第15話 願い事

 若干の示威を含めて二頭を同時召喚する。

 オドルスキに庇われたハメスロットは恐怖で青ざめた顔で二頭を見上げ、エイミーちゃんは対称的に興奮したように頬を上気させてゴリ丸達に視線を送っている。


「これが、レックス・ヘッセリンク……これが、上級召喚士の力……」


「素晴らしいですわ! ゴリ丸ちゃんとドラゾンちゃんと仰るのね? まあ、ゴリ丸ちゃんは人懐っこいわ!」


 自分に興味を持ってることを理解したのか、ゴリ丸がエイミーちゃんに近づき、四腕のうちの一本を差し出し、手のひらを上に向けた。

 乗っていいよということらしい。

 それを伝えると、エイミーちゃんはハメスロットが止まる間も無くゴリ丸の大きな手のひらに飛び乗った。

 俺も乗りたい。


「なんで懐いてんだよ大魔猿。お前は兄貴の召喚獣だろうがよ」


 メアリが呆れたようにゴリ丸に声をかけたが一瞥しただけでプイッと顔を背ける。

 お前には関係ないだろう? と言わんばかりだ。


「いいではないか。仲間として認めたということだろう。さて、今のところ僕が所有する力の全てをお見せした。ここでいう力というのは、武力という意味だと思ってくれ」


 僕の手持ちの全戦力が一堂に会した。

 なかなか壮観だ。

 あとはここに行方不明の亡霊王さんが加わるわけだが、とりあえずはこれでよし。


「二体の高脅威度召喚獣に聖騎士オドルスキ殿、鏖殺将軍ジャンジャック殿、メアリ殿。恐ろしい陣容ですな」


「そして、カニルーニャの同意が得られればここにエイミー嬢が加わることになり、さらに充実することだろう」


 妻を戦力扱いすることに賛否はあるだろうが、この問題は早急にクリアしないといけない。

 ハメスロットには今晩にでもエイミーちゃんをこのオーレナングに常駐させたいと伝えよう。

 貴族は慣例を破ることを嫌うらしい。

 当主自らそれをやるわけだから根回しは重要だ。


「そのことでございますが……レックス様お願いしたいことがございます」


 お、なんだなんだ。

 ご飯たくさん食べたいって件かな?

 ここにいてくれるならお腹いっぱい食べさせてあげるからね。

 この流れで一応本人に意思確認してみるか?

 ダメなら仕方ない。

 ただ緊急事態に戦力になる可愛い妻ができるということで納得しよう。

 

「私からも一つ頼み事があるのだが、まずはエイミー嬢の頼みから聞こうか」


 レディーファーストでどうぞ。

 この世界にその概念があるか知らんが。


「ありがとうございます。ヘッセリンクに嫁いだ女性はこのオーレナングから遠ざけられ、国都に構えた別邸で暮らすのが慣例だとうかがいました」


 お?

 その話し?

 奇遇ですね。


「そうだ。母は妹と共に都で暮らしている。それで?」


「もし、わたしがヘッセリンクの家に嫁ぐことになった暁には、慣例を破ることをお許しください。私はこの魔獣の森、オーレナングでレックス様と寝食を共にし、魔獣を討伐しとうございます」


 YES!

 素晴らしい展開だ。

 戦力補強と可愛い嫁との生活をダブルで実現しました!

 いかんいかん、浮かれるな。

 威厳を保った顔を作って、と。


「認めよう」


「え!? あ、はい。ありがとうございます。でも、そんなに簡単に認めていただいてよろしいのですか? 貴族にとって慣例とはそう簡単に変更できるものではありませんのに」


「構わない。なぜならエイミー嬢の願いは僕の頼み事と合致したからな。改めて僕からもお願いする。婚姻が済んだ暁には、僕と共にこのオーレナングに留まり、魔獣の討伐に手を貸してほしい」


「嬉しい……ありがとうございます! そうと決まれば早速カニルーニャに戻り父に話をしなければ。ハメスロット!」

 

 笑顔癒されるわー。

 ユミカと二人で並んだら世界が平和になるんじゃないかなこれ。

 どうかねメアリ君。

 ん?

 し、ま、り、の、な、い、か、お、す、る、な?

 申し訳ないです。

 メアリの冷たい視線に凍えている間もカニルーニャの二人は段取りを固めていく。


「まずは早馬でヘッセリンク伯爵様から婚姻を前向きに考えていただける旨の回答をいただいたことをお伝えしましょう。その文にオーレナングに留まる許可もいただけたことを付記しておきます」


「そうね。あとはお父様とレックス様の顔合わせだけど……カニルーニャとヘッセリンクの中間となると、国都かしら」


「そうですな。お父上もおそらく早馬で何らかの回答を返してくださるはずです。それを待って今後について協議を行いましょう」


 先方の親父さんに挨拶か。

 緊張のイベントだな。

 とは言うもののこちらも向こうも同じ伯爵だから、そこまでかしこまることもないのかな?


「レックス様、早馬の返事が返ってくるまで滞在が延びそうなのですが、よろしいでしょうか?」


「行ったり来たりを繰り返すよりも効率的だろうな。ジャンジャック、カニルーニャの皆さんが留まることでなにか不都合はあるか?」


「ございません。マハダビキアさんが多少忙しくなりますが……まあ彼ならそれすら楽しむことでしょう」


 人手を増やすよう指示を出しておこう。

 流石に毎日エイミーちゃんの飯を作るのに一人っきりじゃ追いつかない。

 ヘッセリンク伯爵家は家来衆にホワイトな労働環境を提供します。


「ということだ。滞在の延長を許可する。エイミー嬢がいてくださればユミカも喜ぶだろう。それに武力以外のお互いを知り合うには、ちょうどいい機会になるのではないかな?」


「ふふっ、ユミカさんは本当に可愛くて天使のようです。もちろん他の家来衆の皆さんとも仲良くなりたいと思っています」


 ユミカ=天使。

 間違いないな。

 エイミーちゃんとは分かり合える気がしてます。

 ほら、親バカ聖騎士が深く頷いてる。


「まずは昼食でも食べながらメアリ達と親交を深めてみてはいかがかな? さ、たくさん食べなさい」


 コマンドに保管してもらっていた大量のバスケットを取り出し地面に並べる。

 目を輝かせるエイミー嬢と何が起きたかわからず目を剥くハメスロット。

 常識人は大変だな。

 ちなみに、この日のサンドイッチの大半をエイミーちゃんがたいらげたのは言うまでもない。

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