第1078話 報告2
「これは、一体どういった趣向でしょうか」
呆れたような、というかはっきり怯えたような声と表情でそう言ったのは現ヘッセリンク派No.2にして、国軍所属の召喚士でもあるカルピ。
用事があったにも関わらずこちらに向かっているとは聞いてたけど、間に合ったらしい。
いや、そろそろお開きにしようと思ってたから滑り込みセーフだ。
「やあ、カルピ殿。久しぶりだな」
僕が手を振ると、手近にあった杯に手酌で注いだものを一気に流し込み、一息ついたところで綺麗な礼を見せてくれた。
「ご無沙汰しております、レック……ヘッセリンク伯爵様。その節は厚かましくもオーレナングまで押し掛けまして大変申し訳なく」
「何を言う。誘ったのはこちらだからな。忙しいなか足を運んでもらって嬉しかったぞ。それは、今日も同じだ」
わざわざ用事を終わらせて来てくれたらしいからね。
髪が大暴れしているのを見るに、相当飛ばしてきたことがわかる。
労うようにそう声をかけると、カルピが苦い顔で首を横に振った。
「予想以上に用事を片付けるのに手間取りまして。本来であれば、開始からこの場にいることが私の責務だというのに。忸怩たる思いです」
そんな責務ないよ?
「ただの宴会でしかないんだ。後回しにしてもらわなければこちらが困ってしまう」
レックス・ヘッセリンク主催の飲み会が何事にも優先されるわけがないのだから。
「それで、この惨状は一体どういったことでしょう」
僕の言葉にはリアクションせず周りを見回すカルピ。
惨状?
惨状か。
ははっ、確かに。
「なあに。盛り上がり過ぎてな」
今この場に立っているのは、レックス・ヘッセリンクただ一人。
リスチャードも、アヤセも、トミー君も、ダシウバも。
もちろんそれぞれが率いる各組織の面々も。
全員が地面に倒れ込み、大いびきをかいている。
理由?
飲み過ぎとはしゃぎ過ぎだね。
「同志ガストンをはじめとした同志達だけでなく、まさか同志アヤセまであのような状態とは」
確かにアヤセは高いアルコール耐性持ちだ。
昔、カナリア公やアルテミトス侯と飲んだ時も潰れず生きながらえてたし。
しかし、そんなアヤセも今回は早々に膝を屈してしまっている。
「ガストン殿が正式にアルテミトス侯から後継者指名を勝ち取ったことがよほど嬉しかったらしい」
何度もガストン君を抱き締め、何度も乾杯を繰り返し、何度も友を胴上げし、最後には穏やかな表情のまま静かに倒れ込んだ。
「まったく。未来のラスブラン侯爵ともあろう方がお腹を出して倒れているとは。それに、あれはトミー殿とダシウバ隊長では?」
カルピが眉間に皺を寄せつつ外套をアヤセのお腹にかけながら言う。
国軍所属だからね。
二人のことを知っててもおかしくないのか。
「なぜあのお二人が?」
話すと長くなるけど、かいつまんで説明するとすれば次のとおりだ。
「前者は上司への愚痴が加速するとともに飲む速度も上がった結果ああなった。後者は、ただただ仕事終わりの宴会のような勢いで飲んだ結果だ」
エドゥ君?
秘密裏にお城に逃しました。
流石に王城組全滅はまずいから。
ダシウバ達第三近衛は騒ぐだけ騒いで気付いたら静かになってたから特筆すべきことはありません。
「トミー殿はともかく。ダシウバ隊長はそんなことだからいまだに第三近衛の隊長なのです。ご自分の軽さが近衛の人事にも大きな影響を与えていることを理解されていないのでしょう」
上層部は、腕も人望も経験もあるダシウバを出世させたいけど、チャラが過ぎて二の足を踏んでるらしい。
「重厚なダシウバ隊長か。いつか見てみたいものだな。見ることができない可能性もあるが、まあ期待せずに待つとしよう」
余談だが、期待という言葉に嘘はない。
僕としては彼が出世するとやりやすそうな気配をビンビンに感じているので、護国卿として近衛側にそっとプッシュしようと決めたくらいには期待しています。
と、屍達の話はこれくらいにして。
「せっかく来てくれたのだ。現状私しか起きていないが、お付き合いいただけるかな?」
「喜んで。ただ、ヘッセリンク伯爵様と二人きりとなると奥様に叱られてしまいます。ですので」
一旦そこで言葉を切ったカルピが大の字ですやすや眠っているアヤセの側に膝をつくと、思い切り息を吸い込んだ。
そして。
「起きなさい同志アヤセ!!」
「っ!!!? な、なんだ! くっ! 頭に響く!!」
耳元で放たれた乱暴なグッドモーニングに、たまらずアヤセが上体を起こす。
状況が把握できずキョロキョロと周りを見回すアヤセ。
そんな我が従弟の眼前に仁王立ちし、カルピが目を細めながら言う。
「ヘッセリンク派首領ともあろう貴方がなんという体たらく。そんなことだと、いよいよ私が首領の座を奪取させてもらうわよ?」
「……同志カルピか。ご機嫌よう」
「そちらはご機嫌がいいようにはとても見えないわね。ほら、立ちなさい。同志ガストン程ではないけど、私も許可を得てきたわ」
手を貸して立ち上がらせ、アヤセの服についた土埃などを払ってあげるカルピ。
「許可?」
僕が首を傾げると、カルピが特に隠すことでもないという風に軽い調子で答えた。
「はい。この同志アヤセの妻となる許可を。家同士の派閥が違うので苦労しましたが、ようやく。ほら、同志アヤセ。水を飲んで」
……アヤセとカルピが?
待て待て待て。
二人って、どっちがヘッセリンク派の主導権を握るかでバチバチやり合ってるんじゃなかったっけ?
え、結婚するの?
なんだ、仲良しじゃないか。
「あー、その、なんだ。おめでとう二人とも。こんな死屍累々の場で報告させて、申し訳ない」
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