第59話 大魔導士

作者の一言

日曜なのに(駅伝のせいで)仮面ライダーとドンブラねーじゃん!







 選手交代のアナウンスが入って、俺たちがマウンドに向かうとき、金剛がわめき散らしていたが監督が無理やり下げた。


 外野の女子たちがとにかくうるさいが、玲羅の「頑張って」の一言だけが、励みになった。


 俺は投球練習ではある程度の球しか投げない。どちらかと言えば、肩をあっためるほうが目的だからな。そもそも、ブルペンで肩は出来上がってるから必要ないんだけどな、この時間。


 規定球数投げた俺は、双葉をマウンドに呼んで、配球の仕方を伝える。


 「1でストレート、2で変化球でいい。ただ、俺が投げる前に手を上にあげたらスプリットを投げる。そこだけ気を付けてくれ。後は俺が構えられたところに投げる」

 「わかった。配置は?」

 「首振って調整するから、ちゃんと見ててくれ」

 「了解」


 俺の言葉を聞いた双葉は、キャッチャーマスクをつけて戻る。


 そして、審判の合図が球場に響き、試合が再開される。


 「プレイ!」


 バッターは4番。真柴ほどではないが、先ほどから当たっている。警戒はするべきだろう。


 ズバンッ


 「え!?」

 「す、ストライク!」


 バッターは、俺の投げる球に一切反応できずに、見逃してしまった。まあ、ゾーンギリギリだし、球速は150後半だったしな。


 だが、俺のMAXはこんなもんじゃない。

 言ったろ?ここからがハイライトってやつだよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 相手校のベンチ


 選手交代によって登場した椎名というピッチャーの登場で、ベンチ内のなめてかかっている食う気が一変した。先ほどまでのピッチャーは力押ししかできない無能だったが、今回のピッチャーはそうでもなさそうだからだ。


 その中でも、一年生ながらキャッチャーをしている真柴が一番理解している。


 「翔一……」

 「ん?真柴、あいつのことを知ってるのか?」

 「はい……あいつ、中学時代に俺とバッテリーを組んでた選手です」

 「は!?なら、あいつも全中制覇の?」

 「まあ、最後の大会は一度もマウンドを踏んでないんですけど」

 「弱くなったのか?」

 「違います。むしろ、翔一を超えるピッチャーなんて、いないと思ってます」


 最初の一球目、電光掲示板に表示されたスピードは157km/h。だが、真柴の知る翔一のMAX球速はこんなものじゃない。一度しか出してはいないが、春の大会で出した163km/hが最高だ。


 しかも、翔一がストレートだけのピッチャーでないことも、ベンチの人間は見抜いていた。


 翔一がチームの4番に投げた球はカーブだった。だが、飛び切り変化量が多く、打つのは困難なほど、凶悪な曲がり方をしていた。

 その変化球を見て、ベンチはさらに騒がしくなった。


 「お、おいなんだ今の!」

 「あんな変化球打てねえよ」

 「真柴、あいつの知ってること全部話せ!」


 翔一の存在を危惧した先輩たちが、真柴に詰め寄るが、彼は話すことを若干渋った。だが、結局話してしまった。


 「彼の名前は椎名翔一。うちの中学のエースでした。誰も反応できないようなストレートに、キレの効いた変化球を持って、三振を量産するピッチャーです。ついたあだ名は、来栖の大魔導士。そして、得意玉は―――」


 真柴が言い終わる前に、翔一は4番への三球目を投げていた。


 投げた球は、まっすぐ進んでいるが、突然バッターの視界から消えた。翔一の球が、バッターの手前で急に落ちたのだ。


 「―――急降下するスプリットだよ。まあ、それは名ばかりで、ほぼストレートと球威、球速、回転が変わらないまま落ちる球。翔一のオリジナル変化球と言っても問題ないくらいに、イカレてる変化球です」

 「な、なんだそれ!そんなの打てるわけ―――」

 「打てないんですよ。実際、翔一が全国で何回ノーヒットノーランをやったか。それが『大魔導士』と言われる所以ですよ」


 そして、その言葉の通り、4番バッターは、ストレートだと思い、バットが空を切った。


 「ストライッ!バッターアウト!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「すごい!すごくカッコいいぞ!」


 私は、翔一が試合に出てから興奮しっぱなしだった。

 翔一が出た回は、4番を見事に三振で抑え、その後も後続の二者も三振に抑えて、金剛先輩の失点後、一切の得点を相手に許さなかった。


 「玲羅、よく見ておきなさい。あれが、あなたの恋人の本来の姿よ」

 「本来の……」

 「そう、あいつは家の家訓も何もかも無視して野球をするくらいの野球馬鹿だったのよ。だから、あなたが―――いや、あなただけでも本気で翔一を応援してあげなさい。ほら、周りの現実を見ることのできない卑しい豚共とは違うところを見せなさいよ」


 周りを見ると、観客の男子は、翔一の登場に興奮冷めやらぬ状況ではあるが、女子の大半がそうではなかった。おそらく、金剛先輩の姿を見るために来ているのだ。翔一の登場は面白くないのだろう。


 だが、私にとってはそんなことはどうでもいい。愛する人が誰よりも輝かしいところで頑張っている。それだけで、胸の高鳴りが止まらない。


 翔一のことを想いながら、試合を見ていると、見たことのある人がバッターボックスに立った。


 「この回の先頭は雄二よ」

 「あ、翔一の特訓相手の」

 「違うわよ。雄二の特訓相手が椎名。あいつなら打てるわ。なんせ、毎日すごい球を受け続けたんですもの。目が慣れてるはずだわ」

 「一色……」


 双葉を心の底から応援しているであろう一色は、バッターボックスに立つ彼を見つめていた。心なしか、頬が紅潮しているようにも見える。


 ただ、恋する乙女のいで立ちだった。


 そんな期待に応えるように、双葉は相手のピッチャーのストレートを捉え、飛んでいった球はレフト線を破り、二塁打となった。

 一気に、流れを掴みたいところで、4番金剛と代わった翔一が出てきた。


 観客席は皆口々に「帰れ!」だとか「引っ込め!」「金剛先輩を出せ!」などと、心無い言葉を浴びせている。男子の方はというと、そんな声に嫌な顔をしながらも、翔一の結果を期待しているような目線を送っていた。

 つまり、翔一には応援の言葉がかけられていない。なら、私がやる!恋人を応援するのは当たり前のことだ!


 すう~


 「頑張れー!しょういちー!」


 私のその声は、自分でも驚くくらいに周りに大きく響いた。だが、そのおかげで翔一に届いた。

 翔一は、バッターボックスに入る前に、こちらを見て、笑顔で手を振ってくれた。


 そして、その打席の初球。

 球場に快音が響き、希静の―――いや、私の恋人たちの反撃が始まった。






あとがき

感想そのものを否定するわけでもないし、応援コメントをくれること自体嬉しいのですが、作者はこれでも野球をやっていた身です。野球連盟がいることも知ってますし、訴えればそこが動くことも重々承知しています。

ただ、作品の中でキャラたちがそこに訴えるのは、物語としての面白さを損なってしまうと思います。なので、話の整合性が取れないとかの指摘は真摯に受け止めますが、「現実ではこうなんだよ、だからこうすればいい。」みたいな指摘をされると困ってしまいます。

それを込みで、物語を楽しんでくれる方に書いてるつもりですので、ご了承ください

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