第25話 突撃!あすなろ抱き

 俺と奏は、班長会議を終えたその足で、奏が班長を務める部屋―――つまり、玲羅のいる部屋に入るのだ。


 「ねえねえ、ちょっと天羽さんを驚かせない?」

 「どういうことだ?」

 「私が天羽さんを誘導して、入り口側を見えないようにするから、なにかして」

 「なにかって?」

 「萌えがあればなんでもいいわ」

 「指示が雑だな」


 だが、その作戦。乗った。

 玲羅をいじり倒してやる!


 俺たちは玲羅を思いっきり驚かせると意気込んで、奏が先に部屋に入っていった。


 「や―みんな、押し付けられた班長が帰ってきたよ!」

 「もー、根に持ちすぎ!私たちだって早乙女さんと関わりたくないもん!まさか、行動班の方じゃなくて部屋班の班長になるのは予想外だったもん」

 「あんたたち、だとするなら行動班の班長やりなさいよ」

 「えー、八重っちがやってくれてるじゃん」

 「う、うん……任せて……」

 「わー八重っちがいい子だよー」

 「遥、おっさんみたい」


 それから奏は俺に言った通り、玲羅を誘導して、背を向けて座るように誘導した。その流れもかなり自然で疑われていないだろう。


 それにしても、玲羅に新しい友達ができて楽しそうだ。物語の中にいた彼女は、当たり前のように豊西と八重野しか友人がいなかった。だから、「新しい友人など必要ない」とか言う可能性も考えてはいたのだが、杞憂だったようだ。


 やはり、玲羅は年頃の女の子。同性の友達がいることに嫌悪感をおぼえないし、異性の俺とは違ったことを話せるから内心では友達ができたことをとても喜んでいるだろう。


 別に嫉妬心はない。玲羅は誰にも見せない表情を俺の前でよくしてくれる。だから、他の男と仲良くしてるのを見ない限りはめんどくさい嫉妬なんてしないと思う。


 「ねえねえ、天羽さんはさ、椎名君のことどう思ってるの?」

 「し、椎名か……あいつは今まで出会ってきた男の中で、一番めちゃくちゃだな」

 「めちゃくちゃ?」

 「あいつは勉強もできて、教えるのもうまい。洗濯、掃除、料理、すべてにおいての家事も完璧。妹との仲もよくて、冗談を言い合えるほど心を許し合ってる。そんなハイスペックなのに、あの容姿。あいつ、普通にイケメンだ。

 とにかく、椎名は見たことないほどに完璧なんだ。非の打ち所がない」

 「へー、でもそんなところが?」

 「好きだ……大好きだ……正直、私は恋愛経験が全くないと言ってもいいくらいに乏しい。それでも、私は椎名を―――翔一だけは、手放したくない」

 「でも、付き合ってないんでしょ?」

 「ああ、だから翔一の告白の返事は、修学旅行の最終日にするつもりだ」


 あ、ネタバレ食らっちゃった。どうしよう……


 今さらになって普通に奏と一緒に入ればよかったと後悔する俺。まあ、でも玲羅が返事を返してくれる。それを知れただけでもうれしい。

 俺からしたら2か月も放置プレイを食らっていたのだから。


 普通の男ならもう脈なしと切り捨ててもおかしくないような期間だ。俺がそれをしなかったのは、ほぼ同棲みたいなことをして、常に距離が近かったし、なにより俺は玲羅以外のことなんか特に眼中になかった。


 にしても、イケメンか……

 俺の顔って玲羅の好み?


 「ふーん……天羽さんがいなかったら、私が椎名君を狙ったのになー」

 「あ、あげないぞ!」

 「いらないわよ。私は他人の男なんていらないの。私は私を見てくれる人を探すから」


 そんな会話をする玲羅の後ろを、俺は静かに忍び寄る。


 角度的に玲羅から俺のことは見えないが、ほかのメンバーから見えている。

 メンバーたちは、俺のしようとしていることをうっすら察したのか、全員何もないかのようにしゃべっている。


 俺は、玲羅の背後に忍び寄り、手を伸ばせば押し倒せてしまうような距離まで近づいた。

 その間、玲羅が俺への好意を熱弁するものだから、恥ずかしくて仕方なかった。


 近づききった俺は、玲羅の背後から腕を回して、玲羅を抱く。いわゆる『あすなろ抱き』というやつだ。誰だ、死語とか言ったやつ。いいんだよ。やった瞬間が気持ち良ければ!


 「し、翔一!?」

 「……捕まえた」

 「はわわ!?」


 耳元でささやかれた玲羅は、変な声を出すが、絶対に俺から離れようとしない。それどころか、完全に俺に背を預けてきた。

 判断が早い!


 「玲羅が、あんなに俺のことを好きだなんて……知ってたけど、言葉にしてくれてうれしいよ」

 「な!?聞いてたのか!?ど、どこから……」

 「『一番めちゃくちゃ』のあたりから」

 「ぜ、全部じゃないか!~~~っ……恥ずかしい……死にたい……」

 「ダメだよ。玲羅は俺より先に死なせない。愛する女が目の前で死ぬなんて許さない。でも、愛する女を泣かせたくないから先に死なない。これがどういうことかわかるか?」

 「わ、わかるわけ……」

 「俺は玲羅を抱きしめながら一緒に死ぬ。玲羅が死ぬ時が俺の死ぬ時だ。あの世でも一生一緒だ」

 「はわわ……」


 玲羅はずっと耳を真っ赤にしたまま。当然っちゃあ当然だ。今までの言葉は俺が耳元で囁いた言葉だ。

 彼女は俺に、死ぬまで抱きしめるって耳元で言われたのだ。逆の立場なら、俺は正気を保てない。


 「2人とも、熱々だねー」

 「な!?熱々では……」

 「そうだな。俺たちはあっつあつだ」

 「変わんねー」

 「ねえねえ、天羽さん、その姿勢どう?しあわせ?」

 「し、幸せというか……ぽわぽわする……」

 「それを幸せっていうのさ」


 俺は、そうして奏と会話する玲羅の首筋を優しく撫で始める。

 それをされた玲羅は「ひゃあっ!?」と、声を上げるが嫌な顔など一つもせず、なされるがままになっていた。

 そうだ。今度、猫メイドコスさせてこれをやろう。可愛さ10000000倍マシだ。


 そんなことを考えながら、なにも考えずに撫で続けると、玲羅がうとうとし始める。

 あー、そういえばこれをしすぎると、玲羅って気持ち良すぎて眠くなっちゃうんだよね。


 「し、翔一……だめだ……そこは……汚いから……」

 「なんの夢を見てるんだ?」


 疑問は尽きないが、俺は玲羅をお姫様抱っこで抱え上げる。


 「きゃー、お姫様抱っこ!生で初めて見た!」

 「うるさいよ。一応、寝てるんだからな?」

 「あー、そうだった。ごめんね」

 「いや、起きてないからいいけどさ」

 「にしても、いいもの見た。お腹いっぱいだよ」


 奏と会話をしながら、玲羅を布団に寝かせた俺は掛け布団をかけて、玲羅の唇にキスをした。


 その瞬間、その場から小さく黄色い歓声が起こったのだが無視だ。


 「んふふ……しょういちぃ」





あとがき

まんち太郎さん、レビューコメントありがとうございます。

これからも翔一と玲羅の関係にご期待ください!



弥 眞木さん、レビューコメントありがとうございます。

shiryuさんの『ラブコメ漫画』の単行本持ってます。好きです。正直に言うと、がっつりこの作品に影響を受けてます。ですが、まったく違う作品として、私なりのヒロイン救済をやっていきます!ご期待ください!

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