【改稿版】最悪の終わり方で完結を迎えたラブコメ漫画のその後の世界で、読者だった俺は負けヒロインを救って作者が思い描かなかったハッピーエンドを迎えてみせる

第76話 椎名結乃

　俺の周りに明津が動き回るようになってからというものの、美織の機嫌が悪い。

　「翔一、なによこいつ。こいつのせいでまともにあなたと会話できないじゃない！」

　「椎名君、誰だいこの人は。ああ、そうか、君が条華院家のご令嬢か」

　「それがなによ。私にはもう関係ないわよ！それよりも翔一から離れなさい！私はこれから大事な話があるのよ」

　「おやおや、それは私も興味がありますね」

　「うっさいわね！あんたは家に帰ってオナニーでもしてなさい！」

　「下品なお嬢さんだ。いったいどんな生活をしていたのだか……」

　「ああ！？」

　「なあ、喧嘩するなら違うところでやってくれないか？」

　こんな風に目が合うたびに喧嘩するのだ。見てるこっちがだるい。

　根本的に馬の骨が合わないのか、それとも喧嘩するほど気が合うのか、どちらかはわからないが他クラスの明津がいるだけでも異常だというのに、美織と一緒に喧嘩しているのは、本当に異常な光景で、クラスの連中が「なんだあれ？」という目で見てきている。

　「そんなことより、翔一に話があるのよ！」

　「興味深い、私もついていこうじゃないか」

　「いや、明津は来ないでくれ。美織がこう言う以上は、他人に聞かれたくないことなんだろうな」

　「そうよ！部外者はすっこんでなさい！」

　「ふむ……お嬢様に言われるのは癪ですが、椎名君がそう言うのなら仕方ないかな」

　俺の一言で食い下がった明津はクラスに戻っていった。

　その時に、美織が「べーっ」と舌を出していたが、意外や意外、かわいらしい一面もあるものだと思った。まあ、見てくれは美人だからな。

　カテゴリ的には、残念美人のたぐいだ。

　「なによ、そのかわいそうなものを見る目は」

　「はあ、なんでもない。ほら、人気のない場所行くぞ」

　「彼女持ちがそんなこと言っていいの？」

　「うるさいよ」

　そう言って、俺たちはゆっくり移動した。まあ、美織の機嫌が直るまでの時間稼ぎってところだ。

　そして、俺たちが来たのは、いつも玲羅と昼休みを過ごす場所だ。やはり、ここは安定して人が来ない。

　「まあ、授業が始まってるし、手短に話すわ。今、『武装』を使って」

　「は？嫌だよ」

　「いいから、暴走の危険はないはずよ。仮面をつければね」

　「……はあ、わかったよ。仮面をつけてから―――」

　俺は美織に言われるままに武装を発動した。しかし、自我を失わない……

　すごいな。本当に統制がとれている。

　「うん……特に、体に変化はないな。そうか、これが完全な武装の状態か……」

　「あなたは暴走して、その感覚を実際には知らなかったのね。第一ステップはクリアってところね」

　「ステップ？」

　「そうよ。この後は、放課後にするわよ。最寄りから家の反対方向に4駅行くと、今時珍しい廃工場があるわ」

　「そこでなにを……いや、言わなくていいわ。やりたいことはわかった」

　「そう。じゃあ、教室に戻るわよ。知ってる？数学の岡田、私たちが小テストで満点取りすぎて、嫌われてるのよ、私たち」

　「なんじゃそりゃ」

　初めて聞いた。ていうか、いい点とって嫌われるって……

　「ていうか、お前は明津ともうちょっと仲よくしろよ」

　「嫌よ、あんな奴、Fuck youよ！」

　「拳を握るな、馬鹿」

　拳の意味が分かる自分も嫌だし、一応女の子なんだからそんなことするなよ。

　そこから時間が進んで、放課後

　俺たちは、美織の決めた場所に集まった。

　案の定というか、なんというか不良のたまり場になってたので、ボコボコにして立ち退いてもらった。いや、あっちから殴りかかってきたし、正当防衛だから。

　「翔一、『武装』を使ったら、一気に法力を出してみて」

　「……こうか？」

　言われたとおりに法力の放出を始めると、違和感をおぼえた。

　いつもなら、というか本来なら体外に放出された法力は一切の力を失って霧散する。だが、この仮面のせいかはわからないが、放出した法力がすべて戻ってきている。

　「いいわね。二段階目もクリア」

　「なんなんだ、これ」

　「いいのよ。気にせず次、全力の『武装』で法力を体に纏って」

　「……わかった」

　「ふむ……安定してるわね。よし、実験は成功よ。万が一暴発した際に備えて、ここでやったけど心配は無用だったみたいね」

　「そうか……」

　まあ、おそらくではあるが仮面の性能テストだろう。見たことない法力の流れをしているから、俺にはわかることが少ないが、少なくとも仮面をつけている間なら『武装』の使用による暴走は抑えられそうだな。

　「なあ、美織」

　「なに？」

　「こんなに俺のことを支援して……なにが目的だ？俺のためってのもあるんだろうが、他にも目的あるだろ？」

　「はあ、翔一には隠し事できないわね。……そういうところも好きなんだけど」

　「聞こえてるぞー」

　「うっさいわね！難聴系主人公やりなさいよ！」

　「やだよ」

　「まあ、そうね。私の目的は―――姫ヶ咲家を潰すこと。そしてあの女を、綾乃を殺したあの女を私の手で殺す」

　「そうか、なら、いくらでも俺のことを使えばいい。俺とお前は悪友で、仲間で、協力関係で、利用し合う者同士だ」

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　翔一が、美織と帰った。

　彼は、用事があると言っていたし、仮面のこともある。おそらく、浮気とかではないだろう。

　だが、彼氏がほかの女と2人きりになるのはもやもやする。

　「はあ……翔一……」

　「よう、天羽」

　私がため息をすると、突然声がかけられた。

　声をかけてきたのは、この間美織に完膚なきまでにやられた男だった。完膚なきとは言ったが、精神面の話だ。

　「お前、今から俺の女になれよ」

　「は？私は翔一の恋人……妻だ」

　「あ？なに言ってんだ？どうでもいいよ。俺ならお前のこと気持ちよくしてやるぜ」

　「お前のような、体の関係しか頭にないような男に興味はない。翔一はもっと心を揺らしてくる。お前なんか、かけらほどの魅力もない」

　「てめえ……はあ、まあいい。ならこれを見ても、そう言えるのかな？」

　そう言うと、影からたくさんの男が出てきた。

　この男の仲間か？さすがの私でもこんなに相手できない。中学の頃も、三人が相手だったし、油断していた。だからなんとかなったが、さすがに数が多すぎる。

　ざっと見て、10人くらい。どうやっても勝てる気がしない。翔一ならなんでもないんだろうが、あいにくこの場にはいない。

　「くっ……」

　「あははは！終わりだなあ天羽！ボコボコにされるか、股を開くか選べよ！」

　「クソ……」

　「……あれ？なにしてるの義姉さん」

　そんな状況に現れたのは、翔一―――ではなく、その妹の結乃だった。

　「結乃！？ここでなにを！？」

　「え？午前授業で学校が終わったから、買い物に行こうと……で、どういう状況？」

　「はっ、そうだった。逃げるんだ結乃！」

　「あ？そいつは天羽の知り合いか？おい、お前ら」

　男がそう合図すると、数人が結乃を羽交い絞めにして抑えた。

　「結乃っ！やめろ！結乃には手を出すな！」

　「うるせえ！だったら、さっさとこの場で服を脱げ！」

　「……ねえ」

　「あ？なんだよチビ！……いや、胸はでけえな。待ってろ、あとで遊んでやるから」

　「義姉さんを犯すの？」

　「あ？義姉さん？わけわかんねえけど、犯すのは確かだな。よく見ておけよ、お前もこいつと同じようによがらせてやるから」

　「クズがあああああああ！死ねええええええええ！」

　一瞬の咆哮。一瞬の出来事だった。

　私の視界から一瞬で消えた結乃は、視界の外で男の目を潰していた。