この度は、お忙しいところ遠路よりお越しいただき、誠にありがとうございます」

 大熊の挨拶を受け、お招きありがとうございますと小暮が答えると、大熊の勧めで皆が所定の席に腰をおろした。

「気楽になさってください」と大熊が、言った。

 失礼しますと言って、小暮は胡坐に座りなおした。

「では、飲みましょう」大熊は、ビール瓶を持って小暮に差し出した。

 大原も、池沢のグラスにビールを注いだ。

 大熊は小暮から、大原は池沢からビールを注いでもらった。

 大熊の乾杯の音頭で、会食が始まり、しばらくの間、皆黙って飲食にいそしんだ。

 それが落ち着いた頃を見計らって、大熊が、小暮に話しかけた。

「小暮副市長は、ゴルフがお上手ときいていますが、今度私共が経営しているゴルフ場に是非お招きしたいんですが、いかがでしょうか」

「二年前ぐらいに始めたのですが、一向にうまくなりません。大熊社長さんは、仕事柄お上手なんでしょう」

「いや、それがだめなんですよ。運動神経が悪いので、百を切るのが精一杯です。私と反対で、ここにいる専務の大原は、、シングルなんですよ」

「シングルですか」小暮の目が輝き、

「是非、一緒にまわりたいですね」と言った。

「それは、楽しみができましたね。社長」大原は、、嬉しそうに大熊のほうへ顔を向けた。

「池沢部長もゴルフがお上手だと都市開発部長の羽生から聞いています」と大原は、池沢にビールを差し出した。

「下手な横好きです」

「社長、皆さんお忙しい方ばかりなので、ゴルフの日にちを決めておきませんか」と大原が言った。

 次の週の土曜日に皆、賛同したので、大原は部屋を出て、ゴルフ場を予約した。

 そして、大原は、女将の所に行って、そろそろよろしくと伝えた。

 大原が席に戻ってからしばらくして、女将が、芸子を三人連れて部屋日入ってきた。

「こんばんわ」と芸子たちは、正座して、小暮達に向かって頭を下げ、八重、千代そして、三味線の佳乃とそれぞれが名のった。

「では、踊りを披露させていただきます」と女将が言った。

三味線の曲に合わせて、芸子二人が日本舞踊を踊り始めた。

その間、女将は、小暮そして、池沢と酌してまわった。

踊りが終わり、三味線の音が止まった。

「皆さま、踊りの後はゲームで盛り上がりませんか」と女将が、言った。

「いいね」大原が応えた。

「大原さま、おひらきさん、やりましょうよ」

 大原は、八重から腕を掴まれ、正面に出された。

「最初はグウ、出さなきゃ負けよ、じゃんけんポン」

 大原が勝った。

「くやしい」と言って、八重が、心もち足を開いた。

 それからは、八重が勝ち続けて、とうとう大原は足を開き切り、

「だめだ」と言って、倒れてしまった。

「大原さまの負けです。さあ、ぐっと一気に飲みましょう」と女将が大原のグラスに酒を注いだ。

「池沢部長、次どうですか」と大熊が池沢に向かって言った。

「池沢さま、どうぞ」女将が、勧めた。

 赤ら顔の池沢が、前に出て行って、大原を負かした八重とじゃんけん勝負を始めた。

 池沢はじゃんけんに強く、すぐに八重を負かせてしまった。

 池沢は席に戻ると、八重が持ったグラスに、なみなみと酒を注いだ。

「池沢さま、あまりいじめないでください」と言って、一気に飲み干してしまった。

 池沢は、空になったグラスを受け取った。

「大熊さま、そろそろ出番ですよ」女将が、大熊を促した。

 二人目の芸子の千代が、相手となった。

 大熊は、いい勝負をしたが、もうだめだと言って、ドスンと音を発して前のめりに倒れた。

 千代は、大熊のグラスになみなみと酒を注いだ。

「かなわんな」と言って、大熊はちびちびと飲んでいると、

「大熊さま、頑張って」と女将が、激励した。

「小暮副市長、敵を討ってください」と大熊が、小暮に声をかけた。

「小暮さま、さあ前へ」女将が、勧めたので、しぶしぶ小暮が前へ出た。

 小暮は、強かった。

 あっという間に千代に勝ってしまった。

「小暮さまは、お強いですね」

 小暮は、負けた千代が差し出したグラスに半分ほど酒を注いだ。

「副市長は、やさしい」大熊が、大声を上げた。

「女将、次は、陣取りゲームをやろうよ」大原が、言った。

「それはいいですね」女将が、応えると、

「どんなゲームなんですか」小暮が、女将に向かって言った。

「男女のペアの二組以上で行なうゲームです。新聞紙を広げ、その上に立ちます。そして、じゃんけんをして負けたら新聞紙を半分に折り、そこにペアが経ちます。さらにじゃんけんをします。負けるとさらに新聞紙を折り、徐々に立っていられる場所が狭くなってきます。狭くなってきたら、おんぶしたり抱き上げたり、肩車をしてもいいですが、転んだり、新聞紙の上から出てしまったら負けになります。あみだでペアを決めたいと思います」

 と言って、女将は、部屋を出て行って、あみだを作ってきた。

 皆、線を入れて、名を書いた。

 大原は、審判をすると言ったので、外された。

 女将は、線をなぞった。

「小暮さまは、私とですわ」

 大熊は八重と、池沢は千代とのペアが決まった。

 試合は、トーナメントとし、組み合わせは、じゃんけんで決めた。

 最初は、大熊・八重と池沢・千代の戦いが決まっり、それぞれのペアが広げた新聞に乗った。

「さあ行きますよ。いいですか。最初はぐう、出さなきゃ負けよ、じゃんけんポン」大原が、取り仕切った。

 八重がぱあ、千代がぐうで大熊チームが勝ち、負けた池沢ペアの新聞紙が、大原によって、半分に切られた。

 なんとか、池沢と千代は立つことができた。

「池沢さま、がんばって」女将が、声を上げた。

 池沢が大熊とじゃんけんをした。

「また負けた!」池沢は、大声を発した。

「千代さん、おんぶだ」

「半分に切りますよ」大原が言うと、千代が池沢の背中に乗った。 

「いくわよ」千代が背中の上から、ぱあをだしたが、八重は、ちょきを出していた。

 池沢は、もうだめ立ち言って、負けを認めた。

「大熊・八重ペアの勝ちです。次は、小暮・女将ペアとの戦いになります。では、小暮・女将ペア、どうぞ」大原は、小暮達を促した。

 大原の携帯が振動した。

「ちょっと失礼します」と言って、大原は部屋を出た。

 すぐに戻ってきたが、良からぬ電話だったような顔つきに変わっていた。

 そして、大熊の顔を見て判断を仰いだ。

 大熊が、頷いた。

 小暮は、それを見て、

「大熊社長、残念ですが、今日はここまでとしませんか」と、新聞紙から降りて言った。

「申し訳ございません。是非、近いうちにこの続きをいたしましょう」と言ってから、大熊は、大原に合図を送った。

 一同、席に戻った。

「小暮副市長、今日はお忙しい所、遅くまでお付き合いいただきありがとうございました。来週のゴルフ、楽しみにしています」と大熊がしめた。

「楽しく過ごさせていただきありがとうございました」と小暮が応えた。

 大原が、床の間において置いた紙袋を持って、出口でつまらないものですがお土産に持っていってくださいと言って、小暮と池沢に手渡した。

 大熊、大原そして女将が、小暮と池沢を見送った。

「女将、ちょっと社長と打ち合わせがあるので部屋を貸してもらうよ」と、大原が言った。    

 二人は、化粧のにおいが残っていた部屋に戻った。

「社長、先ほど村山課長から電話がありまして、今日の夕方、沖浜市の職員にリゾート開発の件でどこからかわからないそうですが、細かいことを聞いてきた人がいたそうです」

「どんなことか、明日、村山から聞くことにする。昼一番に来てくれ」

「承知しました」

 

 東京地検特捜部では、川上要主任検事が、栄光不動産の業績を調査するよう山本検事と佐山忠孝に命じた。

「山本検事、佐山君、国税庁とタイアップして進めてくれ。必ずこの何年かの栄光不動産には、使途不明金があるはずだ。それを突破口にして、内部告発の裏を取るんだ」

 佐山は、国税庁調査査察部に連絡を取ったところ、栄光不動産を担当している藤山武を紹介してもらった。

 佐山は、藤山の都合を聞いて、国税庁を訪れた。

 そして、栄光不動産の内部告発の内容を説明し、その信憑性の調査に入ったことを話した。

「佐山さん、ちょうどいいタイミングです。来月、栄光不動産の本社に査察に入ります。よろしかったら、その事前準備からご一緒しませんか」

「お邪魔でなかったら、是非お願いします」

 佐山は、地検に戻って、山本に国税での話を報告した。

「佐山君、私も同伴させてもらいたいので、藤山さんにそのことを伝えてもらえないか」

「承知しました」

 昼一時、栄光不動産本社社長室では、村山一郎が、社長の大熊と専務の大原に昨日の件である沖浜市のリゾート開発に関する職員への問い合わせについて、報告を終えた。

「そのことを君は、誰から聞いたんだ」と、大熊が言った。

「沖浜市の池田課長から聞きました」

「昨日、池沢部長は何も言ってなかったぞ」

「池沢部長が、帰られてから問い合わせがあったようです」

「分かった。村山君、これからも沖浜市とのつなぎをよろしく頼んだぞ」

 村山は、大原から退出を促され部屋を出て行った。

「社長、どう思われますか」

「タレコミがあったのかもしれんが、しばらく様子を見るしかないな」

 ふたりとも一抹の不安を抱き始めた。

 国税庁では、査察前に藤山武が使途不明金について徹底的に調べていた。

「藤山さん、結構な金額になりそうです」と藤山の部下が途中経過を報告してきた。

「あまり査察まで時間がないから、早々にまとめに入ってくれないか。どのくらいでできそうか」

 藤山は、まとまり次第、佐山を呼ぼうと考えていた。

「あと三日ほどかかりそうですが」

「分かった。頼む」

 藤山は、受話器を取って、佐山忠孝に連絡を入れた。

「佐山さん、藤山です」

「ご苦労様です」

「栄光不動産、かなりの使途不明金が見つかりそうです。あと三日後にはまとまりそうなので、また事前にお電話します」

「そうですか。分かりました。ご連絡お待ちしています」

 佐山は、山本に藤山からの電話を報告した。

「そうか。きっと、それが突破口になるだろうよ」と山本は、満足そうに言った。

 三日後の朝、藤山から佐山忠孝に電話が入った。

「午後、査察の準備ができましたので、御都合がよければこちらに来ていただけませんか」

「分かりました。ちょっとお待ちください」と言って、佐山は山本に都合のいい時間を聞いてから受話器を取った。

「お待たせしました。一時三十分でいかがですか」

「お待ちしています」

「私のほか、上司の山本も一緒にお伺いしたいのですが」

「承知いたしました」

 佐山と山本は、一時間ほど藤山から使途不明金の件について、説明を受けた。

「藤山さん、栄光不動産の窓口は誰ですか「

「開発関係の課長の村山一郎さんという方です」

 佐山は、声を上げそうになるのを抑えた。

(まさか、あいつが担当とは)

「佐山さん、査察の日どうされますか」

 藤山の声が、佐山には聞こえなかった。

「佐山さん、査察の日立ち会いますか」藤山が、大きな声で繰り返した。

 我に返った佐山は、山本の顔をうかがった。

「佐山と私が、同席させてもらっていいでしょうか」山本が応えた。

「もちろんいいです」

 検察庁に戻った二人は、早速、主任検事の川上に報告した。

「査察は、一週間後か。山本検事、これからどう進めていく?」

「徹底的に使途不明金について、村山一郎という男を追求して、贈賄の事実を明らかにさせます」

「村山という男が、責任者か」

「はい、開発関係の課長の村山一郎という社員が、国税の窓口のようです」

「課長か。トカゲの尻尾にならなければいいんだが」

 佐山は、これからの取り調べに不安を抱いた。

「沖浜市の幹部のほうからも攻めているから大丈夫だと思うが、二人とも十分心してかかってくれ」と、川上は、自分を諭すかのように言った。

 佐山忠孝は部屋に戻ると、事務官の湯上太郎と山田真理子に一週間後に栄光不動産に国税の査察に同伴する旨を伝えて、山田に国税から持ち帰った資料を渡し、コピーを三部頼んだ。

「いよいよ本丸の攻撃開始ですね」湯上が、顔を引き締めていった。

「明日午後にでも山本検事を入れて、今後の作戦をたてたいから、あなた方もよく読んでいてください」

「分かりました」

 三日後の土曜日の早朝。

 黒塗りの車の助手席から村山一郎が、降りた。

「ここだな」

 ’池沢’と書かれた表札の横のインターホンを押した。

「おはようございます。栄光不動産の村山です。お迎えに上がりました」

「ご苦労様です。すぐに参ります」と池沢の妻の声であろうか女が、返事に出た。

 池沢を乗せた車は、尾山台の小暮の邸宅に向かった。

「池沢部長、今日は、秋晴れで絶好のゴルフ日和になりますね」

「そうですね。ところで、村山さんは、ゴルフはどうなんですか」

「好きですが、下手な横好きです。まだ、お客様とまわるほどうまくはありません」

「そうですか、是非一度ご一緒したいものですね。我々下っ端だけで」

「いいですね。また、日程をご連絡します」

 尾山台で、小暮を乗せて、一時間ほどで、千葉の栄光不動産経営のゴルフ場に到着した。

 エントランスホールのソファに、ウエアーに着替えた社長の大熊裕次郎と専務の大原信一郎が、コーヒーを飲みながらこそこそと話をしていた。

「おはようございます」と、村山が、小暮と池沢を連れて、大熊の前に立った。

 大熊と大原は小暮たちに気づいて、席を立ち作り笑顔で挨拶をした。

 四人が、ティグランド付近に立った。

「皆さん、面白くするために多少かけませんか」と大熊が、賭けゴルフを提案した。

「いいですね。個人戦と会社対抗とふたつでいかがですか」小暮が、応えた。

「それは面白いですね」と、大原が賛成した。

 ルールと掛け金が、決まり、小暮がドライバーを持って、ティグランドでボールをセットした。

 二、三度素振りをして、構えに入った。

’バッシ’

 打球は、フェアウエーの真ん中を弾丸ライナーで飛んで行った。

「ナイスショット」三人が声をそろえて言った。

「副市長、すごい。二百ヤード近く飛んでますよ」大原が、戻ってきた小暮に声をかけた。

「出来すぎです」

 次に、大熊が打った。

 距離は出ないが、フェアウエーのど真ん中に落ちた。

 百六十ヤードぐらいだ。

「社長は、フォームがきれいですね」小暮が、ほめた。

 続いて、大原。

 がっちりした体格としなやかなフォームから、打球は、小暮より二十ヤードほど先に落ちた。

「ナイスショット」皆が発した。

 そして、最後に池沢が、

「皆さん上手ですのでやりにくいですね」と言ってから、構えに入った。

’バッシ’

 打球はスライスして、フェアウエーからそれた。

 皆それぞれのボールに向かった。

 そして、プレイは続き、ハーフで簡単な食事をとり、十八ホールを終えたのは、十四時を多少過ぎた時であった。

 風呂に入り、着替えた四人は、レストランに集まった。

 すでに大原が注文していた生ビールと簡単なつまみが、テーブルにセットされていた。

「今日は、お忙しいところお付き合いいただきありがとうございました。では、乾杯」と大熊が言って、ジョッキを持ち上げた。

「ありがとうございました」と小暮と池沢が応えた。

 大原は、皆から集めたスコアカードを見ながら計算した。

 そして、その結果を読み上げた。

「発表します。一位副市長、二位池沢部長、三位大原、四位大熊社長です」

 結局、小暮が一人勝ちで、池沢がトントン、大原、大熊がマイナスであった。

「副市長の勝負強さには恐れ入りました」大原が言って、頭を下げた。

「大原さんは、どうされたんですか」小暮が、訝しそうに言った。

「グリーンにうまくのっても、芝がうまく読めないんですよ」

「どちらにしても、我々は完敗です」と大熊が、残念そうに言って、札入れから負け分を支払うと、大原も続いて支払った。

「次回に、リベンジさせてください」大熊が、言った。

「社長、返り討ちにならないよう練習しておかねばなりませんね」と大原が笑いながら言った。

「次回も楽しみにしています」小暮が、言った。

「その前に、今回の反省会を先日の店でやりませんか。あのゲームの続きもありますので、どうですか」大原が、言った。

「それはいい。副市長、いかがですか」と大熊が言うと、

 小暮は、笑顔で頷いた。

 数日後、国税による栄光不動産本社の査察が、行われた。

 大会議室に関係者が、集まった。

 都市開発課長の村山一郎は、その中に、佐山忠孝がいるのを見て仰天した。

(あいつは今東京地検のはずだが、なぜこの場にいるんだ)

 驚きを抑えた村山は、初対面を装っている佐山と名刺を交換した。

 栄光不動産の出席者は、村山以下、数人がキングファイルを前にして席についた。

 国税庁の藤山武以下三人そして、検察庁の山本進検事と佐山忠孝が、椅子に腰をおろした。

 査察の三日目、一連の監査を終えた藤山は、村山に使途不明金について質問をした。

 それに対して、村山は

「土地購入のための住民に対しての交際費だったと思います」

 と答えた。

「領収書だけでは、この金額にはならないんですよ。他にバウチャーは、ないんですか」

 と藤山が、言ったのに続いて、佐山忠孝が、口を開いた。

「御社は、昨年度、使途不明金の五千万円だけでなく、それとは別に、計上されていない金額が一億円ほどあるそうですが、何に使われたのですか」

「うっかりミスです。申し訳ありません。追徴課税をお支払いすることにしています。それでいいでしょう。地検の方には、関係無いと思います」

「実は村山さん、御社が沖浜市の幹部社員へ贈賄しているのではとの疑いがあります。我々は、その調査に入っています」

「なんですって、わが社に限って、そんな法に触れるようなことをするはずがありません。いい加減にしてください」

「証拠はあります。是非、村山課長にいろいろお聞きしたいことがありますので、この査察が終わり次第、地検にご同行いただきたいのですが」

「それは、任意ですか」

「そうです。拒否されても結構です」

 しばらく待ってくれと言って、村山は会議室を出て行った。

 村山は、部長の羽生に意見を求めた。

「大原専務に相談しよう」と言って、羽生は受話器を取って大原の在席を確認した。

 大原の部屋に入って、村山が国税や地検とのやり取りを説明した。

「村山君、我々と沖浜市の幹部との濃密な関係は、口が裂けても言うな。今までの努力が水の泡になってしまう。もう少しでこの計画が成就するんだ。君はこの結果次第では、部長昇進が約束されているんだ。検察をうまく丸めこのんでくれ」

「専務、村山君は、任意同行に応じていいんですね」

「断るという選択肢はない。頼むぞ村山」

「承知しました」

 村山は、佐山の後に続いて、東京地検の庁舎に入って、取調室に案内された。

 すでに佐山から連絡を受けていた事務官の湯上太郎が、丁重に迎えた。

 佐山が、村山を前に、本人確認をしてから、数々の質問をし続けた。

「村山さん、あなたが沖浜市の池沢宏土木部長と池田政子都市計画課長を花筏で接待したことは分かっているんだ。その時、彼らにいくら渡したんだ」と言って、机を叩いた。

「ただ会食をしたまでです。とんでもない、お金なんか渡していません」

 村山一郎は、知らぬ存ぜずを通した。

「村山さん、正直に言えよ」佐山忠孝は、イラついてきた。

「佐山さん」湯上が、佐山に声をかけた。

 佐山は、焦り始めた。

「今日は、これで終わりにしますが、また明日十時に来ていただけませんか」

「これ以上、お話することはありませんが」

「明日十時ですよ」

 湯上が、供述調書を読み上げ、村山一郎にサインを求めた。

 しぶしぶサインした村山は、佐山の恫喝的な言い方に腹を立てながら、湯上の開けた扉から出て行った。

 そして、本社に戻った村山は、羽生と大原に取り調べ内容を報告した。

「村山君、弁護士をつけようか」大原が、心配そうにいった。

「もう遅いかもしれません。これからは、黙秘で行きます」

(いまさら何を言っているんだ)

 村山は、かなり精神的にまいってきていた。

 翌日から朝から夕方まで村山一郎は、検察庁で取り調べを受けた。

 村山は、肝心なことは黙秘を続けた。

 五日目になった。

 村山一郎は、相変わらず黙秘を続けていた。

「村山さん、あなたが沖浜市の小暮正一副市長や池沢土木部長を乗せて、お宅のゴルフ場へ案内したこともばれているんだ。そろそろ正直に言わないと反省の情がないとみて、あなたにとって不利な判断が下されるぞ。それでいいんだな」と言って、机を叩いた。

 佐山忠孝は、焦った。

 時間切れで、取り調べを終えた村山は、いつものように本社に向かった。

「湯上さん、山田さん、今日は、疲れたので帰ります」と佐山は、カバンを手にして部屋を出て行った。

「副検事も疲れたんでしょう。我々も帰りますか」と湯上が、山田に言ったその時、ノックがした。

 湯上が返事をすると、池上副検事が入ってきた。

「佐山副検事は?」

「ちょっと前に帰りましたけど」

「そうですか」と言って、残念そうに池上は、部屋を出て行った。

「池上副検事、沖浜市についてなにかつかんだのかな」と湯上が、言った。

「いい情報であればいいですね」

 昨夜は村山一郎に会えずに退社した栄光不動産都市開発部長の羽生が、いつもの九時に出社して、村山の部下の係長に村山に昨夜からあっていないか聞いた。

 村山には、昨日からあっていないとの彼からの返事だった。

(村山に何かあったのか)と羽生は、一抹の不安を抱いた。

 早速、村山の携帯に電話を入れてみたが、呼出音もなく電話はつながらなかった。

「村山は、寮生だったな」と思い出して、寮に電話をした。

 寮監が、でた。

「開発部の羽生ですが、昨日村山君は寮に帰ってきましたか」

「札は、不在のままです」

「申し訳ありませんが、部屋に行って確認してきてくれませんか」

 はいと言ってから、しばらくしてから

「部屋には、鍵がかかっていましたので、何回かノックしたんですが、返事はありませんでした」

「そうですか。ありがとうございました」

 その日、村山からの電話を待つ羽生は、居ても立っても居られず仕事に手がつかなかった。

(大原専務に伝えたほうがいいのか。いや、もう少し様子を見よう)

 定時のオルゴールが鳴ると、早々と帰り支度をして、会社を出た。

 久しぶりに、羽生は、妻の芳江とビールを飲みながら食事をした。

「あなた、元気ないわね。どうしたの」

「ああ」

「一体どうしたんですか」

「うん、仕事がちょっとうまくいかなくてね」

「そう。めずらしいわね・・」

 翌日、羽生は、朝一番で専務の大原の部屋に入った。

「朝早くからどうした」

「実は一昨日から村山君から連絡がないんです。電話しても通じないし、寮にも帰っていないようです」 

「なんだって」

 大原の頭の中は、激しく回転した。

「専務、いかがしたらいいでしょうか」

「検察からは、何も連絡ないのか」

「なにもありません」

「そうか、ならば羽生君、検察へ電話して、取り調べ最後の日、村山君はどんな様子だったか聞いてみたまえ」

羽生は、自室に戻り、検察庁に電話した。

「はい、佐山副検事室です」事務官の山田真理子が、受話器を取った。

「佐山副検事に、外線で栄光不動産の羽生さんという方からお電話ですが」

 山田は、佐山忠孝に確認をしてから、まわしてもらうよう返事をした。

「お待たせしました。佐山副検事室です」

「栄光不動産の羽生といいます。佐山さんにお聞きしたいことがありまして、お電話したのですが、いらっしゃいますか」

「どのような御用でしょうか」

「当社の村山一郎の件で、お聞きしたいことがありまして」

 山田は、再度佐山に羽生の用件を伝えた。

「佐山です」

「突然すみません。私、栄光不動産の羽生と申します。現在、そちらで取り調べを受けている村山一郎の上司です。実は、一昨日の晩から村山の姿が見当たらないんです。佐山さんが、一昨日取り調べをされていたんですね」

「はい、私一昨日十六時まで、村山一郎さんとお話をしていました。彼は、昨日も今日もこちらには来ていませんので、ちょうど御社へ電話をかける所でした」

「そうですか。一昨日、彼に何か変わった様子はなかったですか」

「だいぶお疲れのようでした。村山さんが、こちらに見えるまで、どなたか村山さんの代わりを出していただけませんか。まだお聞きしたいことが、いろいろありますので、よろしくお願いします」

「分かりました。誰を出すかは、またご連絡します」と羽生は言って、電話を切った。

 そして、大原の部屋を訪ねて、佐山忠孝副検事との話を報告した。

「羽生君、もしかしたら村山君はもう生きてはいないかもしれん」

「私も不吉な予感がします」

「どちらにしても、村山君の代わりは君がやってくれ。いいな」

 羽生は、返事に窮した。

「そのための部長なんだから」

「分かりました」

 羽生は、憂鬱な顔をして自室に戻って、佐山忠孝に電話した。

 秋も深まり、朝陽が、もの寂しそうに海や陸を照らし始めだした頃、

 晴海埠頭で釣りをしていた男が、海面に浮いているものを見つけた。

「あれは、なんだ」

 男は、釣り針をひっかけて手前に寄せようと試みたところ、ものがひっくり返った。

「人間だ」男は震える手で携帯を取り出し、警察に電話した。

 十分もたたないうちに、パトカーがやってきて、警官ふたりが、降りた。

「お巡りさん、こっちです」釣り人が、大声を上げた。

「人見さん、男の死体ですね」

「そのようだ。矢部君、署へ連絡してくれ」

 矢部は、晴海署に電話をした。

 すぐに埠頭は、警察の人間で埋め尽くされた。

 潜水夫たちが、男の死体をコンクリートの土間に仰向けに置くと、鑑識と捜査一課の刑事が手を合わせて、多面的に観察し始めた。

「佐久間さん、溺死でしょうか」刑事の須田が言った。

「ちょっと待ってください。後頭部に打撲の跡があります」鑑識が、言った。

「頭を打ってから溺れたのか、溺れてから頭を打ったのか、どっちだ」捜査一課主任の佐久間が、鑑識に向かって言った。

「どうも頭を打ってから水を飲んでいるようですね。死亡推定時刻は、昨日の夜九時から十二時の間と思われます」

「身元は、分かったか」佐久間が、声を上げた。

「自動車の免許証や名刺から、栄光不動産の村山一郎と思われます」近くにいた刑事の吉沢が、応えた。

「分かった。自殺か他殺か断定できないな。吉沢、司法解剖にまわすよう手続きしてくれ」

「須田、山下と一緒に栄光不動産に行って、村山一郎について調べてくれ」

「承知しました」

 須田と山下は、栄光不動産の羽生と面会した。

 免許証の写真を見せられた羽生は、

「間違いなく、当社の社員の村山一郎ですが」と応えるも、村山一郎の死亡を告げられると、覚悟はしていたものの驚きを隠すことができなかった。

「死因はなんですか」

「溺死のようです」

「自殺でしょうか」

「まだ分かりません」

「そうですか」

 羽生は、村山一郎が、贈収賄疑惑で、東京地検に何度も呼び出されていたことや数日前から音信が途絶えていたことを須田たちに説明した。

「羽生さん、東京地検の担当はどなたですか」

「佐山忠孝副検事です」

(新入りの検事かな)須田は、その名を聞いたことがなかった。

「羽生さん、村山一郎さんの近親者の連絡先を教えていただけませんか」

 村山一郎の実家の電話番号を聞いた須田たちは、また話を聞きに来るかもしれないと言って、部屋を出て行った。

 一方、羽生は、専務の大原の在席を確認して、専務室に入った。

「専務、先ほど警視庁の刑事が来まして、村山君が晴海埠頭付近で水死体で発見されたと」

「なんだって、死因は何だ」

「溺死のようです。自殺かどうかまだわからないと言ってました」

 大原は、娘の信子の嘆き悲しむ様子を思い浮かべた。

「社長に報告しに行こう」

 須田と山下は、栄光不動産のビルを出た。

「須田さん、さすが大手不動産のビルですね」

「そうだな。村山一郎は、地検の取り調べに耐えられなくなって自殺したのだろうか。地検の佐山副検事にも話を聞いてみる必要があるな」

 晴海署の捜査一課では、佐久間が、須田たちの帰りを待っていた。

 帰ってきた須田は、栄光不動産から得た情報を報告した。

「いろいろ複雑な事情があるようだな。慎重に捜査してくれ」

 佐久間が、言った。

「主任、明日、東京地検の佐山副検事に、話を聞きに会いに行って来ようと思うんですが」須田が、言った。

「いいだろう、相手は特捜だ。慎重にな。吉沢と上村は、埠頭付近で村山一郎を目撃した人間がいないか、また防犯カメラも併せて調べてくれ」

 佐久間は、捜査一課長に経過報告をして、自席に戻って目を閉じた。

 朝、佐山忠孝は、寮で、新聞をなにかを探すかのようにくまなく読んでいた。

「なにも載っていないな。今日から、羽生氏の取り調べだ」と言って、トーストを口にした。

 食べ終わり、日課である水槽の七匹のメダカにえさをやった。

「さあ、行くか」スーツ姿になった佐山は、自宅を出て、いつもの電車に乗り、いつも通り九時に席についた。

 それとほぼ同時に、

「佐山副検事、警視庁の須田さんという方からお電話です」事務官の山田が、言った。

 佐山が、受話器を取って名のると、

「初めまして、警視庁捜査一課の須田と言います。佐山さんは、栄光不動産の村山一郎さんをご存じだと思いますが」

「ええ、最近まで彼から沖浜市のリゾート開発計画の件でいろいろ話を伺っていたところです」

「実はその村山さんが、晴海埠頭付近で、水死体で発見されました」

「えっ。彼が、水死体で。自殺ですか」佐山忠孝は、大声をあげた。

 事務官の湯上と山田も驚いた。

「まだどちらとも言えませんので、我々は、自殺と他殺の両方から捜査しています。お忙しいところ申し訳ありませんが、一度お会いして、村山さんの事を詳しくお聞かせいただきたいのですが」

「そうですか。今日は、十六時まではつまっていますが、それ以降ならいいですよ」

 須田と山下が、検察庁を訪れたのは、約束した十六時三十分だった。

 須田は、佐山忠孝が、村山にどのように事情聴取をしていたか恐るおそる聞いた。

「ご存じでしょうが、あまり細かいことは業務上言えませんが、沖浜市の上層部と栄光不動産の幹部との贈収賄について、村山一郎氏を取り調べていました。特に、多額の使途不明金について、明らかにするよう追及していましたが、彼は知らぬ存ぜずを通していました」

「なるほど、最後に会った時は、彼はどんな様子でしたか」と須田が、聞いた。

「大変疲れている様子でしたので、いつもより早く切り上げました」

 須田は、腕時計に目をやってから、

「佐山副検事、今日はお忙しいところありがとうございました。また何かありましたらよろしくお願いします」

 須田たちは、頭を下げて、部屋を出て行った。

「佐山副検事、村山一郎さんは、自殺なんですか」と事務官の湯上が、聞いた。

「おそらくそうでしょう」

「上司の羽生さんは、村山一郎さんほど詳しいことは知らないようですね」

「キィーマンの村山一郎さんが亡くなったのは痛いですが、なんとか、一日も早く、沖浜市と栄光不動産の贈収賄を立件しなければなりません。山本主任検事の所に行ってきます」

 佐山忠孝は、山本の部屋に入った。

「山本検事、村山一郎が、自殺したようです。先ほど、警視庁の刑事から連絡がありました」

「やはりこの二、三日取り調べに来なかったのは、もう彼は亡くなっていたということか。このこと、川上主任検事にも伝えておこう」

 佐山忠孝から村山一郎の自殺の件を聞いた川上は言った。

「トカゲの尻尾が、切れたか。この事件が、うやむやになったら、我が特捜は、マスコミに叩かれ権威失墜の憂き目にあうぞ。山本検事、佐山副検事、一日も早く、羽生を落とすんだ」

 検察庁を出た山下が、須田に聞いた。

「須田さん、やはり村山一郎は、贈賄の罪の意識に耐えられずに自殺に至ったのでしょうか」

「その線が強そうだな」

 署に戻った須田は、主任の佐久間に佐山副検事から聞いた話を報告した。

「そうか、自殺の可能性が高いな」

「主任、目撃者や防犯カメラのほうは、どうでしたか」

「残念ながら、あの付近で彼を見た人間はいませんでした。防犯カメラはあの辺は少なく彼が映っているものはなかったです」と、佐久間の隣にいた吉沢が応えた。

 部屋に上村が、入ってきた。

「主任、司法解剖の結果が出ました。村山一郎の胃からアルコールとこんにゃくらしきものが、検出されました」

「なんだって、自殺しようとする人間が、おでんで一杯なんて」佐久間が、唸った。

「主任、これから埠頭近くの居酒屋をあたってみます」と言って、須田が、山下を促した。

「ちょっと待て」佐久間が、引き出しから地図を出した。

「吉沢、上村も調べてくれ」と言ってから、須田と吉沢にそれぞれ調査範囲を割り当てた。

 七時半をまわっていた。

 一時間半ほどたってから、佐久間の携帯が鳴った。

「主任、吉沢です。村山一郎が飲んでいた店が見つかりました。それが、村山一人ではなく、相手がいたんです」

「誰だかわかったか」

「いいえ、ただふたりは、店に入ってからずうっと口論していたようです。内容は、分からないと店員が言ってました」

「明日でいいから、その付近の防犯カメラを、須田たちと一緒に徹底的に調べてくれ」

 一方、栄光不動産の本社社長室では、社長の大熊裕次郎、専務の大原信一郎、そして都市開発部長の羽生徹が、打ち合わせていた。

「社長、検察は羽生君だけでなく、沖浜市の池沢部長にも事情聴取を行っているようです」

「大原専務、それは本当ですか」と羽生が確認した。

「小暮副市長から先ほど電話があった」

「このままでは、危ないな」大熊が、心痛の面持ちで言った。

「社長、どうしましょう」羽生が、すがる思いで言った。

「羽生君、これからも知らぬ存ぜずをとおすんだ。分かったな。後は、わしに考えがある」

 大熊は、羽生を帰して、大原と何やら相談した。

 そして、大原が部屋を出て行ってから、大熊は、受話器を取った。

 社長室を出た大原は、羽生の部屋を訪ねた。

「羽生君、五千万円の小切手を用意してくれないか。社長からの指示だ」

 大原の顔はこわばっていた。

「用意はしますが」羽生は、これ以上検察から疑われることに手を染めたくはなかった。

「用意だけしてくれればいいんだ、後は私が処理する」


 須田は、コンビニの外に設置されていた防犯カメラに映っていた村山一郎を見つけた。

「おい山下、村山と一緒に歩いているのは、佐山副検事じゃないか」

 須田は、びっくりして画面を凝視した。

「間違いありません、佐山さんです。どうして、こんなところを村山と歩いていたんでしょうか」

 須田は、コンビニの店長の了解を得て、山下に映像をコピーするよう指示した。

 コピーを終えた二人は、署に戻って、佐久間たちに映像を見せた。

「ふたりは何を話しているんだろうか」吉沢が、言った。

「須田、この映像、鑑識に渡して、ふたりの会話を推測してもらえ。それがわかったら、佐山副検事を事情聴取するんだ」と佐久間が、言った。

 翌日の午後、佐山忠孝は、取調室で栄光不動産の羽生徹を事情聴取をしていた。

 事務官の湯上太郎が、供述調書を作成していた。

 入り口で、ノックの音がした。

 扉を開けた湯上に、山田真理子が、湯上にメモを渡した。

 そして、湯上から渡されたメモを佐山忠孝が見て、

「羽生さん、ちょっと休憩にします」と言って、部屋を出て行った。

 部屋に戻った佐山忠孝は、受話器を取った。

「佐山です」

「警視庁の須田です。また急で申し訳ありませんが、今日、ご都合の良い時にお伺いしたいのですが」

「午後四時過ぎなら、いいです」

「分かりました、四時半までにはお伺いします」

 佐山忠孝の受話器を持つ手が、震えていた。

「佐山副検事、村山さんの件で、何かわかったんでしょうか」事務官の山田真理子が、佐山忠孝に聞いた。。

「どうかな」と上ずった声で応えてから、羽生の待つ取調室へ赴いた。

 四時半ピッタリにノックがした。

 山田真理子が、扉を開けると須田と山下が、扉の前に立っていた。

「どうぞ」

「ちょっと、別の所でお話したいことがあるので、佐山さんに聞いてきてくださいませんか」

 しばらくして、山田真理子が、扉の外に出てきて、須田たちを会議室へ案内した。

 すぐに、佐山忠孝が、やってきて言った。

「今日は、どんなご用件ですか」

「佐山さん、数日前に村山一郎さんと居酒屋で飲んでいましたね。これをご覧ください」と、須田が言った。

 山下は、タブレットを開いて、防犯カメラの映像を映し出した。

「これは、どういうことですか」

 佐山忠孝の胸の鼓動が、激しく打った。

「居酒屋を出てからどうされましたか」

 佐山忠孝は、黙り続けた。

「そうですか。詳しいことは、署に来て話していただけませんか」

 と須田が任意同行を求めた時、扉からノックの音が聞こえた。

 佐山忠孝が、どうぞと応えると山田真理子が、部屋に入ってきて、佐山にメモを渡した。

「須田さん、主任検事から呼び出しがあったので、しばらく待ってもらえませんか」

 須田は頷いて、了承した。

 佐山忠孝を山本が待っていた。

「検事正に呼ばれている。重大な話があるそうだ」

 検事正室に入ると、検事正の小池隆と次長の佐藤和雄そして、特捜部長の平田栄、主任検事の川上要、梶山検事と池上副検事が、打ち合わせ机を囲んで、山本と佐山忠孝を待っていた。

「山本検事と佐山副検事もこっちへ来て座りたまえ」と小池が、席に座るよう促した。

 ふたりが腰をおろすと、小池がおもむろに話始めた。

「君たちが捜査している栄光不動産と沖浜市の贈収賄事件だが、上からストップがかかった。やむを得ないが、捜査は中止する」

「だれからですか」佐藤が聞いた。

「民自党の富田源一郎衆議院議員のようだ」

 皆、悔しそうな顔をしたが、小池に反論するものは誰もいなかった。

 ただ一人、佐山忠孝は、身体が震えていた。

「佐山副検事、どうした」小池が、心配そうに聞いた。

 佐山は、もうだめだと観念して、栄光不動産の村山一郎を殺害したことそして、今警視庁の刑事が任意同行を求めて、取調室で待っていることを話した。

 皆、信じられないと言った顔で、佐山を凝視していた。

 そして、絶望へと移って行った。

「なんだと」と小池が、発した大声も虚しく部屋に響いた。

「佐山、今すぐ、辞表を書くんだ」佐藤が、言った。

「佐藤次長」と言って、佐山忠孝は、内ポケットから’辞表’と書かれていた封筒を机の上に置いて、部屋を出て行った。

 二日後、テレビや新聞に、元東京地検特捜部の副検事による栄光不動産の村山一郎殺害事件が大々的に報じられた。

 その数日後、佐山忠孝は、獄中で首をつって自害した。

 沖浜市と栄光不動産の贈収賄事件の捜査は、検察庁から警視庁に移り、一年後、沖浜市の小暮副市長と栄光不動産の大熊社長、大原専務そして民自党の富田源一郎衆議院議員が逮捕されて、事件は終息した。

 ただ、佐山忠孝が、村山一郎を殺害した動機は明らかにならなかった。

 三年後の十月十日、東京の学士会館で南昌高校の同窓会が開催されたが、佐山忠孝、村山一郎を話題にする者は、誰一人いなかった。

 大原信子は、会場内にはいなかった。             了 

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地検特捜部 S 沢藤南湘 @ssos0402

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