第30話 発見!ヤンデレ

 ニュースを見た後は、適当に風呂に入って部屋に戻ってきた。

 戻ってきた部屋には、班員のメンバーがいたが、その場には豊西の姿が見当たらなかった。


 「あれ?豊西は?」

 「女子の部屋に遊びに行った」

 「そうか。じゃあ、俺も行ってくるわ」

 「はあ?お前も女子の部屋か?」

 「そうだけど?」

 「クソッ、なんでお前たちだけ!」

 「ならもっと悔しそうにしろよ。なんでにやにやしてんだ」


 蔵敷は原因は知らないが、なぜかほかの男子に比べて女子に対する興味が薄い。天性で興味がないのならそれまでなのだが、なにか違う気がする。まあ、ただの勘だけど。

 まあ俺の干渉する問題でもないか。あいつが将来幸せならそれでいい。


 ―――にしても、にやにやしてるのはムカつくな。


 「どうせお前は天羽さんとイチャイチャしに行くんだろ?」

 「うーん、否定はしないが、シンプルに遊ぶだけだ。ボードゲームしようって話をしてたから」

 「そうか。なら楽しんで来いよ」

 「お前は俺のなんなんだ」

 「たちの悪い親友だよ」

 「……そうか」


 こうして俺は、蔵敷と別れて玲羅たちの部屋へと向かっていった。


 その途中、玲羅たちの部屋の階の廊下にて、会いたくない人物と遭遇してしまった。


 「おや?君は椎名君か?」

 「げ、早乙女……」

 「げ、とはなんだ。まるで会いたくないみたいじゃないか」

 「そのままの通りだよ」

 「……?まあいい。どこにいくつもりだ?」

 「遊びに行くんだけど?ホテル内の移動なら特に制限されてないけど?」

 「だとしてもだ。ここは女子部屋の階だ。男子が入っていい場所じゃない」

 「それはお前の理論だ。ルールじゃない」


 ちっ、めんどくせえ。こいつと会いたくないのは、こういう会話がだるいからだ。

 笑っちゃうよね。言ってることは正しいけど、印象が最悪だ。


 「同じ部屋に男女を同衾するなど言語道断だ。早く自分の部屋に戻りたまえ」

 「それはお前の決めることじゃない。それに、お前は俺のなんだ?無関係なやつに口出しされるほど、俺の人生は安くない。消え失せろ」

 「……っ、それを言われると弱い。だが、常識は常識だ」

 「それは自己満足。常識じゃない。早くそこをどけ、でないと―――」

 「でないと?脅しのつもりか?」


 脅し―――それもいいな。こういうタイプは力で制圧したほうがいいのかもしれない。できることなら円滑な学園生活のために、誰かを傷つけることはしたくなかったが……


 俺は、一瞬で早乙女の懐に入り、首を鷲掴みにしてフルスイングで壁に叩きつけた。

 叩きつけられた早乙女は、壁にぶつかった瞬間「ぐえ……」と呻き声を出した。苦しそうにしている。


 「苦しいか?これ以上やられたくないのなら、それ以上その偽善を俺に向けるな」

 「う……うぇ……わ、わかった……」


 同意が得られた俺は、早乙女の首から手を放す。その場に座り込んだ彼女は、「ケホッ、ケホッ」とせき込みながら涙目になっている。


 「このことを他言したらどうなるか……わかるよな?」

 「は、はい……」

 「わかったか?これが脅しだ。もう、偽善で俺に関わるなよ」

 「わ、わかりました……」


 それから、俺は早乙女を放置して玲羅たちの部屋に向かっていった。


 到着してから部屋の扉をノックすると、なぜか猫耳カチューシャを付けた玲羅が出てきた。は?


 「お、おかえりだにゃ」

 「……!?」

 「に、にゃー」


 ドサッ


 「し、翔一!?」

 「わー、しいなくんがたおれたー」

 「な、なんだその棒読みは!ど、どうしよう……」

 「ほら慌てないの。ほら、椎名君運ぶためにあちこち触っちゃうよー」

 「だ、ダメだ!し、翔一にさわっちゃ……」

 「あはは、天羽さん束縛強いねー」

 「う、うるさい!」


 しばらくして、俺は目を覚ました。

 なにが起こった?玲羅が凄まじく可愛かったのは覚えてるのだが……クソッ、ショックでなにがあったのか覚えてねえ!


 「……」

 「し、翔一……?」

 「ん?ああ、もう大丈夫だ。ごめんな玲羅」

 「あ、ああ―――っ!?」


 ベッドの上で起きた俺は、何気なく横にいた玲羅の頭を撫でた。すると、ものすごい勢いで顔が真っ赤になっていき―――どうした?


 「し、翔一……場所を考えてくれ」

 「え?―――あ」


 玲羅に言われて、周りを見渡してみると、そこには恋に恋する乙女たちが、俺たちのことを生温い目で見つめてきていた。


 「はっず……いつもの癖で撫でちったわ」

 「ちょ、翔一!」

 「みんな聞いた?天羽さん、いつも頭撫でてもらってるんだって!」

 「い、いつもじゃない!」

 「じゃあ、どういうときかなー?」


 玲羅が余計なことを言ったせいで、彼女は班員たちに尋問を受ける羽目になった。え?俺のせい?いやいや、なに言ってるのさ。


 「そうかそうか、ご褒美に撫でてもらってるのか……」

 「ち、違う!頼んだら翔一はいつでもしてくれる!」

 「へー、頼むんだー」

 「く、クソ……どうして余計なことを言ってしまうんだ……」

 「それは天羽さんが、幸せで幸せで仕方ないから、潜在的に自慢したいと思ってるからだよ!ほら、もっと言っちゃいな!口ではああ言っても、体は正直だよー」

 「な、なんだその口上は……そ、それにだ」

 「それに?」

 「私と翔一は毎朝キスしてる!だからそれくらい、翔一にとっても私にとってもなんでもないことなんだ!」


 あ、言っちゃった。

 あながち、奏の理論もあってるのかもな。本当に玲羅は俺との関係を自慢したいほど幸せなのかな?


 だが、キス宣言は自爆だぞ、玲羅。


 「へー、毎朝。てことは、ぷるぷるの唇はもう椎名君のものなのかー」

 「~~~っ!?なんで言ったなんで言ったなんで言った!私のバカ」

 「玲羅、別にいいじゃん。今、不幸?」

 「翔一……そんなことはないが……」

 「じゃあ、いいんじゃない?ここにいるのは玲羅の友達でしょ?もっと惚気ちゃえば?俺も聞いてて嬉しいから」

 「……」


 俺の言葉に玲羅は少し俯いて考える。多分、ものすごく悩んでるんだろうな。ものすごく自慢したい自分と、恥ずかしい自分が戦いあってる。

 だが、自分の中でどうしたいのか決まったのか、玲羅は蕩けきった表情でしゃべり始めた。


 「翔一は、私の好きなこと、してほしいこと全部理解してくれる。落ち込んでても、辛くても、翔一が抱きしめてくれるから、頑張ろうって思えたし、毎朝キスしてくれるからいつも幸せな気分だ。は~、幸せだな。翔一が隣にいてくれるだけで……心があったかくなる。翔一のおかげだ。翔一が私を救ってくれなかったら……そう思うと怖いな。だから、今度は翔一の心の傷を治したい。もっとお前も私に甘えてくれよ……」

 「ねえ、なんか天羽さんの様子おかしくない?」

 「うーん、なんかヤンデレっぽい表情になってない……かな?」

 「だよね、八重っち。もしかして天羽さんってマジの重い人?あは、いいね!天羽さんのヤンデレ属性!」


 なんか他人事のように言ってるが、ヤンデレ属性って……玲羅も持っていたのか。まあ、そこも魅力だ。俺が重くないと聞かれたら否定できないからな。


 もしかしたら、俺たちは一生離れない運命なのかもな。





 ―――愛してるよ、玲羅

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る