第20話 TKZKO 天羽たちの部屋

 「えー!?天羽さんって椎名君と付き合ってなかったの!?」

 「そ、そうだ……」

 「なのに、名前で呼び合ってるの?」

 「う……それは……」


 新幹線移動から数時間、玲羅は班員から凄まじいほどの質問攻めを受けている。内容はすべて翔一との中に関してだ。

 玲羅は、そこで自分が翔一と付き合っていないことを明かした。


 だが、クラスの班員たちは誰一人信じようとしない。なぜかと言われれば、いつもの二人の姿を見ていれば付き合っていないと確信めいたものは持つし、なにより2人は新幹線内でキスをしていた。それは、クラスの全員が目撃していた。

 だからこそ、誰も玲羅の言葉を信じられない。


 「ね、携帯見せてよ!」

 「な、それは!」

 「いいでしょー、付き合ってないなら証拠がないと!」

 「だ、ダメだ!そのスマホには大事な思い出が……」

 「写真フォルダを……あー、やっぱり椎名君の写真ばっか……り……?」

 「だから見られたくなかったんだ」


 玲羅の手からスマホを取った女子の手が、ある程度写真をさかのぼった時点で停止した。

 ある時間から、翔一との写真はなくなり違う男との写真のみになったからだ。


 しかし、どんな理由であれ、人の携帯を奪って盗み見るような真似をしてはならないぞ。


 「天羽さん、これ……」

 「私は、ほんの数か月前までその男―――豊西のことが好きだったのだ」

 「やっぱり、あの噂は本当だったんだ……」

 「ああ、天羽さんは豊西君のことを好きだって噂ね。でも、今は……」

 「そうだ。私と豊西の幼馴染である八重野佳奈と付き合っている」


 その発言から、その空間の空気は少しだけおもりがつけられたかのように重くなる。

 だが、玲羅は言葉を続ける。


 「椎名は―――翔一は、雨に濡れる私を助けてくれた。それだけが理由ではないが、私を救ってくれた翔一が私は好きだ。心の底からだ。

 だからこそ、他人に未練があるままで翔一の好意と向き合いたくない」

 「天羽さん……」

 「軽蔑するか?告白してくれた男子に、返事もせずにキスをする女など……」

 「カッコいいよ!」

 「へ?」


 ただ、自分の心のありようについて話しただけだし、今の自分の状況は翔一を利用して傷を癒している。そうとらえられてもおかしくないはずだ。

 だが、ほかのメンバーはそうは思わなかったようだ。


 「なにそれ!?椎名君のこと大好きじゃん!」

 「ふぇ!?」

 「天羽さん、真面目過ぎ!これじゃあ、椎名君の愛の叫びが薄れちゃう!」

 「はぁ!?」

 「それになにそれ!?雨の中助けてもらった!?王子様じゃん!」

 「そ、それは否定しないが……」


 あまりにも想像と乖離した反応に玲羅は恥ずかしくなりきれない。いや、こんな言い方をすると玲羅が恥ずかしくなりたいと思っているように聞こえてしまう。そもそも、班員の話が早すぎて、玲羅がついてこれないのだ。


 ただ、これだけは言える。玲羅は、翔一のことを自分を迎えに来た王子様だと思っている。翔一こそが、運命の相手だと。


 「はっくしょん!」

 「うおっ!?でかいくしゃみだな」

 「悪い」


 一方で、そのころ翔一がくしゃみをしているのはこの場にいる誰も知らない。さすが漫画の世界だ。噂話をされた本人はくしゃみをするなどと。


 「誰かが翔一の噂でもしてんじゃねえか?」

 「イケメンの顔が良いって?」

 「なんだその小〇構文」


 そんなことは放っておいて、視界を玲羅の部屋に戻すことにしよう。


 「天羽さんは、椎名君に助けられた後にどうしてもらったの?人肌であっためてもらった?」

 「だ、誰がそんな破廉恥な真似をするか!ただ、風呂を貸してもらって夕飯をごちそうになったのだ」

 「本当にそれだけ?」

 「な、なんだ!?これ以上なにを聞き出そうというのだ!」

 「むむ!それはまだなにかあるな!なにを隠している!」


 突然、玲羅が何か隠していると察した奏遥が、玲羅の背中から手を伸ばすと、おもむろに胸を揉み始めた。


 「うひゃあ!?き、急になにをする!」

 「ふむふむ……私も大きさには自信があったけど、こりゃ完敗だ。天羽さんのは大きくて、形もいい。触り心地もいい。もしかして、毎日揉んでもらって整えてもらってる?」

 「そ、そんなことはしてもらってない!ただ、翔一の家に寝泊まりさせてもらってるだけだ!―――あ」

 「え?恋人じゃないのに、半同棲?なにそのラブコメ!」


 揉まれたことによるショックは、彼女にとって胸と同様にとても大きなもので、あまりの大きさゆえに、言わなくていいことを言ってしまい自爆してしまった。


 「ねえねえ、同棲ってなにをしてるの!」

 「そ、それは……」

 「セックスとかしてるの?」

 「し、してるわけないだろう!私たちはまだ中学生だ!」

 「へー、高校生になったらするんだ」

 「そ、それは……翔一がどうしてもと言うのなら……」

 「これは、もしかしたら私たちの中で一番に幸せになるのは天羽さんかもね!」

 「ま、待て、それはどういう意味だ!」


 逆になんの意味があるの?と玲羅を見るメンバーたち。玲羅も、言いたいことは理解しているつもりだ。だが、それは気が早すぎると考えているだけだ。


 今の玲羅は15歳。民法改正前でも不可能だ。


 「天羽さん、結婚しなよ」

 「なっ……!?」

 「あれ?天羽さん、真っ赤になったまま動かなくなっちゃったよ?」

 「ほんとだ。かわいいー」


 天羽玲羅

 TKZKO

 (テクニカルすぎる言葉攻めでノックアウト)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ん?」

 「どうした翔一?」

 「天羽がKOした?」

 「なに言ってんだ?」

 「いや、俺もよくわからん」

 「なんだそりゃ」


 俺は、なぜか玲羅が班員の手によって、真っ赤になってダウンしたのが分かった。なぜわかったのかはわからん。だが、もしかしたら愛の力というものが働いたのかもしれんな。


 「よろしくね、椎名君と蔵敷君」

 「ああ、よろしくな。ほら翔一も」

 「あ、すまない。ボーっとしてた」

 「しっかりしろよなー」

 「悪い悪い」


 まずは、この豊西をどうにかした方がいいかもな


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「たこ焼きひとつ」

 「お、兄ちゃん、その仮面イかしてるねえ」

 「そうか?嬉しいな」

 「素顔見せねえのか?」

 「いや、私自身、この仮面の下の顔が嫌いだ。ただ1人、私のことをカッコいいと言ってくれた男の前で以外、顔を見せたくない」

 「そういうもんか?」

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