第44話 アーカーシャの完成

 HRの終了後、俺たちは入学式に出た。

 入学式といっても、校長がなにかを話して終わりだ。まあほかにもいろいろあるのだが、2時間も集中しているわけがないだろう?


 というか、美織のことが気がかりでほかに集中できん。


 癪だが、俺の頭の中は玲羅7割、美織3割の状態だった。ただそんな思考状態だったおかげか、いつの間にか入学生が退場する時間になっていた。


 俺は慌ててほかの生徒たちについていき、教室に戻った。


 入学生はそこで今日の学校での生活は終わり。帰りのHRにて先生が、このあと問題を起こすなよ、めんどくさいからとか言って、笑いを取っていた。

 教師としては最悪なこと言ってたぞ。


 HRも終わったということで、一緒に帰ろうと玲羅が俺のもとに来ようとする。


 「翔一、一緒に帰ろ……」

 「天羽さん!みんなで昼食食べに行かない?」

 「そうそう、俺たち天羽さんに聞きたいこといっぱいあるから!」


 しかし、玲羅のもとに大量の男子生徒が群がり始める。

 うむ……予想はしていたが、大変なことになっているな。よし、ここは俺が玲羅の彼氏だってところを―――


 「翔一、ちょっとこっち来なさい」

 「は!?なんだよ急に!美織、離せ!」

 「いいから。早く!」

 「……はあ、わかったよ」


 俺は、美織に首根っこを掴まれて連行された。玲羅にあらぬ誤解をされなければいいけど。


 そうして美織に連れてこられたのは、本校舎の裏手。日の当たりも悪く、普段から人が通ってなさそうだ。

 まあ、なにか人に聞かれたらまずいことなのだろう。


 「改めて、久しぶりね翔一」

 「ああ、そうだな」

 「綾乃のことは残念に思ってるわ」

 「もういいんだよ。これ以上、綾乃のことについていうのはやめよう。あいつもゆっくり眠りたいだろ」

 「そうね。あんなことがあったんだもの。私も正気でいられる自信はないわ」

 「お前がそう言うなら相当だよ。でも、それだけのことだったし、気付けなかった俺も俺だ」


 昔の話をすると空気が重くなる。だが、触れずにはいられない。俺の婚約者で美織の親友だった綾乃が自殺してから半年。俺には玲羅がいるが、彼女には誰もいない。こいつも家に殺されているような人間だからな。


 「心の拠り所、見つけたみたいね」

 「そうだな。もう俺は大丈夫だ」

 「どうして?」

 「は?」

 「どうして私じゃないの?」


 美織はそう言って悲しそうな声を出す。

 こいつは昔、俺に婚約を申し込んできている。だから俺を好きなのも知っている。だが、お前じゃダメなんだ。美織がいいやつなのも知ってるし、昔からの悪友でもあるお前が彼女だったら、なんでも乗り越えられる気はする。だけどな……


 「ダメなんだ。美織みたいな、世間一般の非日常を生きる人間じゃなくて、普通の幸せを享受できる日常が欲しいんだ」

 「わかってはいたけど、あなたに2回もフラれるとは……

 ま、この恋はもうあきらめるわ。今のあなたの恋人、めちゃくちゃいい子そうだし。でも、体が目的なら私でも似たようなプロポーションしてるわよ?」


 そう言って、セクシーポーズをする美織。

 こいつは昔からこういうところがある。女のくせになぜか男物のAV見て、「へー、エロイわね」とか言ってる奴だ。逆に女もののAVだと「ヌけないわ!」とかほざき始める始末だ。

 こいつは自分の体のことを理解してこういうことをしてくるから、厄介なんだ。結乃がこいつの影響をもろに受けたし……


 「そういうのじゃねえ。俺が玲羅に求めてるのは―――」

 「それはそうとね」

 「ぶっ飛ばすぞ、てめえ」

 「アーカーシャが開発されたわ」

 「まじか……俺がいなくなった瞬間に動き出したのか?」

 「そうね。あなたという呪縛がいなくなった以上は動くわ」


 こいつ、しれっと人のこと呪い呼ばわりしやがった。

 だが、アーカーシャができたのか。


 「まあ、世間に公表されるのは早くても300年後とかでしょ?」

 「まあそうだな。人類にとってはあまりにもオーバーテクノロジーだからな」

 「出そうとしても私の家が止めるわ。ま、それがなくても椎名家は公開するほどアホの集団ではないからね」

 「そうだな。その点に関しては信じていいんだよなあ」

 「それはそうと、そこに隠れてる人出てきなさい」


 美織がそう言うと、背後からガサガサと音がして、人影が出てきた。


 「し、翔一……」

 「玲羅!?いつからそこに!?」

 「条華院がセクシーポーズを取ってたあたりから……翔一は、ああいうのが好きなのか?」

 「いや、別にお「そうよ。翔一はエロい女が好きなのよ!」……おい、馬鹿なことを言うな!」


 美織の言葉を聞いた玲羅は、頬を赤くしたものの、一考して答える。


 「わ、わかった。今は無理だが、頑張るから」

 「―――っ!?」

 「へぇ……この女やるわね。あの翔一を照れさせるなんて」

 「……?翔一はいつもこうだぞ?」

 「へ?ああ、あなたと出会ったから感情が豊かになったのね。私の前じゃ、能面と怒りの表情しか見せなかった癖に……悔しいわね」

 「なにを言ってるんだお前は」


 というか、誤解を解けよ。俺が玲羅に体を求めてるクズみたいじゃん。

 そう考え、俺は弁明してみる。


 「玲羅、別に無理しなくていいぞ。俺はそんなエロいことばっか考えてるわけじゃないからな?」

 「い、いいんだ。翔一、隠さなくて……男の子なんだろう?そういうことに興味あるのは……」

 「美織……」

 「あははは!この子面白い!あのね、翔一は別にエロは求めてないわよ」

 「え?」

 「その言い方だと、俺が枯れてるみたいじゃないか?」

 「うっさいわね。いい?翔一が求めてるのは、息ができなくなるほどの溺れるような愛よ。それができるのは現状あなただけ。私が、なたにそれができないと判断したら、翔一を寝取って、ガラス張りの向こうでヤりまくってやるから」


 なんだよ、そのNTRの最高峰みたいなシチュは……

 まあなんだ、気にするな玲羅。俺は玲羅以外に見向きもしないから


 そう思い、玲羅に声をかけようとするが、予想に反して玲羅は決意に満ちた目をしていた。

 なんでー?


 「無論、翔一を不幸になんてさせないし、幸せにしてみせる。見ていろ、お前なんか入るスキがないくらいに翔一のことをグチャグチャにしてやるからな!」

 「へえ?言うじゃない。グチャグチャにされたいくせに」

 「なあ!?」

 「あなたそういう動画ばっかり見てるじゃない」

 「な、なんで知って……」

 「玲羅、そいつの得意なことはプログラミングとかだけじゃない。―――ハッキングもだ」

 「犯罪者じゃないか!」


 入学式の日、玲羅によき友ができた。

 なお、とんでもない変態の模様。 

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