第48話 猫耳寝癖

 昨日は―――まあ、いつも通りというかなんというか

 いい意味でいつも通りだったな。


 昨日の夜は、2人で抱きしめ合って寝た。なんかいつもは違うみたいな感じだが、一緒に寝るときはこんな感じだ。

 いつも玲羅の方から抱き着いてくる。今はまだ4月。肌寒い季節なので、人肌に触れるのは心地よい。


 夏はどうなるのだろうか?寝汗とか色々気になって、気軽に抱き着けない。


 「んぅ……」

 「玲羅、おはよう」

 「んあ?しょういち……おはよ」

 「ほら寝癖できてるぞ」

 「うーん……治してえ……」


 やはり起きたばかりの玲羅は格段に可愛い。今日の朝食は結乃の当番だ。だから、朝から玲羅の寝顔を眺めることができる。

 と、言っても、着替えとかもあるので、ほどほどにして体を起こした。


 寝室のある二階から、俺は階段を下りてリビングに向かう。

 その奥にあるキッチンでは結乃が朝食の準備をしていた。


 「結乃―、温めたタオルない?」

 「あるよー、玲羅先輩?」

 「そう、すごいことになってる」

 「どんなかんじ?」

 「猫耳生えてる」

 「なにそれみたい」

 「写真撮ってくる」


 俺は結乃からタオルを受け取ると、すぐに寝室に戻った。

 寝室に戻って扉を開けると、まだ玲羅がうとうとしていた。とりあえず、結乃に寝癖を見せるために写真を撮って結乃に送る。

 写真を撮った瞬間、玲羅が「んぁ?」と子供っぽい声を上げたのがなんともかわいらしかった。


 そんな彼女を起こすために、渡されたタオルを熱くて驚かないように、優しく顔に当ててあげる。


 「目覚めた?」

 「ああ……今日も寝癖がひどいな……もしかして、翔一がいじってるのか?」

 「いや、俺なんもしてないよ」

 「そうだな、翔一はいつも私より先に寝ちゃうからな」

 「そうだ、潔白だ」

 「でも、一回抱きしめながら寝ると、なにしても放してくれないけどな」


 まじ?

 え、俺って抱きしめたら絶対に放さないの?てか、玲羅は苦しくないの?


 俺は色々心配で、どう声をかければいいのか悩む。普段みたいにおちゃらければいいのか、真面目に謝るべきか。


 「そんなに気に病むな。私も抱かれている瞬間が、キスをする瞬間よりも暖かい。もちろん、キスも翔一を感じられるからやめないでほしいな」

 「まあ、やめるつもりはないから、言われずもがなって感じだけど」

 「私は幸せ者だ。そうだ、翔一、朝のキスがまだだぞ」

 「……了解しました、お嬢様」

 「ふふ、くるしゅうないぞ」


 俺は、玲羅に近づくと、その綺麗な色をした唇を奪った。同意を得ているから、貰ったのほうが正しいのかな?

 俺の唇が玲羅に触れると、彼女は迷わず俺の頭をホールドしてきた。最近は、彼女のほうが強く俺を求めてくる。俺もそれにこたえるように、激しいキスをする。


 部屋の中に、くちゅくちゅと瑞っぽい音が響き渡る。

 おおよそ、朝にするものではないキスをした俺たちは、その後は結乃の作った朝食を食べて、学校に登校した。


 学校に登校してからは、玲羅は人気者で、女子にも男子にも言い寄られている。


 俺?玲羅の影に若干隠れてる。


 まあ、それでも美織が寄ってくるから、あまり一人にはなっていない。

 というか、玲羅のもとに人が集まりすぎなだけだ。今は、中学時代と違って、玲羅の美貌に嫉妬する女子は少ない。少ないだけでいるが……

 前の、誰だったっけか?あいつよりは行動力はなさそうだ。


 あんなキチ女が何人もいても困るけどな。


 「あなたの彼女、大人気ね」

 「嫌われてるよりマシじゃね?」

 「不安にとかならないの?」

 「は?」


 不安?玲羅が取られると思わないのか、ってことか?


 「それはないな。玲羅も、俺が言うとそう仕向けたように聞こえるが、俺に依存してる」

 「依存相手は誰だっていいのよ」

 「彼女はたぶんだけど、そういうのじゃない。もともと気難しい性格でもあるし、簡単には落ちないさ。それに、毎日俺が愛を体に教え込んでるから」

 「調教?」


 美織の発言に、近くで本を読んでいた男子がカタンと本を落とした。俺は、その本を拾ってやり、渡す。その時、俺の顔を見た男子が顔を赤くしたが、「ありがとう」と言って、読書に戻っていった。


 「お前みたいに脳内ピンク……いや、脳内AVじゃないんだ。せいぜいキスどまりだ。そもそも、俺は玲羅の嫌がることは絶対にしない」

 「本当に清々しいほどいい男やってるわね。本当に私のものにならない?超贅沢な暮らしをさせてあげるし、今ならあなたの言いなりになる私というエロ女がついてくるわよ」

 「自覚あるならその性格なんとかしろよ」

 「嫌よ。この性格に誇りを持ってるんだから」

 「どんな誇りだよ」

 「逆にどんなだと思う?」

 「さあね!知らないね!」


 見ろよ、さっきの男子が顔を真っ赤にしてるぞ。お前が猥談ばっかするから。


 ふと、玲羅の方に目をやると、こちらを不安そうに眺めていた。そんな感じで放心してるものだから、周りの生徒に「天羽さん?」と心配されていた。


 俺は、スマホで『昼休み、昇降口に来て』と送った。


 そして、そのまま時が経って、昼休みになった。

 中学の時もだったが、知っている話をわざわざ解説されるのも中々苦痛ではあるな。


 そんな苦行の時間(授業)も午前が終わり昼食のための時間だ。大半の生徒は購買か食堂に行っている。


 だからかはわからないが、外で弁当を食べる人が多くない。

 そんなことを考えていると、玲羅がやってきた。


 「待たせてすまない。なぜか、みんなに『食堂に行かないか?』って誘われて」

 「はは、玲羅は人気者だな」

 「……私は、翔一にさえ好かれていればそれでいい……」

 「ふえ?」

 「ほ、ほらどこで弁当を食べるんだ?私はもう楽しみすぎてお腹が空いたぞ!」


 とてもうれしいことを言ってくれていた。幸せすぎて溶けてしまいそうだ。


 俺は玲羅の手を取って、昨日のうちに見つけたスポットに案内した。

 美織の収集した情報なら、ここはあんまり人が集まらないらしいからな。


 着いたのは、本校舎から少し歩いたところにあるベンチ。2人でゆっくり過ごすにはうってつけの場所だ。


 俺たちはそのベンチに腰を下ろす。


 「ここは?」

 「2人でゆっくりする場所」

 「……そうだな。あまり人がいないから、気にする必要もなさそうだな」


 そう言うと玲羅は俺の膝に寝ころんできた。寝ころんだところに玲羅は追い打ちで、俺の膝をさわさわしてくる。


 「玲羅?」

 「このままでいさせてくれ……こうやって翔一を感じさせてくれ……」

 「わかった。気の済むまでいいよ」


 俺の愛した女の子は今日も可愛い。いつもは人にカッコいい姿を見せるくせにこういうところは本当に大好きだ。

 もちろん凛としているときも好きだけどな。やっぱり、赤面しているときの顔が一番萌える。


 俺は玲羅の頬を優しく撫でてやる。


 「んぅ……翔一は手つきがえっちだ」

 「そうか?普通にしてるつもりなんだけど?」

 「ふふ、もっとして」

 「はいはい……」


 撫でられる玲羅は目を細めていて、とても気持ちよさそうだ。それより、手つきがエロいか……

 自覚がないな。まあ、玲羅にしかやらないから、彼女がそう思ったらそうとしか言えないが……


 そして、玲羅は撫でられながらもぞもぞと動いて、仰向けになり俺と顔が向かい合うように寝ころんだ。


 「しょういち……」

 「なんだ?甘えるような声を出して」

 「ちゅーして」

 「ここで?」

 「そうだ。あと、甘えるような声じゃない。甘えてるんだ」

 「わかりました。ちゅーでいいんですね?」

 「そうだ。くるしゅうないぞ」

 「流行ってんの?」

 「私の中では流行中だ」


 そんな会話をしながらも、俺は玲羅の唇に近づいていき、今朝とは違う優しいキスを落とした。


 「ちゅ……」

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