第50話 若年層の雇用について
「すごいわ! お城みたいね! クーデル、早く行きましょう!」
「待ってください奥様!」
エイミーちゃんが我慢できないって感じで走りだし、それをクーデルが追う。
普通なら女の子同士がキャッキャしてる風景だけど、いかんせんエイミーちゃんはフィジカル系ファイターだ。
クーデルが本気で走って追うハメになってる。
あとで労っておこう。
エイミーちゃんたっての希望でやってきたのはエスパール有数の観光名所にして子宝祈願の名所と言われる聖サクラミリア教会。
街並み同様真っ白な石で作られた巨大建造物だけど、教会には必要のないものが目につく。
「実際に見るのは初めてだが、これは教会ではなく城だな。さて、メアリ。神の使徒が住まう教会に、矢狭間が備え付けてあるだけでなく、物見櫓が必要な理由はなんだと思う?」
ここで突然の貴族クーイズ。
もちろん僕の知識はコマンド先生からの受け売りです。
「この教会は元々エスパール伯爵の居城だからな。我が家が西の護りなら、エスパールは北の国境の護りを任されてて南下を狙うやつらとバチバチやり合ってたんだろ? 矢狭間やらなんやらはその時の名残。今は北の国々は分裂しまくってレプミアの属国ばっかだから、こんな厳つい城必要無くなったってとこじゃね?」
だーいせーいかーい。
可愛い弟分に付け焼き刃の知識を披露して尊敬してもらおうと思ったら、花丸満点の回答を返されて動揺してます。
落ち着けレックス・ヘッセリンク。
「ほう、驚いた。詳しいじゃないか」
動揺を隠すため、ゆっくり噛み締めるように話す僕に対して、メアリはさらりとしたものだ。
まるで大したことないと言った風に肩をすくめて見せる。
「最近は爺さん達が国の歴史を覚えておけってうるさくてさ。二日にいっぺんハメス爺の講義を受けてるんだよ」
そう言えばハメスロットがそんなこと言ってたな。
メアリの能力を高く買っているようで、自分に教育を任せてほしいとかなんとか。
僕に断る理由はないから許可を出したんだった。
座学による歴史の授業か。
僕も受けた方がいいかな?
【必要であれば私の方からお伝えしますので不要です】
コマンドはすぐ僕を甘やかす。
良くないぞと思いつつお言葉には甘えることにする。
座学とかきついっす。
「なるほど。執事達が若手育成に乗り出したか。若い男となるとうちにはメアリしかいないからな」
十代以下はメアリとユミカだけ。
二十代は僕だけ、か。
いつも思うけど、偏ってるよねー。
「いや、まじで考えた方がいいぜ? 俺の次に若いのが兄貴で、その次はフィルミーの兄ちゃん、オド兄、おっさんって。間が開き過ぎてる。貴族様なんて次の代を見据えるもんだろ? なら俺や兄貴に近い年代のやつらを雇わなきゃ厳しいんじゃね?」
最近のメアリは家を思う気持ちが強いな。
次の代のことを考えるなんて忠誠心の高まりを感じる。
「確かに。次の代はメアリが筆頭になって家を動かすことになるだろう。ただ、さらに人を集める必要がある。そこについては僕も反対はしない」
父親の代に仕えていた家来衆もいたはずなんだけどなあ。
昔から今の人員構成なわけないし、今更ながらにやっぱりマンパワー足りないなって思ってはいたんだよ。
父親の代から勤めてた層が見当たらない。
ジャンジャックくらいか?
女性が若すぎるし。
その人達はどこにいったんだ?
僕が来たことで消えてなくなったわけじゃないよね?
【先代に仕えていた武官は先代とともに魔獣との戦いで亡くなっていたり、怪我で勤めを果たせなくなって暇乞いをして郷里に戻ったりと様々です。文官は元々少ないですが、閣下が家を継がれるにあたって、新しい伯爵家に老人は邪魔になるからとこちらも暇乞いをされています】
若い伯爵を支えよう! とはならなかったのかな。
僕、嫌われてないよね?
家の都合で少数精鋭だとはいえ、それが過ぎる。
僕がこの世界に移ってくるにあたってガチャやらなんやらの影響でその辺の歪みが出てるのかもしれない。
オーレナングに帰ったらジャンジャックに父親に仕えていた人達について聞いてみよう。
それで戻ってくれそうな人材がいれば再雇用を検討する。
もしかしたらその子供世代にいい人材がいるかもしれない。
「まあオーレナングに戻ったら真剣に考えるとしよう。僕個人としては若い層に不満はないが、そこを厚くすることは家の強化に繋がるからな」
若手
アリス、メアリ、イリナ、クーデル、ユミカ
中堅
マハダビキア、オドルスキ、フィルミー
ベテラン
ジャンジャック、ハメスロット、アデル、ビーダー
こう見ると、若手と中堅に文官寄りの人材が必要だな。
ブレイブにロンフレンド家の伝手で良さげな若者を紹介してもらうのもありか?
それだと忠臣アナウンスはでないかもしれないけど試すだけ試してみよう。
「頼むぜ兄貴。俺も従者稼業はこなすつもりだけど本質はそれじゃねえから。クーデルも同じだ。多分これからは執事やらメイドやらの仕事も覚えていくけど、どうしても本職には敵わねえし、ましてや書類仕事なんてできやしねえ。早いとこヘッセリンクに忠誠を誓う若いのを入れねえと後で困ったことになりかねねえ」
「……本当に成長したなメアリ」
「うるせえよ。生暖かい目で見るのやめろ。俺はただ居心地のいい家がなくなると困るって言ってんだよ。別に兄貴のためとかじゃねえから」
こんなにはっきりしたツンデレ台詞が異世界で聴けるなんて感動ものだな。
べ、別にあんたのために頑張ってるんじゃないんだからね! ってやつだ。
それを美少女系美少年がやってくれるんだから特定の層にはたまらないだろう。
「感謝するぞメアリ。僕にできることがあったら言ってくれ。可能な限りお前の力になってやる」
僕の言葉にメアリが真剣な表情を浮かべ、躊躇ったあとに口を開く。
なんだ。
何かあるのか?
お兄さんに言ってみなさい。
「クーデルをどうにかしてくれ。まじでしんどい。なんであんなになっちまったんだろうなあ。昔は綺麗で優しい姉ちゃんだったのに、最近獲物を見るような目で見てくるんだよ。超怖えよ」
「すまんメアリ。それは可能な限りの範囲の外だ。自助努力で乗り越えろ」
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