第2話

 誰だかわからないその少女は、僕に袋に入ったシュークリームをくれた。顔には白いもやがかかっているのに、少女が笑っていると何故かわかった。

 そこで、あぁこれは夢なのだと僕は理解した。それでも夢が覚めることはなく、たしかな意識の中で僕は記憶にないその景色を酷く懐かしいと感じているようだった。

 少女との会話は聞こえず、それなのに僕らはなにかを楽しそうに話している。その光景が僕の記憶であるかのように理解できてしまうのだ。暫くすると僕たちはシュークリームの袋にマジックで何かを書いて交換していた。

 その光景を見た瞬間、僕はハッとした。しかし、その拍子に意識は現実に押し戻されてしまった──



 カーテンを通過する朝日で部屋は既に電気が要らない程度には明るかった。布団から出るには多少の勇気が必要なくらいに冷えた朝だ。僕は暖かな布団の中で体を伸ばした。

「誰なんだあの子……」

 僕は現実であることを確かめるように気持ちを口に出し部屋の冷えた空気を震わせた。耳には確かに聞き慣れた僕の声が届いた。

 ゆっくりと布団から這い出ると僕は勉強机に向かった。暫く開けることのなかったその引き出しには、安っぽい箱がポツンと入っている。

 取り出した箱を開けると、たくさんのガラクタが詰まっていた。


 ビー玉、ヒーローの人形、どんぐりや松ぼっくり、貝殻にシュークリームが入っていた袋のゴミ……これだ……

 今日までゴミだと思っていたその袋には、僕の字ではない筆跡で『11/25』という日付が書かれていた。

 何故、よりにもよって[その日]なのだろうか? 瞬間、食道を競り上がってくる気配に急かされるように僕はトイレへ転がり込んだ。

 体の奥底から沸き上がる嫌悪を吐き出すように胃の中身が口から溢れ落ちつづけた。涙目になりながら吐き気を我慢していると、ある記憶が蘇った。

「んぐ……ハァ……ふぅ。そうだ、あの日もたしか、こんな風に……いや、あれは次の日だったか? んっ……おえっ……」

 胃の中が空になっても、暫く僕は胃液を垂れ流した。


 最悪な目覚めだったのだが、意外にも頭はスッキリとしていた。それはずっと謎だったガラクタの1つが輝きを取り戻し始めたからなのだろう。


[つづく]

 

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