うそつき市長(その13)
明日がいよいよ今月最後の仏滅という日、
「元市長の自宅には非常線が張られていて、蟻の這入るスキもない。犯人はどうするつもりだろう?」
居ても立っても居られなくなって、可不可に話しかけた。
「まともには無理でしょうね」
「当たり前すぎる答えだね・・・」
「平面的には無理なので、立体的に考えるしかないです」
「というと?」
「まあ、空からですかね」
悪い冗談かと思ったが、可不可は至って真面目な顔をしている。
「ヘリコプターをチャーターするとか?」
「古典的ですけど、凧に乗ってとかもあります」
・・・最後には、そんな与太話になってしまった。
何かあるとしても日が暮れてからからだろうと思ったが、沖縄沖に発生した台風の余波で、午後からは暴風雨になった。
永田市長の遺体が運ばれた夜と同じ状況になったのは、何かの縁なのか?
そんな雨をついて、市の繁華街の向こう側にある山崎のマンションへオンボロ車で向かった。
缶コーヒーを飲みながら、辛抱強くマンションの玄関前を張った。
11時過ぎに山崎の部屋の明かりが消え、黒いレインコートの山崎の巨体が玄関前に現れると雨に濡れた暗闇の中に消えた。
すぐに黒いワゴン車が現れ、部屋にもどった山崎は重そうなポリタンクを5缶も玄関前に持ち出し、雨の降りしきる中ハッチを開けて車に積み込んだ。
・・・今夜の奇襲攻撃のプランがこれで分かった。
元市長の自宅は、山あいの人造湖から流れ出る川の下流にあった。
家の裏は土塀のような高い土手になっていた。
山崎の黒いワゴンは住宅街を突っ切ると、川の下流の土手に乗り上げ、猛スピードで走った。
雨風の吹きすさぶ細い土手道を、狂ったように走るので、後を追うのが大変だった。
何せ、左は切り立った崖で、右は黒い水が渦巻く濁流だった。
やがて、左手奥に、元市長の御殿のような二階屋の影が雨煙りの中に浮かび上がった。
時計の針は12時少し前を指していた。
市長の家の裏の高い土手の上で山崎の黒いワゴン車は停まった。
後ろのハッチが開くと、突如、紅蓮の炎が車の後部を包んだ。
お尻に火の点いた車は、後ろ向きのまま土手の急斜面を滑り落ちるようにして、元市長の家の母屋へ突っ込んでいった。
「ドーン」
轟音が響き渡り、暗闇の底に恐竜のようにうずくまる母屋から、巨大な火柱が降りしきる雨をつくようにして立ち上った。
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