第27話 押し倒してキス

さきがき

 前回、玲羅の妄想回をやったら、なぜか最終回だと勘違いされるという珍事がありました。なんだろう、ちょっと笑っちゃったよね。

 高校生の部分も全然やるので、まだまだ続きます

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝から玲羅の様子がおかしい。

 起床してから何もしていないはずなのに、彼女の行動がおかしい。


 具体的に言えば、目が合うと顔を真っ赤にしてフイッと背けてしまうのだ。

 え?本当になにしたの?


 そのせいかどうかは定かではないが、今食べている朝食の味がいまいちわからない。


 「あー、椎名君野菜食べないとだめだよ!」

 「いいじゃんこういう時くらい。普段から野菜とか結構食ってるほうだし」

 「へー、椎名君は草食系じゃなくて、肉食系なんだ」

 「なんか意味変わらないか?その表現」

 「積極的なんだねー」

 「意味ちがうじゃねーか。……否定はしねえけど」


 玲羅はよそよそしいが、他のメンバーはいつも通りだ。だからといって、こいつらが原因とも思えない。


 ふと、視線を感じる。

 視線を感じたほうに目をやると、玲羅がこちらを見ていた。いや、正確には俺の前に並べられた料理の品々をうらやましそうに見ている。


 なにを見ているのかと思い、玲羅の視線を追ってみると、その先にはウインナーがあった。

 子供っぽいところもあるのな


 「ほら玲羅、あーん」

 「な、あ、あーん」


 本当にどうしたというのだ!?なんの抵抗もなく『あーん』を受け入れただと!?

 だが、これはこれでいい!


 そんな俺の思いとは裏腹に、玲羅はウインナーを飲み込むと、早々に食事を済ませて食堂を去っていった。

 ますますわからん。


 「俺なんかしたか?」

 「あれはただ照れてるだけだよ」

 「そうか?思いっきり避けられてたぞ」

 「原因はわからないけど、今日の朝、天羽さん急に飛び起きたのよ。あんな幸せな顔をしてたのにすごく焦ってた」

 「それが?」

 「多分、天羽さんは椎名君との結婚生活を夢に見たんだ!だから恥ずかしくて顔を合わせられないんだ!」

 「んー?妄想豊かな子だが、そんなにやばい想像をするほどなのか?」


 俺は奏の意見に懐疑的だったが、意外にもその予想が的中していることは、俺たちに知る由はない。


 俺たちはその後も、なぜ俺が避けられているのか談義を続けながら朝食をとっていた。

 結局、本当の理由は最後までわからなかったが……


 「ごちそうさま……」

 「本当に椎名君、行儀いいよね」

 「まあ、昔からの癖だよ」

 「行儀がいいのは、女子からのポイント高いよ」

 「うーん、興味ねえな。玲羅のポイントだけ上がればいいし」

 「ばかねー、天羽さんも女の子―――恋する乙女なのよ?自分の好きな人の行儀が悪かったら、一気に醒めちゃうよ」

 「それはそうだけどな。でも、個人の好みっていうのもあるから、色々玲羅だけに刺さるものっていうのがいっぱいあるんだよ」

 「さっすが!一流玲羅ソムリエ!」

 「二流誰だよ」


 奏たちは、まだ少し食事を続けるらしいので、俺は食堂を後にした。


 食堂を背に自分の部屋に戻っていると、自販機などがある休憩スペースのような空間にいる人物が目に入った。


 「なにしてんの、こんなとこで」

 「……っ、あ、ああ翔一か。少し考え事を―――というより、自分を落ち着かせていたんだ」

 「……?てか、もう大丈夫なのか?」

 「なにがだ?」

 「いや、さっきまで全然目を合わせてくれなかったから」

 「そ、それは……」


 俺と会話していた玲羅は、なにかを思い出したのか頬を赤くする。

 だが、割とすぐに冷静になり、俺の目を見てくる。


 「そのすまなかった。少し恥ずかしくて、つい……」

 「そうか。嫌われてないな「嫌ってなんかない!」……お、おう」


 俺の言葉にかぶせるように否定した彼女は、続けて「む、むしろ……」となにかを言いかけて言いよどむ。

 その後の言葉はとても聞きたいが、様子を見る感じ無理だろう。


 時計を見ると、時間は出発の集合時間の30分前を示している。そろそろ行かないと


 「じゃあ、玲羅。集合とかあるから部屋に戻るわ」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 準備のためにその場を立ち去ろうとすると玲羅に呼び止められ、歩みを止める。

 振り向くと、言うかどうか悩んでもじもじしている彼女の姿がある。だが、言う覚悟を決めたのか、彼女は真面目な顔で、言ってきた。


 「翔一、キスをしてくれ」

 「え?」

 「朝のキスがまだだ。ほら、誰かが来てしまうぞ」

 「あ、ああ、わかった」


 言われて俺は、玲羅のことを抱いて、ゆっくりと唇を近づける。

 玲羅も、俺からのキスを受け入れる姿勢を作っている。少し目じりがぴくぴくしているのが、キュートポイントだ。


 「ん……むぅ」


 キスをするとき、玲羅は少し瑞っぽい声を出す。それは中学生とは思えないほどに色っぽい。

 いつもより少しだけ長い時間口づけをしてから顔を離すと、玲羅は不意にキスをしてきた。


 「もっと……」

 「え、ちょ……」

 「んむ……んぅ……」


 先ほどのものとは違い、玲羅は非常に積極的で、俺が離そうとしてもさらに詰めてきて、玲羅のキスから逃げられない。

 これだけやっても舌までは入れてこないから、おそらく何かしらの線引きをしているのだろう。


 だが、玲羅はそのまま俺を押し倒して、ベンチの上に仰向けになりその上に玲羅が乗って、キスをしている構図になった。


 ねっとりと玲羅は長い時間、俺の唇を奪った後、すごい速さで離れて、走り去っていった。


 俺はというと、その場に取り残されてベンチの上で放心していた。

 まさか、玲羅に力が抜けるほどキスをされるだなんて思ってなかった。いや、すごく気持ちよかった……。またしてくれるのかな?


 あ、そうだ……。出発の準備をしないと……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翔一を襲うような形でキスをした玲羅は、廊下を走りながら涙目になっていた。


 (馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ!―――し、翔一を押し倒してしまった!それどころか、翔一は私から離れようとしてたのに!)


 思い返せば、なんどか翔一は玲羅から離れようとしていた。

 それは、翔一があまりキスをしすぎると、タガが外れてしまうのが理由だが、自己嫌悪状態に陥っている玲羅は、責めすぎて翔一に嫌われてしまったと思っている。


 昨日の夜に見た夢のせいで、自分がどれだけ翔一のことが好きか無意識に自覚してしまった玲羅は、少しだけの朝キスだけでは物足りないと考えるようになってしまったのだ。


 だが、彼女はそれを認識していない。ただ単に、もっと翔一とキスをしたい。もっと熱いキスがしたい。そんな思いがあっただけなのだ。


 「謝ろう。絶対に……」


 そして、告白の返事をする。修学旅行で玲羅のすることが増えたのだった。







 それにしても―――


 (翔一とのキス……気持ちいいなあ……)

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