第104話 肩こり
「ふぅ……いつも悪いな。先に風呂に入ってしまって……」
「別にいいんだよ、義姉さん。お兄ちゃんは後から入って、義姉さんの出汁を―――」
「し、翔一の変態っ!」
「俺、なんも言ってないよね!?」
玲羅が風呂から上がってきて、すぐに結乃が余計なことを言って、その場をかき乱した。余計なことを……
先の言葉の通り、今は玲羅がいつも一番に風呂に入っている。その後は、結乃が入り、いつも俺が一番最後に入っている。
と、言っても、俺はいつも家に帰ったらシャワーを浴びることが多いので、普通に過ごしているよりは清潔でいると思う。
そして、玲羅が風呂から上がったらまずするのは―――
ブオオオオオオオオオ
玲羅の髪を乾かして梳かすことだ。
いつかの日から、俺は風呂上がりの玲羅の髪を乾かすようになった。
するときは俺がソファーに座り、玲羅が床に座ることによって、やりやすい高さを実現している。
あすなろ抱きの形でやってもいいのだが、それをやると2人とも違うスイッチが入ってしまう。
―――ん?あすなろ抱きを知らない?そんなバカな……。あんな萌え度の高い抱き方を知らないと申すか?ググれ!
「いつもすまないな……」
「別になんの問題もないよ。俺もやりたいしさ」
「だが、私のわがままじゃないか」
「別にいいじゃん。好きな人の可愛いわがままは、なんでも聞いてあげたくなるもんだよ」
「そういうものなのか……」
そう言って、目を閉じる玲羅。いつも申し訳なさそうにしているが、結局すべてを受け入れてしまう。
彼女の髪は腰まで伸ばしており、とても乾かすのが大変だ。だが、乾かした時に見ることができる彼女の美しく鮮やかな灰色の髪は、なにものにも代えられない価値がある。
髪を乾かし終えた俺は、そばに置いてある櫛を手に取り、玲羅の髪を梳かし始める。
「はぁ~、こんなに気持ちいいのは翔一だけだな。本当に、一つ一つが丁寧で優しくて、心が温まる」
「そんなに大げさなものかいな」
「大げさなんてもんじゃない。本当に翔一は、私のしてほしいことをしてくれる。―――今だって、髪を梳かすだけじゃなくて、さりげなく私の頭を撫でてくれている」
「あ、バレてた?―――撫でてたのは、俺がしたかっただけだよ」
「―――でも、翔一のしたいことは、大体私のしてほしいことと同じだ。本当に、私たちは相性がいいんだろうな」
「そうだなあ。本当に相性は最高だな」
そんな会話をしながら、俺たちはゆっくりとした時間を過ごしていた。そのうちに、玲羅の髪のお手入れは終了した。
俺がさりげなく耳に触れると、彼女は委ねるように頭をこちらに傾けてきた。
そんな動きも俺の恋心を強く揺さぶってしまう。
だが、そんな玲羅に、俺は違和感のある動きを見つけてしまった。
不意に、玲羅が首をこきこき言わせたのだ。
「んぅ……」
「どうしたんだ?」
「いや、最近肩こりがひどくて……」
「勉強のしすぎか?俺が言うのもあれだけど、勉強はほどほどが一番だぞ」
「い、いや……私の場合は―――その、胸が……」
「ああ、玲羅、大きいもんな」
「なあっ!?……せ、セクハラだぞ!」
「!?」
俺は一瞬驚いたが、発言を振り返って思い直した。
「ああ、たしかにセクハラだ」
「どういう感性なんだ?」
「いや、
「い、いや、翔一が大きいとかなんの恥ずかしげもなく言ったから驚いただけで、翔一なら下心あっても……」
そう言いながら、玲羅は顔を真っ赤にしている。
彼女には、美織みたいに下ネタを言うのはまだ早すぎるようだな。
「と、とにかく!私は、今肩を凝っているんだ……って、翔一に話してどうしろと!」
「えぇ……セルフツッコミ?まあいいや。玲羅、おとなしくしててね―――ふんっ!」
「ひにゃああ!?」
俺は、玲羅の肩に思いっきり力を叩き込んだ。もちろん、本気は出してない。さすがに愛しの玲羅が死んじゃう。
だが、力を入れた瞬間にわかった。とんでもなく凝ってやがる。
彼女が辛そうにするのも納得だ。
「な、なにをするんだ!?」
「もうちょっとだけ我慢してね―――よいしょっ!」
「ひやあああ!?」
彼女の肩の具合を確認した俺は、さっそく肩もみを開始したのだが、突然の出来事に彼女はたいそう驚いた。しかし、そんな彼女の驚きの声は、すぐに上がらなくなり、代わりに彼女の艶めかしい声が聞こえてくるようになり、息も肩でするかのように、激しく彼女の両肩が揺れていた。
「はぁ……はぁ……はぁん!」
「やりづれえな……終わったぞ」
「はぁ……きもちいい……」
「あれ?おーい?れいらさーん」
「うへへ……しょういちぃ、もっとぉ……」
ダメだ。まったく人の話を聞いちゃいねえ。
そう感じた俺は、床に倒れ込んでいる玲羅の耳元に顔を近づけて、囁いた。
「いつまでも寝てると、食べちゃうよ。お姫様」
「うへへ……しょういちぃ……」
カプリ
「うひゃあああああ!?」
俺が玲羅の耳にカプリと行くと、彼女は絶叫しながら起き上がった。
「にゃ、にゃにをしゅる!」
「噛み噛みだぞ。でも、俺は言ったぞ。食べちゃうぞって」
「それって、性的な食べるって意味じゃ……い、いやなんでもない」
玲羅は、俺の言葉に顔を真っ赤にしながら講義をするが、最後になにかとんでもないことを言って恥ずかしくなったのかそれ以上は口を閉じてしまった。
しかし、彼女はお返しとばかりに、俺の首筋に吸い付いてきた。
「玲羅?」
「ちゅー……こ、これはお返しだ!決して、私が翔一にキスマークを付けたいからではないぞ!」
「はい、ツンデレありがとうございまーす」
「つっ!?―――だ、誰がツンデレだ!」
「玲羅」
「ツンなんてしてない!」
「え、そっち?」
そんな言い合いをしているとからかはわからないが、なんでもないお互いの愛を感じるだけのののしり合いは、いつしか言葉が出てこなくなり、いつの間にか俺たちはののしり合いに使っていた口を―――唇を重ねていた。
「ふぃー、お兄ちゃんあがっ―――たっ!?」
「んぅ……翔一、愛してる」
「俺もだよ……」
「なにしてんの!そういうのは、寝室でやって!独り身の私がみじめになる!」
その後も、結乃を無視してキスをし続けていると、俺が妹から首を絞められるというとんでもない結末を迎えることになってしまった。
だから、俺は聞き逃してしまった。玲羅の呟きを―――
「翔一の肩もみ……気持ちよかったなあ」
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