第31話 ボードゲームそして乱入

 「というわけで人生ゲームしよー!」

 「「「どういうわけ?」」」

 「まあまあ、私たちの修学旅行は中止になっちゃったけど、まだまだお楽しみは終わってないってこと。さあ、振り切るわよ!」

 「いや、なにを?」


 突如始まった人生ゲーム。ルールは簡単!一回4人で戦いあい、ゴール時点で一番金額の多い者が一番少なかった者に、一つだけ命令できる!これはなにがなんでも勝ちたいところだ。ちなみに、スタート時点での持ち金は100万だ!


 最初の勝負は、天羽、椎名、八重、奏の4人。こうして、戦いの火ぶたは叩き斬って落とされた!


 ルーレットを回す順番はじゃんけんで決めた。その結果、1番八重、2番椎名、3番奏、4番天羽の順番になった。まあ、ぶっちゃけた話、ここの順番は勝敗に関係ない!勝負は、どれだけの運を手繰り寄せられるかだ。


 「最初は、私……えっと、10だ」


 そう言うと、八重はコマを10マス進める。

 止まったマスはイベントマスだ。


 「えーと、八重っちのマスは……超有名企業に就職!しかも出世街道まっしぐら!100万円手に入れる」

 「お、八重の出だしはいいな。じゃあ、俺も―――7か」


 そうして止まったマスは、俺のもイベントマスだ。


 「んーと、恋人に浮気がバレて刀傷沙汰に!入院費で10万失う―――え!?いきなり!?」

 「ぷっ、椎名君浮気してやんのー。天羽さんに刺されちゃったよ」

 「わ、私は翔一と付き合ってるわけじゃないぞ!」

 「あはは!私の番だね。―――はあああ!?私も7なんだけど!」

 「はい!乙ぅ!ざまあみろ!」

 「はあ!?あんた、喧嘩よ!天羽さんの彼氏なんて関係ないわ!」

 「おお、やってやろうじゃねえか!」

 「喧嘩しないでよ……」


 喧嘩を始めた俺と奏をよそに、玲羅がルーレットを回し始めた。止まった数字は3。一番進めていないが、人生ゲームはぶっちゃけ小さい数字で沼ったほうが、稼げる可能性が高い。

 そして、マスに書かれていた内容とは……


 「付き合ってた彼氏が浮気。ショックで就職に失敗する。ニートルートへ……」

 「「「……」」」


 なにそのマス?めった打ちじゃん。

 ていうか、恋人が浮気って……


 そう考えると、玲羅も同じことを考えたのか、こちらを見てくる。まるで、玲羅が俺に「浮気なんてしないよな?」と、訴えてきているみたいだ。


 この微妙な空気を抜け出すために、八重が咳払いをしつつルーレットを回す。


 「えーと、10。1、2、3、……9、10。素敵な上司と運命的な出会いを果たす。その人に好かれるために仕事により精を出した。200万手に入れる」

 「なんか出世街道もそうだけど、1マスで手に入れる金額多くね?」

 「八重っち、リッチー!ねえねえ奢ってよ」

 「だからなにを!」

 「次、椎名さんだよ……」


 俺のターン!ルーレットを回すて出た数字は……8!

 マス目は……ねずみ講被害に遭う。持ち金を失い、借金400万ができた。


 「はあああ!?なにこのマス!ボコボコだよ!」

 「あははははははは!お腹痛い!椎名君、散々な人生送ってんじゃん!ていうか、まだ序盤も序盤だよ!」

 「うるせえ、今度はお前だろ」

 「はいはい、6ね。―――家が爆発。その中にあった金庫も消失。もう借金をしないと生活できない。持ち金をすべて失い借金1600万…………キエエエエエエ!」

 「うわっ!?落ち着け!」


 俺よりもひどいマスに止まった奏は、奇声を上げながらボードを破壊しようとし始めた。慌てた俺たちは、奏を羽交い絞めにして取り押さえて、玲羅にルーレットを回させた。


 「んーと、FXに手を出したら成功した。資産100,000,000円を手にして、社会人ルートに滑り込む」

 「お、いらっしゃい社会人ルートへ」

 「なんだろう、恋人に浮気されたせいか、複雑な気分だ」

 「なんで俺を見るのさ。俺は玲羅以外に異性として見ることはないから安心しろ」

 「そ、そうか……」

 「はあ!?じゃあ、あたしは椎名君になんて見られてたの?」

 「面白いやつ」

 「クソ、微妙に文句言いづれえ!」


 これは本心だ。奏は面白いやつだと思ってるし、八重のことも真面目っ子だと思ってる。でも、2人とも大事な友人だ。困っていたら必ず助けに行く。


 それからというもの、俺と奏は詐欺に騙されたり、スロットで一発逆転狙ってるようなギャンブル人生を送り、八重は堅実にエリート街道を走り続け、結婚し子供出来た。


 玲羅はというと、資産は膨れ上がっていくのだが、いかんせん恋人に恵まれなかった。どいつもこいつも浮気しやがる。玲羅のなにがいけないというのだ。

 しかも、玲羅は浮気マスに止まると、俺の方を不安そうな目で見てくる。本当にそれが愛らしくて可愛い。


 そして、ゲームは終盤。もう少しでゴールというところだ。

 現在順位はこんな感じだ。


 1位 玲羅 870,453,780円

 2位 奏 70,884,090円 ギャンブルに全額賭け中

 3位 八重 58,935,400円

 4位 椎名 7,000,000円 ギャンブルに全賭け中


 ギャンブルの最高倍率は10倍。よって、玲羅の1位は確実だ。

 だが、下の3人はわからない。いい勝負をしている。というか、マス目で浮気されまくった玲羅は不憫すぎて、誰も彼女を追い抜こうと思えない。


 だって俺ら、玲羅に結婚祝いのお金渡してないもん。


 そして、最初にゴールしたのは玲羅。さらに500万ゲットだ。


 「なんて悲しい人生なんだろうか……」

 「大丈夫だよ玲羅。俺がそんなことさせないから」

 「そ、それって……」

 「あ、私もゴールした。後は奏さんと椎名さんだね」


 玲羅がなにかを言おうとしてたが、八重がゴールしたという報告にかき消されてしまった。


 こうなると、あとは俺と奏の一騎打ちだ。そして、俺もゴールし、ギャンブルの結果を出すためのルーレットの時間になった。

 恐ろしいことに、6から10のマスは表記通りの倍率なのだが、1から5は倍率ゼロ。つまり、俺と奏は全額賭けているので、1から5を出した瞬間にゲームオーバーだ。


 「よし、あとはルーレットだ」

 「お願い!0倍!全額すれ!終わってしまえ!」

 「なんつうこと言うんだよ!」


 カラカラカラカラカラカラカラカラ


 ルーレットの立てる音が次第に遅くなっていき、ついに止まったマスは―――10!


 「しゃあっ!10来た!奏はドボンだから逆転じゃボケエ!」

 「はあ!?誰が5以下出すって決めた!あたしが6以上出せば勝ちなんだよ!」


 キレながらもルーレットを回す奏。そして止まったマスは―――4!


 「ぎゃああああああ!このクソゲーがよお!」

 「だから落ち着けって!」


 ゲームは最後に奏が持ち金0になって終了した。クッソワロタ。


 「はい!罰ゲーム!罰ゲーム!」

 「クッソオオ!ほら、天羽さん命令して!」

 「え、ええ……それじゃあ……好きな人を暴露……」

 「なっ!?」

 「おお、王道だな」


 玲羅の考えた罰ゲームを聞いた奏は一気にしおらしくなってしまった。だが、負けたのは事実。腹をくくった奏は好きな人の名前を言った。


 「く、蔵敷君……」

 「え!?あいつ!?」

 「わ、悪かったわね!彼にナンパから助けてもらったのよ!」

 「で、惚れたと?」

 「~~~っ、バカッ、もうこれ以上は言わない!」


 それから、他の人がゲームをやっている間に奏から蔵敷のどんなところが好きかとかいろいろ聞きだした。

 それはそれは楽しかったよ。あの奏がものすごくしおらしいから、いじりがいがある。


 しかも、彼女は卒業式の日に告白しようとしているらしい。これは一つ、蔵敷に聞いてみるとするか。


 ―――!?


 「どうしたんだ翔一?」

 「いや、なにか来る」

 「なにか?」

 「尋常じゃない殺気だ。何人も殺したことがあるやつの気だ」

 「はあ!?なに言っちゃってるのよ!そんな奴、このホテルに来ないわよ。というか、ここって私たちの中学校しか宿泊してないのよ」


 そんな会話をしていると、ニュースのこんな報道が耳に入ってきた。


 『番組の途中ですが、速報をお伝えします。今日の昼頃逮捕された猪狩轟容疑者が留置場から脱走した模様です。女性警官が人質に取られ、現在も拳銃を所持して逃走中とのことです。



 ――――引き続いて、犯人の目撃情報があり、京都駅近くのホテルに潜伏している模様です。そのホテルは現在立ち入り規制の準備が始められています。しかし、現在東京都の中学校が修学旅行に来ており、対応が急がれています』


 ―――こんな時期に修学旅行をする学校など、うちしかない。つまり、今来ている気配の正体は……


 バタン!


 「動くな!全員、手を挙げてゆっくり伏せろ!」


 テレビで聞いていた通りの特徴をした猪狩轟が部屋にやってきた。

 いよいよ、面倒ごとになってしまった。

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