家臣に恵まれた転生貴族の幸せな日常。
企業戦士
第1話 起きたらそこは
貴方は生前の行いから、ガチャ専用コインを11枚所有しています。
では、転生記念ガチャ、スタート!!
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おめでとうございます!
以下の景品を獲得されました!!
1.上級召喚の書
2.メイド長 アリス
3.騎士 オドルスキ
4.執事 ジャンジャック
5.暗殺者 メアリ
6.魔獣の箱庭
7.孤児 ユミカ
8.シェフ マハダビキア
9.メイド イリナ
10.騎士団パック
11.亡霊王 マジュラス
それぞれの景品を解説します。
1.上級召喚の書
上級召喚士に転職可能。初期召喚可能魔獣はドラゴンゾンビと大魔猿。魔獣は召喚士の得た経験によって追加される。
2.メイド長 アリス
屋敷のハウスキープを高レベルで実現するメイドの中のメイド。
3.騎士 オドルスキ
忠誠を誓った国に裏切られ、堕ちた聖騎士。個人能力はもちろん高い指揮能力も備えている。
4.執事 ジャンジャック
絶対的な忠誠心を持つザ・サーバント。完璧な手腕で家を切り盛りする傍ら、高い武力も有する。
5.暗殺者 メアリ
生まれてすぐ裏組織に誘拐され、暗殺者として育てられた少年。その美しさから女として育てられた美貌の死神。
6.魔獣の箱庭
上級邸宅セット。セット内容は、母屋、倉庫、使用人用離れ、森、家紋入り外套。
7.孤児 ユミカ
貴族の血を引くが、事情により孤児院で育つ。特殊な能力はないが、癒し効果は抜群だ。
8.シェフ マハダビキア
元々はある国の王宮に勤めていた料理人。
王の食事に毒を盛った罪を着せられ出奔した過去を持つ。
9.メイド イリナ
下級貴族の三女。必要最低限の教養と礼節を持ち合わせている。メイドとしては駆け出しだが、明るく前向き。
10.騎士団パック
騎兵×50、歩兵×100、魔法使い×20
11.亡霊王 マジュラス
200年前に滅びた軍事国家の最後の王。周辺国家の総攻撃に遭い、父王が討ち取られ、マジュラスも戴冠直後に捕らえられ首を落とされたが、強い怨念によりこの地に留まり続けている。
全ての景品をアクティブ化します。
10秒後に異世界アルスマークに転移します。
適宜チュートリアルを行うことも可能ですので、『コマンド』をご利用ください。
…
……
………
妙な夢を見た。
スマホのゲームを始める時によくあるような開幕ガチャを引いている夢だ。
現れた巨大なカードが眩い光を放つと、8枚が人の形に変わった。
残りは本と建物のジオラマ、あとは馬に乗った鎧兜の兵隊の人形。
カウントダウンが進む。
一つ進むごとにガチャで引いた景品たちが消えていく。
カウントがゼロになった瞬間に目の前が暗くなり、すぐに明るくなった。
「お目覚めですか? ご気分はいかがでしょう」
「……悪くはない、と思う」
悪くはないけど戸惑ってはいる。
僕に声をかけたのはさっき夢で引いたガチャのキャラクターだった。
一つにまとめて腰まで垂らされた白金色の髪が目を惹くメイド服の美女。
そんな彼女が僕を覗き込んでいた。
どうやら僕はベッドに寝ているらしい。
確か彼女の名前は、
「アリス」
「なんでしょうか、伯爵様」
伯爵様ときた。
よくわからないけど、すごくいい響きだ。
彼女は、柔らかな微笑みをたたえたまま、部屋のカーテンを開けていく。
「今日も素晴らしい天気ですよ。朝食を取られたら森で狩りをされてはいかがですか?」
「狩り?」
「ええ。あまり無理をされると困ってしまいますが、美味しいお肉をお持ち帰りいただけば、きっとメアリちゃんもユミカちゃんも喜びます」
そもそも森で狩りというのがピンとこない。
メアリとユミカは、確かさっきのガチャで引いたキャラクターだったはず。
ベッドの質感や窓から差し込む光は、夢にしてはリアルだけど……。
「目が覚められたら食堂へ参りましょう。昨日オドルスキ殿が狩った大物を、マハダビキアさんが大張り切りで解体してシチューにしたみたいです」
「ああ、わかった」
アリスが頭を下げて部屋を出ていく。
ベッドの脇には巨大なクローゼットが備え付けてあり、吊るされている服はどれも誂えたように僕にぴったりだった。
問題は、どれも派手すぎるということ。
その中から可能な限り大人しい色をと探した結果、濃いグレーのゆったりしたチュニックとズボンを着込む。
ちなみに、起きた時の僕は真っ裸だったのだけど、男のシンボルが立派過ぎたことが、これが現実じゃないというか、少なくとも僕がこれまでの僕じゃないという証明になった。
「馬か、僕は」
悲しいかなこんなに立派なシンボルを持っていた記憶はない。
それだけじゃなく、こんなに視線が高いのも慣れないし、身体も引き締まっている。
「死んだのかな」
思い出そうとしても、その部分だけ記憶が曖昧だ。
だけど、『転生』ガチャと言うからにはおそらくそういうことなんだろう。
前世の僕はなんらかの理由で生涯を終え、この場所に渡った。
赤ん坊でもないから転生というか転移のほうが正しいのかもしれないけど、まあ細かいことは置いておこう。
「伯爵様? いかがなさいました?」
僕が遅いのでアリスが迎えに来た。
今行くと声をかけて部屋を出ると、アリスの他にもう一人、若いメイドが立っていた。
アリスが熟れた美しさなら、この娘は若く溌剌とした美しさだろうか。
「おはようございます、伯爵様」
「ああ、おはようイリナ」
深々と頭を下げる姿一つとっても洗練されている。
確かな説明書きでは下級貴族の三女だったはずだ。
肩までで切り揃えられた髪は薄い銀で、なかなか日本ではお目にかからない色味だ。
「まあ、またそんな地味なお召し物を……こちらの赤や橙のほうが映えますのに」
普段使いにそんな光沢のある赤やオレンジの服を着たいとは思わないので拒否すると、イリナだけではなく、アリスも若干不満そうな顔を見せた。
「服なんて地味なほうがいいんだ。目立っても仕方ないだろう」
「そんなことございません! 確かにあまりお客様のいらっしゃる場所ではありませんが、それでも旦那様は上級貴族のお一人です。いついかなる時もそれにふさわしい服装をされるべきなのです」
上級貴族?
わからないことだらけだ。
【この世界の貴族階位は公侯伯子男騎の六階級。上級貴族は、公侯伯を指します。もちろん、子爵以下でも力を持つ家も多数存在しています】
なんだ?
【はじめまして。私はコマンドと申します。閣下の第二の人生をサポートしますので以後よろしく】
こちらこそよろしく。
早速だけど、ここはどこ?
僕は誰?
【ここはレプミア。その存在は定かではなく、しかし確実に存在する世界、アルスマークの一国。閣下に馴染みがある言葉で説明すると、俗に言う異世界です】
俗に言ったな。
まあそうだろうとは思ったけどやっぱりそうか。
それで?
【貴方はこのレプミアにおける上級貴族の一席を担う者。レプミア貴族のなかでも選ばれし家のみが名を連ねる十貴院。その九に座るヘッセリンク伯爵家の現当主、レックス・ヘッセリンク】
レックス・ヘッセリンク。
それが僕の今の名前か。
よし、覚えた。
要は十個ある有力貴族のうち下から二番目ってことだな。
【父である前当主が不慮の事故で急逝。前伯爵の長子であり、召喚士として名を馳せる閣下が名門ヘッセリンク伯家を継がれました。現在28の歳です】
バックボーンの説明どうも。
父は亡くなっているのか。
母や他の兄弟姉妹はどうだ?
【母君は王都の屋敷で閣下の妹君とお住まいです】
貴族なのにあまり兄弟は多くないんだな。
勝手に子沢山なイメージを持ってたけど、妹だけなら仲良くしないと。
いつか会えるかな。
まあ、それも今のこの状況に慣れてからか。
「もし人前に出る機会があればアリスとイリナに服の選択を任せる。だから普段は地味な服で許してくれ」
「……約束してくださるのであれば、目を瞑りましょう」
難を逃れた。
難を将来に先送りしたとも言えるが仕方ない。
毎日毎日キンキラキンの服を着て過ごすメンタルは僕にはない。
「アリスさん、先日商人が持ち込んだあの生地なんかは……」
「ええ、そうね。後で職人を呼んで……」
先送りした難は確実に将来で待ってるようだ。
僕を先導しながらこそこそと言葉を交わすメイド二人を眺めながら未来の僕に心の中で謝罪しておく。
すまない、将来の僕。
将来君は顔に似合わないド派手な服を着せられることだろう。
今の僕のために犠牲になってくれ。
「よお、若様! 遅かったじゃないか。折角の俺の自信作が冷めちまうぜ? アリス、イリナ、準備を急ぐぞ。ほらほら」
食堂に入ると、コックコートを着た無精髭の男が駆け寄ってきて親しげに僕の肩を抱いてきた。
シェフのマハダビキアか。
黒髪を短く刈り込んだその男は三十台後半から四十代前半に見える。
ニコニコというかニヤニヤに近い笑顔を浮かべながら、火にかけられた鍋を指差した。
「オドルスキの奴が上物を仕留めてきたんでね。よーく煮込んでシチューにしてみたんだよ。若様に必ず気に入ってもらえると思うぜ!」
えらくフランクだな。
まあ下手にかしこまられるよりよっぽどいいけどメイド陣がすごい顔でこっち睨んでるぞ。
「ん? おいおい、二人とも。そんなに眉間にしわ寄せてちゃ綺麗な顔が台無しだぜ? なあ若様」
僕に振るな。
お前が怒らせてるんだろうに。
『マハダビキアは他国の王宮に勤めていた腕利きの料理人ですが、とある濡れ衣を着せられたことで出奔。この国に流れ着き、縁あってヘッセリンク家に雇われた経緯があります。その際の条件は一つだけ。無礼な態度を咎めないこと』
カッコいいバックボーンだねそれは。
ここで僕がマハダビキアを叱ったら契約不履行になるわけだ。
「マハダビキアのこれは今に始まったことじゃない。いちいち気にしても仕方ないさ。大事なのは料理の腕だろう?」
「……旦那様がそうおっしゃるなら。しかしマハダビキアさん。公式の場ではくれぐれも、くれぐれもよろしくお願いしますよ?」
「りょうかーい。 おじさんこれでも若い頃は他所の国の王宮に出入りしてたから、バッチリ決めちゃうよ」
バチっと音がしそうウインクが様になる伊達男。
アリスにもイリナにも冷たい目で見られてるけど、そんなもの一切気にしないメンタルの強さは見習いたいものだ。
シミ一つない真っ白なクロスのかかった馬鹿みたいにでかいテーブルに一人で掛けると、背後にアリスとイリナが控える。
すると、タイミングを図ったようにマハダビキアが現れ、熱々のシチューを目の前に置いた。
皿になみなみと盛られたシチューはクロスと同様真っ白で、その中に浮かぶのは様々な野菜と肉の塊。
「まあ食べてみなって。それで、美味けりゃオドルスキのやつを褒めてやってくれよ」
とりあえず存在感抜群の肉を一口。
美味っ!
噛み切るのに歯いらないんじゃない?ってくらい柔らかくて口の中でどんどん肉の繊維が解けていく。
豚に近いかもしれないけど、比べ物にならないくらい旨味が強い。
シチューの味付けもこの肉の旨味を邪魔しない絶妙な甘みと塩味だ。
素材も最高なんだろうけど、きっとマハダビキアの腕があってのこのクオリティなんだとわかる。
「最高だ」
頭の中には褒め言葉がたくさん浮かんできていたのに、口から出たのはそれだけだった。
いや、ほんとに美味いものを食べたら人間そんなものだよね。
「くっ、ははっ! こりゃいい。 ごちゃごちゃと余計なことを言わず、短い一言に全てをこめてくださる。相変わらず若様は褒め上手だぜ! これだから若様の料理人はやめられない」
いや、脳内で褒めまくったけど。
喜んでくれたならいいか。
この肉を狩って来たのがオドルスキ。
確か騎士だったな。
「アリス。オドルスキはどこだ? これだけのものを狩って来たなら一言礼を言わないとな」
「オドルスキ殿なら森のどこかで魔獣の討伐をされていると思います。夕方には戻られると思いますが」
「いや、いい。腹ごなしに僕も散策するとしよう」
「散策ね。流石は上級召喚士様だ。あの森ほど散歩にそぐわない場所もないだろうに。オドルスキにしても若様にしても、人外って言葉がピッタリだ」
「マハダビキアさん! 伯爵様に失礼です!」
「構わないよアリス。マハダビキアのそれは褒め言葉だ」
「流石若様。こういうとこはやっぱり男同士じゃないとわかりあえないもんだなあ」
「男同士とか女だからとか、そういうの嫌いです!」
「はっはっは、悪かった悪かった。お詫びにシチュー多めに注いでやるから許してくれよイリナ」
ここの使用人たちはとても仲がいいみたいだ。
立場が違っても言いたいことを言い合える関係なんだな。
良かった。
修羅の家系だったら胃を壊す自信があるから。
「それじゃあ家の事を頼むぞ、アリス、イリナ」
「お任せください。夕方までにはお戻りですよね?」
そういえば僕のレックス・ヘッセリンクとしての仕事って何があるんだ?
有力貴族らしいし、放蕩野郎として遊んでればいいってこともないはず。
そこんとこどうなの?
【通常の貴族であれば領地経営を行います。領民代表からの陳情を聞いたりするのも領主の仕事ですね。あとは近隣諸侯との会談や王城への定期登城など】
領民代表か。
どのくらいの人数がいるのか。
徴税とかどうしたらいいんだろう。
確か執事がいたよな?。
彼に任せればOKかな。
【しかし、ヘッセリンク伯家においては例外です。なぜならヘッセリンク伯家の領地はこの魔獣の庭のみであり、領民など存在しません。ここに住むのはヘッセリンク伯家に仕える数人と領兵のみ】
まじで?
十貴院なんていう偉そうな集団の一員なのに領地もなくて領民もいないなんて。
まあ、難しいことしなくていいならそれに越したことはないけど。
じゃあ税金はどうしてるんだ?
過去の功績で免除でもされてるのか?
【ヘッセリンク伯家は代々唯一の領地であるこの魔獣の庭に現れる魔獣を討伐し、その素材を納めることが納税と見なされているのです】
腕っぷしの強い家系?
【先代は歴代最強と呼ばれた槍使い、先々代も並ぶ者なしと謳われた火魔法使いでした。その力の連環は神が与えたもうたとしか考えられないと言われています】
そして僕は上級召喚士。
なんだっけ?
ドラゴンゾンビと大魔猿とかいうヤバそうな奴らを召喚できると。
あとでオドルスキ探すついでに試してみるかな。
【レックス様自身の他に対魔獣の戦力となるのは今のところ、堕ちた聖騎士オドルスキ、暗殺者メアリ、執事ジャンジャックの三名です】
「それじゃあ僕は森に出る。何もなければ夕方には戻る」
「いってらっしゃいませ」
「伯爵様とオドルスキさんがいて対応できない魔獣が出たならこの世の終わりですね」
「違いねえ」
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