第455話 Q.我が家に馴染む人材の条件とは?
近い将来訪れるであろうハメスロットの引退を見据えた後継者探し。
同世代のジャンジャックに話すと、まだまだ引退なんかさせない、自分が説得しておくと笑ってたけど、文官の確保を進めて悪いことはないので早速着手することに決めた。
ハメスロットからの提案は王立学院生徒の一本釣りということだったので、卒業生を呼んで話を聞く。
「ハメスロットの願いだからな。それはもちろん叶えてやりたいのはやまやまなのだが……。どう思う?」
話を聞くのはもちろん、王立学院卒業のヘッセリンク伯爵家随一のインテリ。
ハメスロットの弟子として文官業務に従事するエリクスだ。
僕の質問に、戸惑ったように首を傾げる。
「どう思うと仰られましても。伯爵様ほどの立場の方ならば、直接文で問い合わせをされれば学院側からなんらかの反応が返ってくるのではないでしょうか」
うん、それはわかってる。
というか、第二子が生まれるまでは意地でもオーレナングから出ないと決めてるから今取れる手段はそれしかないんだけど。
もしエイミーちゃんが妊娠していなかったら直接乗り込む選択肢もあったけどね?
「大丈夫だろうか。これまでほぼ接触のなかった、狂人と名高いヘッセリンク伯爵家から、お宅の生徒さんで活きのいいとこを見繕ってくれと文が届くのだぞ? またぞろ妙なことが起きそうな気がしてな」
なんと言っても我が家は当主が友達と飲み会を開くだけで王城からマークされる家だ。
人を増やすことについても、それに着手した瞬間十貴院が招集されたのも記憶に新しい。
「ああ、なるほど、ご心配の趣旨は理解いたしました。ただ、そこは問題ないのではないかと。その手の問い合わせはよく学院に届きます。貴族家としてはごく当たり前の行為でしょう」
毎年、様々な家から求人票が届くらしい。
その内容を教師陣が精査し、ブレイブのような家を継がない貴族の三男や、エリクスのような優秀な平民にこんな求人来てるけど行ってみる? と声掛けをするんだとか。
やろうと思えば成績順に首席から数えて五人と面談したいとか、ピンポイントで誰々が欲しいなんてことも可能なようだ。
「それに、伯爵様ご自身が学院の卒業生でいらっしゃいますし、その頃教鞭をとっていらっしゃった先生方が現役なことも悪い方向には作用しないかと」
卒業生が貴族家の当主となって、後輩の卒業後の受け皿になるというのは、確かに学院側にとって望ましいサイクルなのかもしれない。
教師としても自分が過去に受け持った卒業生なら、その特徴に合わせて生徒を当てがうこともできるだろう。
しかし、ここでレックス・ヘッセリンク特有の懸念が出てくる訳だ。
「先生方に好かれていた自信が全くない」
そう、僕は学院の歴史に名を残す最大派閥、『狂人派』の領袖だった男だ。
コマンド曰く、レックス・ヘッセリンクは授業の妨害だとかサボりだとかそんなことは一切せず、むしろ真面目に取り組むタイプだったらしい。
ただ、あのヘッセリンク伯爵家の長男であり、学院内外で大小様々なトラブルを起こしたり巻き込まれたりしたことが原因で問題児扱いされていたんだとか。
真面目なヤンキーだったわけだ。
「伯爵様のことを大なり小なりご存じの先生方がいらっしゃるのです。『ああ、またレックス・ヘッセリンクの気まぐれが始まったか。懐かしいな』と納得してくださると思います」
「気まぐれで処理されるのも思うところはあるのだが」
『またレックスがなんかやってらあ!』で笑われて済むのならまあ、いいんだけど。
「自分も卒業生の一人ですが、先生方からは、折に触れて『狂人派』の武勇伝を聞かされていました。レックス•ヘッセリンクがこんなことをやらかしたとそれはそれは楽しそうに」
当時はやんちゃ坊主に苦労したけど今となっては笑い話だ、みたいな感じだろうか。
これはだいぶ迷惑かけたなレックスよ。
求人の案内と一緒に先生方にお詫びの品でも送っておこうか。
その節は申し訳ありませんってことで。
「それを考えれば蛇蝎の如く嫌われているということはないはず。よろしければ自分も当時の担当教官に連絡を取りましょう」
仕官浪人した結果オーレナングの森に不法侵入して野垂れ死にそうだったとはいえ、エリクスは何年か前の王立学院首席卒業という輝かしい実績を持っている。
僕だけが文を送るより、エリクスから一筆添えてもらった方が安心感が増すだろう。
【狂人派のトップと、専門分野の研究にこだわるあまりに仕官浪人した元首席卒業生のタッグですか。安心感、とは?】
マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるらしいですよ?
「では、僕からは学長宛に。エリクスは当時の担当教官殿に。それぞれ文を出そう。頼むぞ」
「承知いたしました。お師匠様の負担を軽くするためです。可能な限りヘッセリンク伯爵家に馴染む後輩を連れてこれるよう文章を練ることにします」
ヘッセリンクに馴染む、か。
「ちなみに、お前の目から見てどんな人材が我が家に適していると思う?」
僕の何気ない問い掛けに、エリクスは眼鏡を人差し指で押し上げながら胸を張り、自信満々でこう言い切った。
「前提条件は、変わり者であることです」
よし、詳しく聞こうか。
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