第89話 アーカーシャの剣
「さあ、派手に行くぜ……」
そう言うと、男は俺の方を向いた。
柊のことを知ってるんだ。さすがに、俺のことは情報があちらに行っているはずだ。
「はあ……はあ……なにしてくれやがる……」
「腕、さっさと治せよ。どうせ、増幅剤ももらってんだろ?」
「フンッ、言われなくても使うわ」
俺に指摘されて腹が立ったのか、若干苛立ちを見せながらも男は懐から小さい注入器を取り出し、傷口にそれを刺した。
すると、中にあった薬品の効力で新しい腕が男の切断部から生えてきた。
いつ見ても気持ち悪いな。
「誰かと思えば、椎名家のバカ息子じゃないか」
「はあ、さっさと構えろ。消し飛ばしてやるから」
「は!?あはははは!本当に馬鹿みたいだな!お前は自分でなにをしているのかわかっているのか!?」
「うるせえよ」
ごちゃごちゃ御託がうるさい野郎だ。
まだ気づいていないのか?
「こちらB班……あれ?こちらB班……応答しろ!」
「まだ、気付かないみたいだな。俺が来る時点で応援を呼ぶことなんか十分想定している。俺も―――美織もな」
俺はそう言って俺の入ってきた窓の方を指で指示した。
そこには割られた窓と不自然に刺さっている謎の棒があるはずだ。
「タイムアウトだ」
「なに言ってやがる」
「この教室はすでに隔絶されている。あと、連絡が10秒早かったら、他の人にも連絡は言ったのにな」
「まさか、俺に腕の再生を促したのは……」
「時間稼ぎだ。よかったよ、お前が優先事項を選べない馬鹿で」
俺が見つけたアーカーシャの力は、完全に空間に作用するもの。その理論のすべてが二家にわたってしまっている。だから、こいつらが持っている可能性を否めないから、早々に決めるべきだ。
ちなみに、この教室を孤立させた力もアーカーシャによるものだ。まだ、俺が二家に残っているときに発見した理論をすべて美織に譲渡して2人で研究していた。
だからこそ、俺たち以上にアーカーシャをうまく扱える奴らは存在しない。
「お前たちはなにも見誤ってるんだよ。再三言うが、馬鹿はお前だ」
「う、うるさい!」
俺が挑発すると、男は背負っていたライフルを俺に構えた。
さすがの俺も今の状態じゃあ、止められないな。
「死ねええ!」
その男の叫び声とともに銃弾の雨が俺に向かって降り注ぐ。
男の絶叫をかき消してしまうほどの爆音の嵐は、奴の弾が切れるまで止まなかった。
その中で、玲羅は絶句しながらこちらを見つめている。
さすがの俺も、これだけの攻撃をさばききれるはずがないから。好きな人が無残にもこんな殺られ方をしているのだから。
「はあ……はあ……これでくたばっただろ……さしもの椎名家とは言え、この弾幕を受け流せるわけねえだろ」
「―――なんだ、この程度か……」
「……なっ!?」
確かに、俺は言った乱射されなければ、さばききれると。だが、その言葉の裏を返せば、あまりにも弾数が多いと、さばき切れないことを意味する。
だが、それはなにもしていない素の俺だからだ。
「大丈夫だ。だから泣くな、玲羅。俺は、こんな程度じゃ死なない」
「翔一……」
「な、な、な、なんなんだよ!ライフルくらいの連射なら、宗家の人間でも殺せるはずだ!」
「だから、無理だって言ってんだろ。ほかの奴は知らんが、俺を殺すにはまだまだ足りない」
弾幕が止み、白い煙が消えて、俺の姿が見えるとその場にいる全員が驚愕しただろう。
すべての弾が、俺の体で完全に静止しているのだから。
そして、その俺の顔にはいつかの仮面がついていた。
―――『武装』
俺が生み出した新たな法力の使い方。
完全に身に纏い、神経器官、血管にすら法力を通し、武装状態になる方法。
今までは自身の力では御しきれなかったが、美織の生み出した仮面で制御が実質可能となった。
仮面は初めての使用者の法力に溶け込む。俺が使いたいと思った瞬間に、仮面は俺の顔で法力を纏うとともに顕現する。
「さあ、終わらせる。俺はこの学校にバトルファンタジーをやりに来たんじゃないんだよ」
「クソがあああああ!」
そう咆哮する男を尻目に、俺は剣の柄に手をかけた。
俺の扱う剣がただの剣だと思うなよ……
「死ね死ね死ね!やめろっ!来るなっ!」
そう怯えながら男は乱射を始めた。
もう、俺に効く効かない、お構いなしに俺に向かって銃を乱射した。
「血を見たくない奴。人が死ぬ様を見たくない奴は目を瞑れ」
俺はクラスの奴らにそう警告して、数人が目を閉じるのを確認して、男の懐から後方に駆け抜けた。
その瞬間、男の動きは完全に止まり、銃撃も止まった。
「あ……あれ?なんとも―――かっ!?」
奴には俺が近くを通ったということも理解できまい。
なんて言ったって、俺の武器は速さだ。奴程度じゃ見ることすらできない。そして、速過ぎる剣撃を受けた者は、先に刃の入った方向からではなく、その逆から分かれていく。
その通りに、前から斬られたのにも関わらず、男は背中の方から割けている。
だが、まだだ。
てめえは死体すらも残してやるものか。
俺の扱う剣。それは俺と美織で生み出した『アーカーシャの剣』
これに、俺の本気の法力を込めて斬れば、斬られた相手は絶命とともにこの世から消え去る。
「言ったろ、消し飛ばすって」
そう言った瞬間、男は完全に虚空に飛ばされて、この世界から姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すごい……」
私は目の前で起きたことを見て、そうつぶやいた。
今日、ついに翔一の本気を見た。
今まで想像してきた姿よりも、今までに見せてきたどの姿よりも、強く、気高い。
そしてなによりもカッコよかった。
殺されかけていた私のところに颯爽と駆けつけてくれて、相手の男を倒してしまった。
正直なところ、翔一に対する怖さはない。
彼が私にあの力を向けることは絶対にない。翔一は愛する人に、剣を向けるような人じゃ―――いや、私だけじゃない。なにもしていない人に拳を振るうような人じゃない。だからこそ、私は安心して翔一のそばにいられる。
そう思っていると、翔一が仮面をつけたまま私の方を向いた。
表情はわからないが、雰囲気から安心しているように見える。
「玲羅……」
「翔一……!?」
私の名前を呼んだかと思うと、翔一は仮面を取って―――正確には消して、私に抱き着いてきた。
あまりにも突然のことで、私は少し混乱してしまっている。
「よかった……無事で」
「ああ、翔一のおかげだぞ」
「大丈夫だ。絶対に俺が守り抜く。なにがあっても俺の大事な人は、もう殺させない」
「翔一……」
そうやって息が苦しくなるほど強く抱きしめてくるほど、私は死の恐怖から安堵へと変わって言った感情が爆発してしまった。
「しょういち……こわかったよう……」
「もう大丈夫。俺が来たから」
私は高校生にもなって、号泣してしまった。
そんな私を慰めるように、優しくそれでいて強く、私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。
強い安心感を得られたことで、私は翔一の唇に向かって自身の唇をぶつけた。
もうクラスのみんなの前とか関係ない。今は―――今だけは、翔一の温もりを感じていたいんだ。
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