第19話 到着の修学旅行

 俺と玲羅のキスシーンが撮られてから少しして、ほかのメンバーの意識が戻った。

 それから、俺たちは立場を入れ替えて『愛してるゲーム』をして、今度は俺が悶絶した。


 しょうがないじゃないか。震える唇で「愛してる」だなんて言われたら恥ずかしいに決まってるだろ?俺だって人なんだよ。恥じらいくらいある。


 だが、恥ずかしいのは玲羅も同じで、やっとのことで冷静になって顔を上げると、玲羅も半分涙目だった。


 「はい、椎名君の負け―。罰ゲームどうしよっか?」

 「天羽さんに決めさせたら?ほら、勝ったわけだし」

 「その理論だと、さっきの俺は罰ゲームの内容を決められたはずなのだが?」

 「えー?別にいいじゃん。よかったでしょ、あれ」

 「まあ、よかったけど……」


 なんか、腑に落ちない感がある。

 だが、これ以上はなんか面倒なことになりそうなので、口には出さない。


 「それでどうするの?天羽さん」

 「っ……」

 「遥ちゃん、まだ恥ずかしいって!」

 「えー、また私たちが決めちゃうよー」

 「そ、それはダメだ!」


 ほかのメンバーが罰ゲームの内容を決めると言うと、玲羅は勢いよくそれを否定し、一生懸命に内容を決め始めた。

 そんな姿にその場にいたメンバーは全員がほっこりした。


 「天羽さん、本当に椎名君が好きなんだねー」

 「そういうのは男子的にどうなの?」

 「全然嬉しいぞ?むしろ、嫌になる意味が分からないな」

 「うわっ、ガチじゃん」

 「おい、なんで引いてるんだよ」


 そうこうしているうちに玲羅の罰ゲームが思いついたのか、いきなり俺の手を握ってきた。


 「思いついた!」

 「な、なにをですか?」

 「罰ゲームだ!」

 「お、おう」


 あまりにも玲羅の勢いが強すぎた故に、俺は少しだけ尻すぼみしてしまう。なんだろうか?少しだけその内容とやらをきくのが怖くなってしまった。


 「これから毎日、私のためにご飯を作ってくれ!」


 空気が止まった―――


 自信満々にはなった玲羅の言葉は、その場に空気を止めるには十分な破壊力だった。

 だが、本人はまだそのことに気付いていないようで、「どうだ?いい案だろう?」と返答を待っているので、中々どうしたものか。


 「あの、天羽?」

 「ん?何か問題あったか?」

 「いや、今の発言は色々と誤解を生むぞ……」

 「え?なにがだ?」


 まだ気づいていないのか?それはもはやただの―――


 「プロポーズじゃん!」

 「へ?」

 「いやいや……毎日ご飯作ってくれ、ってただのプロポーズだよ!」

 「へ?……~~~っ!?」

 「やっと気づいたか……」


 指摘されて、自分の発言の意味を理解したのか、赤面する玲羅。これでは、どちらに対する罰ゲームかわからん。


 「ち、違う!私は一週間のつもりで言ったんだ!だ、断じてそういう意図はない!」

 「ん~?どういう意図なのかなあ?」

 「言ってくれなきゃわからないよー」

 「な、なんなのだお前たちは!そ、そういう言葉攻めは……」

 「なんなのかなあ?言ってくれなきゃわからないよお」

 「くっ、ころせ!」

 「なぜそうなる?」


 中々面白い雰囲気になってはいるが、俺は簡単に中に入れそうにはない。変な言葉攻めに発展してるし、俺が入るとさらに追い込んで面白い状況が作れそうだが、死ぬほど怒られそうなのでやめておく。


 ―――それはそうとして


 「すぅ」


 なぜ、こいつはこの状況で寝れる!?


 隣で、行動班の班長である八重が寝ていた。

 彼女は、部屋班と行動班のうちの部屋班の班長だ。だから、彼女が色々な計画を練ってきていたのだが、今は新幹線移動の最中。彼女は一人で眠っている。


 なぜ、このうるささで寝ることが可能なのだろうか?

 彼女に対する興味はあるが、これ以上いじくって起こすのも忍びないので、俺は彼女から手を引いた。


 「わ、私は一週間、毎日作ってくれと言ったんだ!」

 「言ってない」

 「言ってない」

 「毎日作ってくれしか言われてない」

 「し、翔一!?お前もそっち側か……」

 「そっちって、どっちだよ」


 俺が少しだけいじると、玲羅は恨めしそうにこちらをにらんでくる。ただ、その表情は憎しみだけでなく、なにか嬉しそうなものもあるように見えるのは俺の勘違いだろうか?


 「それでどうするの?椎名君」

 「あー、つくるよ。一週間といわず、一生でも」

 「きゃー!素敵!」

 「……」


 プロポーズにはプロポーズで返す。これで玲羅の恥ずかしさも半分になるだろう。

 と、思ったのだが、むしろ冷やかされる展開となり、倍どころか、言葉で表すのが難しいほどに恥ずかしくなってしまった。


 あまりの恥ずかしさに赤面した顔を隠すために、玲羅が俺の方に顔を向けてくれなくなったのはここだけの話だ。


 それだけのことをしていれば、時間というのは経つのが早く、もう修学旅行先である大阪の新大阪駅に到着した。


 「ふわ~あ……全然寝れなかった……」

 「いや、あれで寝てないとかマジで言ってんの?」

 「いや、うるさかったんだもん」

 「は?あの状況でもすぅすぅ言って寝てたぞ?」

 「眠い……」

 「うっそだろ……」


 もしかして、学園の眠り姫の素質持ちのお方でしょうか?

 そう思えるほどに、彼女は新幹線の中でも眠っていたというのに……

 彼女は俺の想像を超えるくらいに変なところがあるかもしれないな。


 玲羅はというと、あれだけのことがあったのに俺の腕にべったり張り付いてる。なんでも、誰かに取られるくらいなら恥ずかしいことも……。だそうだ。なんて可愛いのだろうか?


 「2人ともお熱いねー。私もそんな彼氏がほしー」

 「あ、あげないぞ!し、翔一は……翔一は……」

 「あー、あんまりからかわないでくれ。あんまりされると、天羽も俺も困っちゃうから」

 「ぶー、2人をからかうの楽しいのにー」

 「あはは……」

 「そうだ!この後、2人にポッキーゲームしてほしいんだけど」

 「「勘弁してくれ!」」


 さすがにそれは恥ずかしすぎる!ていうか、恥ずかしくて口を離すんじゃなくて―――


 「あ、そうか!2人なら、口を離さずにキスしちゃうかー」

 「「だからっ!」」


 そうだけど!多分そうするけども!さすがにさっきみたいにみんなに見られながらキスをするのは恥ずかしすぎる!

 こうして、一日目は終了した。


 この後はホテルに移動し、適当に時間をつぶすだけだ。それにしても、この世界の主人公とご対面か。まあ、会話くらいなら問題なくできるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る