第26話 久しぶり

【おめでとうございます! 忠臣が閣下の配下になりました! 


斥候 フィルミー

執事 ハメスロット

マジカルストライカー エイミー


それぞれの忠臣を解説します。


斥候 フィルミー

 アルテミトス侯爵領軍に若くして奉職。

 現場で技術を身につけた叩き上げの斥候。

 斥候としての高い基礎技術に加え、最低限の戦闘能力を有する。


執事 ハメスロット

 カニルーニャ伯爵家付の執事。

 出来ることは出来る、出来ないことは出来ないと言える実直さが強み。


マジカルストライカー エイミー

 カニルーニャ伯爵家令嬢。

 高い格闘能力と魔力を有し、対魔獣にも十分対応できる実力を持つ。

 底なしの胃袋を持つため非常に燃費が悪い。】


 おお、久しぶりだねコマンド。

 元気だった?


【お久しぶりです、閣下。あまりに頼ってもらえずスリープモードに移行していましたよ、ハハッ】


 怒ってる?

 怒ってるよね。

 すまん。


【いえいえ、何を仰いますやら。閣下が私を呼ばないということはそれだけ馴染んでいらっしゃるということですから。まあ? 私に聞いていただければ? アルテミトス侯爵の為人ひととなりくらいは? 教えて差し上げましたけどね!】


 めっちゃ怒ってるじゃないですかやだー。

 と、それはまあ置いといて。

 忠臣って何さ。

 いや、その言葉の意味ならわかるつもりだけど、特にコマンドからのアナウンスがあるっていうことは意味があるんだろ?


【御明察。忠臣とは読んで字の如く忠義を尽くす家来のこと。この忠臣システムに該当した家来衆は、その他の有象無象とは比べ物にならないほどの力と忠誠を見せてくれます】


 有象無象とか言うな。

 ちょっと見ない間に口悪くなってるだろコマンド。


【放置されてた期間、ちょっとじゃないですからね】


 ごめんて。

 悪気はなかったからそろそろ許してくれよ。

 しかし、忠臣か。

 もちろんガチャで引いた家来衆も忠臣なんだよな?


【そのとおりです】


 家来っていうか既に家族みたいなもんだからなあ、あいつら。

 エイミーちゃんは妻だから本当の家族になるし、ハメスロットやフィルミーが来てくれたらユミカが喜ぶだろうなあ。

 早くオーレナングに帰りたい。

 あ、勿論僕の一番の家族はコマンドだよ?


【そんなとって付けたようなことを言われたって、嬉しくなんてないんですからね?】


 半端なツンデレ風味やめろ。

 でも、本当にコマンドには感謝してるし、頼りにしてる。

 これからもよろしくな。


【まあ、そこまで仰るなら許して差し上げましょう。私は心の広い公式サポーターですから】


 よかった。

 機嫌を直してくれた。

 仕事が忙しくて構ってあげてなかった彼女みたいだよ。

 こまめなケアが大事なのね。


【閣下にご報告です。上級召喚士としてのレベルアップが近づいています。新規召喚獣の追加や所有済召喚獣の強化など様々な恩恵が受けられますので、積極的に召喚していきましょう】


 レベルアップのアナウンスなんて、某国民的RPGの教会機能まで備えてるのかコマンド。

 あとはどんなことができるんだ?

 

【秘密です。慌てない慌てない。いずれ、お伝えしますから】


 ということはまだ色々できるわけね。

 楽しみにしておくよ。

 あ、ちょうどいいや。

 亡霊王さんは一体どこにいるのかな?


【亡霊王マジュラスを従えるには条件が整っていないようです。しかし、マジュラスも忠臣の一人。近い将来、御前に現れることでしょう】


 まあ、こっちにきてまだそんなに経ってないからね。

 手札にあるのに使えない強カードとかよくあるし、エイミーちゃんとフィルミーがうちに来てくれたことを考えれば、亡霊王が使えなくても戦力的には強化されている。

 それに加えてハメスロットが執事業務を引き受けてくれたらジャンジャックも魔獣討伐に軸足を移すことができる。

 つまり収支はプラスもプラス、超プラスよ。


【そうですね。正直言って私もあまりの順調さに戸惑っています。閣下の引きの強さは異常です。少しのボタンの掛け違え次第ではガストンが家来衆入りする可能性もあったはず】


 ちなみにガストンのフレーバーテキストとか教えてくれたりするの?

 だめ?


【特別ですよ?


ドラ息子 ガストン

アルテミトス侯爵家嫡男として帝王学を叩き込まれたサラブレッド。高い基礎能力を有するものの、世の中を舐め切ったその資質が全てをダメにしてしまった】


 oh……

 まあ確かにあのクソ重そうな鎧着たまま意外と軽々動いてたなあのバカ殿。

 素質はあったのか。

 まじで軍で鍛えられたら使えるようになるんじゃない?

 動向はチェックしておこう。


【アルテミトス侯爵にその旨依頼されたらよろしいでしょう。愚息の資質に護国卿レックス・ヘッセリンクが注目してるとなれば悪い気はしないはずです】


 そうだな、そうしよう。

 ダメならダメで近づかなければいいだけの話だし。

 まあ、あのバカ殿が忠臣になる気がしないけど、定期的に動向は追わせてもらいましょう。


【アルテミトス侯爵に認められたことでこれ以上の横槍が入ることは考えられません。名実ともにエイミー様と夫婦になるべく、今後は速やかに式の準備に取り掛かるべきかと】


 式かー。

 アリスとイリナが張り切りそうだね。

 普段着をあれだけギラギラさせてくるんだから、式用の衣装とかどんなんだろう。

 個人的にはあんまり目立ちたくない。

 でも、ドレスアップしたエイミーちゃんは広く見せびらかしたい!

 


……

………


「エイミー姉様、お帰りなさい!」


 オーレナングの屋敷に戻ると、誰よりも先に小さな天使が駆け出してきた。

 普段なら僕に飛びついてくるのだけど、今日はエイミーちゃんがターゲットだ。

 そんなユミカを膝をついた態勢で優しく受け止めて抱きしめるエイミーちゃんは蕩けそうな笑顔を浮かべている。

 うらやましい。


「おやおや、僕らのことは歓迎してくれないのかい? 寂しいなあ。なあ? メアリ、ジャンジャック」


 僕が声をかけるとジャンジャックは声を出して笑い、メアリは大人げないとため息をついた。

 当のユミカは頬を膨らませながら手を振り回して抗議のポーズ。


「もう! お兄様、意地悪言わないで! もちろん嬉しいわ! お帰りなさい、お兄様、メアリお姉様、お爺様! ユミカね、たくさんお話が聞きたいわ!」


 僕の脚に抱き着きながら見上げてくるユミカを片手で抱き上げ頭を撫でてやると猫のように目を細めた。


「ただいま。いい子にしてたか? お土産があるからあとで部屋に運ばせよう。当面遠出の予定もないからゆっくり話を聞かせてあげるからね」


「本当!? 約束よお兄様。メアリお姉様も、遊んでくださる?」


「ああ。兄貴が動かないなら俺も屋敷にいるからな。ま、暇つぶし程度に付き合ってやるよ」


 普段は斜に構えることも多いメアリも天使には甘いことが判明している。

 案の定苦笑いしながら首を縦に振った。


「そうだ、ユミカ。今日からこのハメスロットとフィルミーが我が家の一員に加わることになった。ハメスロットは既に知っているな?」


「はい! エイミー姉様付の執事さんです。ええっと、ハメスお爺様って呼んでいいですか?」

 

「!! っ、……ええ。構いません。私はユミカさんとお呼びしても?」


 ズキューン!!

 そんな音が聞こえそうだ。

 堅物っぽい他家の執事すら一撃必殺とは恐ろしい。


「はい! よろしくお願いします、ハメスお爺様!」


 頬が緩んでるぞハメスロット。

 あとそんな表情を見て長年世話をされてたお嬢様が信じられないものを見たような顔してるから気をつけて。

 私にはそんな甘い顔見せたことがないのにって言ってるぞ。


「それと。こちらがフィルミー。十貴院は知っているな? その四に当たるアルテミトス侯爵家で斥候隊長を務めていた凄い男だ。縁あって我が家に招くことになった。仲良くするように」


 僕の紹介に戸惑ったような顔で前に出るフィルミー。

 まあ、わかる。

 この子はなんだろう? って思うよな。

 侯爵家の隊長格ならここがどんなとこかもちろん知ってるわけで。

 こんな幼い子がいていい場所じゃないって思ってるんだろう。

 しかし。

 

「すごい! 侯爵家で隊長さんだなんて立派なのねフィルミー兄様は! ユミカです。あの、ユミカは他の姉様や兄様みたいに凄い力はないけど、ヘッセリンク家のために一生懸命頑張るので仲良くしてください!」

 

「くっ、なんと健気なんだ……心が洗われる……んんっ! 私はフィルミー。この家では新参者だ。ユミカちゃんが色々と教えてくれると助かる。よろしく」


 バキューン!!

 そんなことお構いなしに心を撃ち抜く我が家の凄腕スナイパー。

 いや、今のユミカの言葉にその場にいた大人全員が胸を抑えてるな。

 メアリだけカラカラ笑ってる。


「はい、二騎撃墜」


「流石は我が家の天使といったところか。そうだアリス、オドルスキとマハダビキアは屋敷にいるか?」


「マハダビキアさんは厨房で料理に取り掛かっています。旦那様がお帰りになると聞いてパーティーだと意気込んでいたので当面手は空かないかと。オドルスキ殿は朝から森に出られています。こちらもお館様に捧げる獲物をと鼻息荒く出て行かれましたのでいつ戻られるか不明です」


 今晩は豪華な食事になりそうだ。

 二人の紹介はその時でいいか。


「それぞれ仕事に取り掛かっているなら仕方ないか。イリナはエイミー嬢を部屋にお連れしてくれ」


「かしこまりました。では奥様、参りましょう」


「イリナ。君にはこれからエイミー嬢の身の回りの世話を任せようと思っている。忙しくなると思うが、頼むぞ」


「わ、私が奥様付? そんな重要なお役目を任せていただけるのですか!? ああ! 感謝いたします。全身全霊をかけて奥様のお世話をさせていただきます!」


 そんなに気負わなくてもいいよ?

 リラックスして臨んでくれたら大丈夫だから。

 あとでアリスに聞いたら、メイドとして正妻付を任されるのは信頼の証らしい。

 人手が足りない我が家では当然アリスが僕の世話と兼任すると思っていたらしく、思わぬ指名に感激したようだ。


「よろしくね、イリナさん。仲良くしましょう」


 涙を浮かべるイリナの肩を優しく抱くエイミーちゃん。

 いい場面だ。


「ジャンジャック、疲れているところ悪いが、ハメスロットとフィルミーを離れに案内して屋敷の説明を頼む」


「御意。では奥様にはイリナさんから屋敷の説明をしてもらえますかな?」


「はい!」


「メアリは部屋で待機。ああ、その前にユミカに土産を渡しておいてくれ。そのあとは自由にして構わない」


「あいよ。じゃ、部屋に行くぞユミカ」


 まあまあの数があるユミカへの土産をひょいと抱えて歩き出すメアリと、それを小走で追いかけるユミカ。


「癒されますなあ」


「確かに。まさか魔獣の庭に天使がいるとは思いませんでした」


 撃墜された二騎がしみじみと呟いた。

 安心しろ。

 あの天使以外は期待どおりの人外魔境だ。


「アリスは僕の部屋に。今後のスケジュールについて話がしたい。ジャンジャック、ハメスロットも屋敷の案内が終わり次第部屋に来てくれ」


「「御意」」


 さあ、結婚式の段取りを決めようじゃないか。


 

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