第488話 身の守り方 ※主人公視点外

 メアリお姉様やクー姉様よりもっと小さなナイフを持って走ってくるおじさん達を、お爺様が叩いて、蹴って、投げてる。

 すごいすごい!

 いつも優しくて楽しいお爺様。

 とっても強いから、みんなにおーさつ将軍って呼ばれてるんだって。

 おーさつって何? って聞いても誰も教えてくれないんだけど、きっと一番強いってことだと思うんだ。

 じゃあお兄様はおーさつ伯爵様で、お義父様はおーさつ聖騎士様なのかな?

 お義母様がオーレナングに来るまでは、お爺様がユミカのことを育ててくれてたんだって言ってた。

 今もユミカが立派な家来衆になるために色々なことを教えてくれるの。

 魔法は、エイミー姉様に火魔法を教えてもらって、お爺様には土魔法を教えてもらってるんだけど、ほんとは火魔法の方がちょっとだけ得意。

 でも、エイミー姉様にも他の兄様達にも土魔法を頑張るように言われてる。

 いざという時に身を守れるようにって。

 土魔法で守るってどうやるんだろうって考えてたら、優しいお爺様がお手本を見せてくれたの。


「少し痛いですよ? ロックバレット」


 お爺様がジャルティクのおじさんのお腹に手を当てて土の魔法を使ったら、おじさんが窓を突き破って外に飛んで行っちゃった。

 すごい!

 みんなが身を守るためにって言ってたのは、きっとああやって使うんだよってことだったんだ。

 そうかあ、火魔法だとあんなことできないもんね。

 覚えておかなきゃ。


「ユミカもあんな風になれるかな」


「ユミカちゃん、あそこまでは目指さなくてもいいのよ? 最低限自分を守ることができればいいの」


 お義母様はいつもそう言ってくれる。

 頑張らなくてもいい、無理はしなくてもいいよって。

 優しいの。

 でも、ユミカは他の兄様達みたいに強くないから。

 たくさん頑張らないとメアリお姉様みたいに速く走れないし、クー姉様みたいに高くも跳べないし、お義父様みたいな力持ちになれないと思うんだ。

 だからもっと頑張るよって言ったら、お爺様は頭を撫でながら、どうせなら世界一強くなりなさいって応援してくれた。

 

「強くなってお義母様のことも守ってあげるからね!」


 お義母様はメイドさんだから、ユミカとお義父様で守ってあげるの。

 そのために、今日はお爺様がどんな風に悪者を叩いたり蹴ったりするかをしっかりお勉強しないと。

 

「ほら、しゃんとなさい! 貴方は私達の可愛い天使が強くなるための贄なのですから! 意識を手放すことなど許しませんよ?」


 最初に四人いたおじさんのうち、一人は今お外に飛んで行って、二人は寝ちゃってる。

 残ったおじさんは頑張ってお爺様に向かってナイフを振ってるけど、全然届いてない。


「ふむ。もうそろそろ限界ですか? 活きという意味ではとても十分と言えませんでしたが、入門編の教材としては及第点をあげましょう」


 そう言いいながらお爺様が顎のところをチョンって叩いたら、残ってたおじさんも寝ちゃった。

 顎のところをえいっ! てやるのかっこいいなあ。

 ユミカもあれ覚えたいなあって、リンギオおじさんにもらった剣を鞘に納めて練習してたら、最初に寝ちゃってたおじさんが急に立ち上がったの。

 あっ、て思ったら、すごく怖い顔でこっちに向かって走ってきたわ。


「ユミカちゃん!!」


 お義母様がユミカの名前を呼んでくれたけど、おじさんはユミカを捕まえるためにそのまま前からギュッてしてきた。

 剣を抜いたままにしておけばよかったなあ。

 お義父様に知られたら、戦場で油断するなんて! って叱られちゃうかも。

 

「動くな! くそっ、こんなバケモンがいるなんて聞いてねえぞ! 大人しくしててくれりゃ、子供相手に手荒な真似しなくて済んだのによ!!」


 んー。

 おじさん汗臭い。

 きっと、お爺様に勝つために一生懸命頑張ったんだね。

 どうしよう。

 このままだと足手まといだよ。

 それは、絶対にいや!

 ユミカはヘッセリンク伯爵家の家来衆だから、足手まといになんかなっちゃだめなの。

 あ、そうだ。

 えっと、目の前におじさんのお腹があるから、こうやって手を当てて。


「なんだ嬢ちゃん。悪いが大人しくしといてくれ。じゃねえとちっとばかり痛い思いを」


 魔力を練って練って……えいっ!!

 

「土魔法! ロックバレットお!!」


「グゥッ!?」


 さっきのお爺様を真似しておじさんのお腹に手を当てて土魔法を使ったら、大きな声を出して床にゴロンと転がってくれたの。

 やったあ!

 大成功!!

 でも、立ち上がったおじさんはさっきよりももっと怖い顔。

 

「この、クソガキ」


「クソガキは貴方ですよ、若造。いや、最後に最高の役割を果たしてくれました。素晴らしい働きでしたよ? もちろん道化としてですが」


 お爺様がおじさんの肩に手を置いてニコニコしてる。

 でも不思議。

 ニコニコしてるのに涙をふいてるの。

 どこか痛いのかしら。

 

「待」


「お疲れ様でした。ゆっくりと眠りなさい」


 お爺様がなにをしたかよく見えなかったけど、おじさんはまた寝ちゃったみたい。

 

「ユミカちゃん! ああ、怪我はない!? 怖かったわね!」


 お義母様が抱きしめて頬ずりしてくれる。

 おじさんと違ってお義母様は朝から寝るまでずーっといい匂い。

 ユミカもたくさんスリスリしたくなるんだあ。


「大丈夫、怖くなかったよ! だって、土魔法を使ってちゃんと身を守ったもん! ねえお爺様。ユミカ、ちゃんとできてた?」


「初陣としては一切文句なし。花丸をあげましょう。おめでとうございます、ユミカさん。これで貴女も立派なヘッセリンクの戦士です」

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