うそつき市長(その7)

永田市長のリコールはほぼ成立しかけていた。

だが、当の市長が任期3ヶ月を残して死んだため、3ヶ月後に新たな市長を決めるための選挙が行われることになった。

永田市長の後援会が代わりの候補を出す動きはなかった。

12年前に永田市長に敗れ、リコール運動を主導した前市長が出馬すれば、がぜん有利の状況だった。


永田市長の死因に関する警察の公式発表はいつまでもなかった。

その後、深夜の豪雨の中を、黒いワゴン車が、市長の遺体を自宅まで運んで来たという警察のリーク情報があった。

ワゴン車のバックドアから市長を抱えて運び出し、自宅の玄関前に放置した黒いレインコートの男が防犯カメラに映っていたとも・・・。

財布など失われたものはなく、靴もきちんと履いていて衣服に乱れはなかった。

警察はこの黒いワゴン車と黒いレインコートの遺体配達人の行方を追っていた。

「永田市長はどこかで自殺をし、その遺体を誰かが自宅へ運んで来て捨てた」

というのが警察の見立てのようだった。


裏チャンネルの犯罪ネットへの書き込みはいろいろあったが、妄想とか憶測の域を出なかった。

その中で、自殺説を主張するコメントがいちばん気を引いた。

リコール運動で市議会で嘘の答弁を繰り返したことを責められたことよりも、政治資金の個人流用を咎められたことが痛手だったとするコメントだ。

・・・リコール派のHPをチェックした。

永田市長が死んだのでリコール運動そのものは凍結されたが、HPはそのまま残っていた。

リコールする理由として、

「12年間で108もの嘘」

というおどろおどろしいタイトルで、今までついた嘘を列記して糾弾したしていた。だが、いちばん最後の「政治資金をスナック開業に流用して事務所に使用」の項目が目を引いた。


「直近の市議会の議事録を見ると、永田市長は、この糾弾に対して『スナックを事務所にしてどこが悪い、カラオケでもやりながら、市政相談をやれば仕事がはかどるというものだ』などと、例の愛嬌のある顔でにこやかに笑いながら答弁したようだ」

「それで済んだのですか?」

「どうも、そのようだね。・・・その辺は詐欺師とは言わないが、天真爛漫を装って笑いを取って煙に巻くのは天才的だからね」

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