第1079話 国都大捜索 ※主人公視点外
「ここも違うとは……。一体、一体どこにいるというのか!!」
王太子殿下が、苛立たしげに声を上げながら木製のコップを机に叩きつけると、ダアン! という音が響きました。
しかし、酔客で溢れた店内はそれ以上に騒がしく、隣に座る数人がちらりとこちらを見ただけで、面倒なことには発展せずホッと胸を撫で下ろします。
敬愛する召喚術の師匠、レックス・ヘッセリンク伯爵様が仕掛けた二十五箇所での宴。
そのうち一箇所には、王立学院で伝説として語り継がれる狂人派と、お師匠様を慕う若手貴族の皆さんで構成された組織、通称ヘッセリンク派が一堂に会しているとか。
そんな噂を聞いた僕は、監視を命じられるだろう文官の皆さんは大変だなあと他人事だったんだけど、当日の朝に突然の召集を受け、護衛として殿下とともに国都中の酒場を駆け回っています。
「やはり、トミーさんとエドゥ君が向かった教会本部が本命なのではないでしょうか。これだけの仕込みをしておいて、そこだけはないという場所で宴を開く。お師匠様であればいかにもありそうです」
お師匠様とともに、あのラスブラン侯爵様のお孫様も絡んでいるらしいことを考えれば、教会で宴という常人には考えられない無茶な行動をとられてもおかしくはありません。
しかし、僕の意見に対し、コップの中の安酒を飲み干した殿下がニヤリと笑います。
「甘い。甘いと言わざるを得ませんよモストブ。いや、我が右腕の弟子よ」
そこで一旦言葉を切り、おかわり! と叫ぶと、声を低めてこう仰いました。
「この宴はレックス・ヘッセリンク主催。もちろん、『そこだけはない』を選択することも十二分に考えられますがしかし!」
だんだんと熱を帯びていく殿下の様子に、同席しているシュクル隊長にどうしようかと視線を向けますが、首を横に振られてしまいます。
静観、ですか。
「今回は我々王城側に監視されていることを自覚したうえでこれほどの仕込みをしている。となれば、敢えて『そこだけはない』を外してくるでしょう。そう。言うなれば裏の裏。そこまでしてくるのがレックス・ヘッセリンクという男です。ふっ。まったく、毎回楽しませてくれる」
そうでしょうか。
多分、お師匠様はただ宴を開きたいだけだと思うのですが。
そんな考えが顔に出たようで、殿下がお酒のおかわりに口をつけながら首を傾げました。
「なんですかその顔は。言いたいことがあるのであれば聞きますが」
殿下はとてもおおらかな方なので、意見を述べること自体は本当に許してくださるでしょう。
ただ、なんと伝えてたらいいかと悩んでいると、僕やシュクル隊長同様緊急召集を受けたイルハさんが真剣な顔で言いました。
「不敬を承知で申し上げますと、既に二十三箇所目の酒場でございます。そのいずれも護国卿様に雇われた見知らぬ男達が酒を飲んでいるだけ。時間もございませんし、ここまできたら教会を確認してみてもよろしいのでは?」
昼から外れを引き続けること実に二十三店舗目。
ただ見て回るだけなら問題はないのですが、店に着くたびに殿下が『店に来て何も頼まないなんて申し訳ない』と二、三杯注文されるので、時間がかかっているのは事実です。
イルハさんの意見具申を受け、この店での三杯目を飲み干して殿下が頷きました。
「イルハの意見も一理あります。ですが、ここは初心を貫きたい。私は、右腕であり、なにより友であるレックス・ヘッセリンクを信じているのです。彼に、『そこだけはない』は、ない!」
こうなったら僕達に殿下の意見を曲げることはできません。
さっと視線を交わし合ってそれを確認すると、シュクル隊長が改めて意見を具申します。
「承知いたしました。ここまできたら、あと一つ二つ酒場を覗くくらい誤差でしょう。教会は最終目的地。それでよろしいでしょうか」
「ええ。そうしましょう。さあ、行きますよ!」
勘定を終えて店を出る僕達。
さて、次の店は……と地図を広げようとした時。
向こうから凄い勢いで駆けてくる馬の背中に、知人の顔を見つけて思わず声が出ました。
「カルピさん!?」
そんな呼びかけが聞こえたのでしょう。
馬が僕達の前で土埃をたてながら止まり、馬上の女性が驚いたように目を見開きました。
「モストブちゃんじゃない。それにシュクルおじさまにイルハさんも。こんなところで奇遇ね」
「私もいますよ」
騒ぎにならないよう被っていた頭巾をめくりながら手を振る殿下。
その正体に気づいたカルピさんはさらに目を丸くすると、慌てたように馬を降ります。
「殿下! 近衛も連れずなぜこのようなところに!?」
近衛を連れていない理由は、普段護衛を担っている第三近衛の皆さんが宰相様の指示で宴会監視業務に駆り出されているからですね。
カルピさんの問いかけに、殿下は真剣な表情で答えます。
「いえね? 我が友レックス・ヘッセリンクが、親しい友人を集めて宴を開くという情報を掴みましてね」
首を捻るカルピさん。
そうですよね。
お師匠さまが宴を開かれることと殿下が街を散策されることに因果関係はないのですから。
ただ、説明は必要なので補足を行います。
「親しい方々との宴を王城側に監視されることを嫌ったお師匠様が、国都中の酒場で同時に複数の宴を開く策を取られまして。やむを得ず一つ一つ回っている最中なんです」
「ああ。それなら私もこれから向かうところです。教会本部前ですので、ご一緒いたしましょう」
あ。
「……え?」
愕然とする殿下。
あー……。
「カルピさん。申し訳ありませんが先に向かってください。僕達は、後で追ったり追わなかったりしますので。ええ、大丈夫です」
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