第131話 帰還
父の仇であり、我がヘッセリンク伯爵領に氾濫という災害を振り撒いてきた脅威度Sの魔獣、ディメンションドラゴン。
その恐ろしくも強大な敵は、僕ことレックス・ヘッセリンク、鏖殺将軍ジャンジャック、聖騎士オドルスキ、そして亡霊王マジュラスの手によって永遠に葬り去られた。
これで、我が領地は氾濫の恐怖から解き放たれたことになる。
だが、僕達の戦いはこれで終わりではない。
これからも第二、第三のディメンションドラゴンが現れる可能性があるのだから。
「あら、お帰りなさいレックス。ほら、言ったとおりでしょ? はい、正解は『無傷で帰ってくる』でしたー。あたしとクーデルの勝ちー」
脅威度Sとの激戦を終えて屋敷に戻った僕達を待っていたのは、食堂でお茶を飲みながらくつろぐ親友だった。
いや、もちろんエイミーちゃんをはじめ、家来衆の皆も飛び上がって喜んでくれたよ?
早速国都に早馬を飛ばしてもらったし、二十日もしないうちに避難してたみんなも戻ってきてくれると思う。
「なにをやっているんだ、リスチャード。その頭の包帯は?」
僕達の勝敗で賭けなんかしてるんじゃないよ。
親の仇の脅威度S相手だっていうのに無傷で帰ってくるに賭けるとか、リスチャードとクーデルはギャンブラー過ぎるだろ。
「なにって、あんたが手紙寄越したんでしょう? 手が足りないかもしれないから援軍を頼むって。あ、この包帯はファッションだから気にしないでいいわ」
ファッションなわけないだろ、それ。
あとで詳しく聞かせてもらうからな。
それはそうと、なんせ良く思われていない我が家。
もちろん氾濫なんて大災害が起きてるなかでわざわざ妙なちょっかいを出してくる輩なんかいないと思ったけど、国都に送ったのは非戦闘員だけだ。
一部領兵も同行させたけど、万が一があるといけないから、念のためにリスチャードを含む数名に助力を願う手紙を送っていた。
「あの手紙は国都の屋敷の守りの加勢を頼んだつもりだったのだが」
「もちろん。最初にちゃんと国都に行きましたとも。あたしが一番に守るべきはヘラだもの。それに、あっちにはユミカもいるっていうじゃない? 馬鹿なことを考える輩がいたらクリスウッドの総力を挙げて締め上げるつもりだったんだけど」
ヘラの婚約者という大義名分を掲げたリスチャードが手勢を率いて国都のヘッセリンク伯家に到着したところ、既に複数の勢力が屋敷の守備に就いていたため、ヘラやユミカのお願いを聞いてこちらにやってきたらしい。
「自慢じゃないが、我が家を積極的に守ろうなんて勢力に思い当たる節がないのだが。ああ、もしかしてサウスフィールドか?」
戦争屋の異名を持つサウスフィールド子爵家の嫡男ミックは僕の数少ない友人。
リスチャード同様、加勢を依頼する手紙を事前に送っていた。
「ぶっぶー。外れよ。サウスフィールドの連中はうちと一緒にオーレナングの東境で待機してるわ。あ、ミックの奴にあんたの無事を知らせなきゃね」
顔の前で大きくバッテンを作り、ケラケラ笑うクリスウッドの麒麟児さん。
エリクスがお前のその感じに戸惑ってるだろ?
「ヘッセリンクの守備に就いてたのは、アルテミトス侯爵家とカニルーニャ伯爵家、それと、ラスブラン侯爵家よ」
アルテミトス侯とカニルーニャ伯か。
カニルーニャ伯家はエイミーちゃんの実家だからわからなくもない。
むしろ親父さんは初め、こっちに参戦するって息巻いてたんだけど、そうか。
そっちに加勢してくださってたんだな。
ありがたい。
アルテミトス侯にも足向けて眠れない。
出会いは最悪だったけど、最高の後見人だよ。
で、意外なのは。
「ラスブラン侯爵家。これまで頑なにヘッセリンクと、というか僕と距離を置いていたのにどういう風の吹き回しなのか。いや、もちろんありがたいんだが」
「ああ、ごめんなさい。正確には、ラスブランの人間が率いている義勇軍的な集団ね」
あ、それ思い当たる節あるわ。
まさかカニルーニャ伯がいる前で例の組織名を口にしてないだろうな。
「『護国卿を慕う若手貴族の集い』と名乗っていたわね」
流石にその辺りの分別はあったか。
ナイスだアヤセ。
カニルーニャ伯は常識的な方だし、あまりおかしな集団に好かれてるなんて知られたら心配かけちゃうからね。
「アルテミトス侯が、ヘッセリンク派ヘッセリンク派って連呼してたからあの子達の中身はバレバレだったわ。人気者ね、レックスったら」
なにやってんだあの筋肉ダルマめ!!
絶対だめじゃない?
近日中にお義父さんから書簡が届くよ?
せっかく最近は大人しく……してないな。
だめだ、また娘の旦那がおかしなことしてるって思われてるわ。
「その人気は諸刃の剣だろう……しかもこっちを向いた刃の方が鋭いときた。くっ、一体僕が何をしたというのだ」
「逆に何もしてないというなら、私の大天使ユミカに誓ってごらんなさいな」
お前の大天使なわけないだろう。
そしてユミカに誓えるわけがないんだよ、何もしてないわけがないんだから。
嘘をつくとユミカが悲しい目で見てくるからダメ、絶対。
「降参? まあそうでしょうね。自分を顧みるのは大事よ?」
「助言痛み入るよ。で? みんなは無事か? 大きな怪我などしてないだろうな」
「あたしが把握してるなかではみんな無事よ? ああ、あの土魔法を使うナイスガイだけは倒れちゃってるわね」
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