第24話 正義の自己中
色々あった食事も、あれから特に目立った事件めいたものはなく終了した。
今、俺は自分が寝泊まりする部屋とは違う階にいる。
この階に玲羅たちの部屋―――があるのではなく、これから班長会議だ。
生徒はこれのせいで長時間拘束されれて、他の部屋に遊びに行くことがかなわない。
はあ、だりぃ
憂鬱な気分で部屋に向かう途中、ある女子生徒が目に入った。
その女生徒は、なにをするわけでもなく班長会議のある部屋の前で目を閉じていた。
俺が目の前を通ろうとすると、気配に気づいたのか彼女の目が開いた。
彼女の目が俺を捉えると、ガッと俺の腕を掴んできた。
「ちょっと話、いいだろうか?」
「別にいいけど、短くな」
「すまなかった!」
そう言って、勢いよく頭を下げる女生徒。
いや、謝る前に名前を名乗ってくれないか?困惑するばかりだ。
だが、俺の考えは一切届かずに彼女は勢いのまま言葉を並べる。
「本当にすまない!私の班員が見ていないうちにあんなことを!」
「もしかして、あのギャルのことか?」
「そうだ、そのギャルというのは小林というのだが……君の班員を傷つけてしまい申し訳ない。私がもっと班の統制をとれていれば……」
「そういう問題じゃねえと思うけどな」
「いや、私の監督責任だ!」
なんだろう。こいつ、性格がねじ曲がってるとかではないのだが、なんだろうかこの違和感は?なんだろう。こいつの主張は間違ってはいない。だが、致命的にかみ合わない。
俺は違和感の正体を掴めないために、できるだけその場の会話を終わらせようとする。
「まあ、そのことをとやかく言うのなら、謝る相手が違うとだけ言っておく」
「いいや、下の者の失敗は上にも責任がある。それは学生の班行動も同じだ。下が失敗したのなら、上が相手の上に取り持つものだ」
「はー……班長会議に遅れるから早く入れ」
「ま、待て!話を!」
「うるさい。俺に謝るな。天羽に謝れ」
そうして、ギャーギャーうるさい女生徒を無視して部屋に入っていった。
にしても、あのギャル小林っていうのか。―――特になんもねえな。興味ねえし
俺が入ったことによって、女生徒も入ってきて全員が揃ったのか、すぐに会議がはじめられた。
だが、会議とは形ばかりで、これからの時間の過ごし方明日の起床時間。明日のホテルの門限などの注意事項を先生が言って、俺たちは就寝までの準備がどの程度済んでいるかの報告をするのみだ。
しかし、そんななにもないはずの会議部屋に一人の生徒が駆け込んできた。
「はあ、はあ」
「なんだどうした?」
「田中がっ、田中が……土田の目にスプレーを!」
「なんだって!?」
飛び込んできた生徒の報告を聞いた先生は、その生徒に慌ててついていき、俺たち班長はその場に取り残されてしまった。
スプレー?季節的に虫よけはあり得ないし、ヘアワックスか?いや、これから寝るのに?ハゲるぞ。
スプレーがワックスだと断定するのは早いか。だが、なんのスプレーなのか気になるな。
「先生行っちゃった……」
「じゃあ、これからは私は仕切ろう!1班、就寝準備は!」
「へ?あ、ああ、まだ布団を引いた状態で、他の片づけるものなどが片付いてないです」
「じゃあ、早く片付けて。みんな10時には寝るのよ」
なぜおまえに指定される?
しおりでは最終就寝時間は11時だし、10時では会議が終わったらすぐに寝なければならない時間だ。それでは、夜の生徒たちの自由時間が無くなる。
「なあ、あいつ誰なんだ?」
「ん?ああ、そういえば椎名君は知らなかったね」
俺は、周囲を取り仕切る女生徒のことが知りたくなったので、玲羅の部屋班の班長である奏に話を聞いた。
「有名なのか?」
「有名ていうか、なんていうか……。あの人―――早乙女さんは正義感だけは一丁前で、ある意味目立ってるのよ。どれだけ理由があろうと、自分が合ってると思ってるものが絶対。言葉を選ばなければ、たちの悪い自己中」
「あー、そういうことか」
「なんかあったの?」
「ちょっとな」
たちのいい自己中ってあんま聞かないけどな。
だが、違和感の正体がわかった。言っていることは正しい。でも、人は守れないことがある。彼女はそれを許さない。だから、先ほどの会話も俺と主張がずれるんだ。俺の意見は彼女の意見ではないから。
だとするのなら、あまり会話をしたくない相手だ。だが、反面、扱いやすくもある。
「13班」
「ああ、就寝準備は済んでる。俺が戻る前にでもあいつら寝てるよ」
「ならいいわ。ほかの班も椎名君の班を見習うように」
嘘だろうがなんだろうが、彼女の望む状態なら言及してこない。こういうタイプは基本的に詰めが甘い。確認をとらないのだ。
そして、俺の後の報告が不自然に準備が終わった班ばかりでも。
彼女はそれを疑わない。彼女の望む状態なら、それで満足するから。
悪いな。俺はああいうタイプの人間を一人だけ知ってる。まあ、だとしてもあんなに他人に行動を強制するようなタイプの人間ではなかったがな。
ただ、自分の正義を信じるだけの面倒くささだけだった。
「16班は?」
「私たちはこれからスキンケアとかあるから、就寝は11時だわ」
「は?子供は10時に寝る当たり前よ?」
「どこの当たり前よ?女の子はね、お肌ケアしないと死んじゃうの。あんたみたいなガサツなやつと違って、私たちは肌荒れしたくないの!」
「なんですって!?だから早く寝ろって言ってるのがわからないの?」
「は!言ってろ。そもそも、しおりに最終就寝時間は11時って書かれてるから問題ねーんだよ!」
「もー、喧嘩すんなよ。悪いな早乙女。確認が終わったらすぐに寝る準備するように言いに行くから許してくれ」
「……わかった。必ず10時に寝なさいよ」
「はいはい」
早乙女は納得したのか、その場でのそれ以上の言及はなく、会議も先生がいないながらも終了を迎えた。会議の内容は、自分が伝えると早乙女が名乗り出たので、それ以外の者たちは全員解散した。
会議部屋を後にした俺は、まだ少しだけ期限の悪い奏をなだめていた。
「なんなのよ、あの女」
「まあまあ、ああいうタイプに怒りを向けるだけ無駄だよ。ほらスマイルスマイル」
「それを真顔で言う人初めて見たよ。そういうのって笑顔で言うもんでしょ」
「いいじゃん、そっちのほうが面白いでしょ?」
「ふふっ、まあね。それはそうと、うちらの部屋来る?」
「行っていいのか?」
「当たり前じゃない。私たち、椎名君と天羽さんのコンビ見るの好きなのよ」
「なら、もっと見せつけてやろうか?」
「はは、爆発しろ!」
こうして、俺は玲羅のいるホテルの部屋へと向かっていった。
ちなみに、寝る時間くらいにホテルの2階と3階に響くくらいの怒鳴り声が聞こええてくるのだが、俺たちには関係のない話だ。
あとがき
@yamachan12012さん、レビューコメントありがとうございます。
これからも更新を継続できるように頑張ります。楽しみにしてください!
たしかにもっと評価ほしいかも……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます