不良くんは、案外甘い

「……は」


「は?」


 砂糖を煮詰めたかのような甘い囁きが、耳に直接吹き込まれて、体へと染み渡っていった。


 とろり。とろける甘露に、じわじわと熱がせり上がって顔に集まっていく。胸焼けを起こしそうな、大きすぎる言葉に目眩がした。


 な。


「な、なん、なに、言って」


「……俺さっき好きだって言ったよな?」


 蒼汰はきょとん、として首を傾げる。熱を帯びた瞳が白雪を溶かそうと差し向けられた。溺れるという錯覚に白雪が四苦八苦すれば彼は、追い打ちをかけるように続けた。


「言ったよな? 噂も知ってるよな? 知ってて会話してたよな? お前は半信半疑だったわけだが。あの夜で確信してたよな?」


「え、う。え」


「で、お前は答えてくれないけど」


「ぎぇ」


「それに目的は果たしたし。お前は壊れてないわけだ。だから、ここいらで意識してもらうために、隙あらば伝えようかと」


 ほんの少し責める口調から、突然の宣言に目が回る。何やら意味が分からない部分もあった気がしたが、頭がのぼせて上手く思考がまとまらない。湯気が出そうなほど熱い。


 よろめけば彼がすかさず支えてくれる。後ろで香奈恵が「きゃあ」と可愛らしい歓声を上げていた。待て友人の前でなんてこと繰り広げているのだ。


 どうにか、何か言わなければ。うまく舌が回らないのを必死に隠しながら言葉を紡いだ。


「りかいおいつかない」


「困ってる顔もかわいい」


「ぐっ、いや、だからまって、おね、お願いだから」


「照れてるのもかわいくて好きだな」


「やめ、やめろ!」


「かーわい、だいすき」


 けたけたと楽しげに砂糖菓子のような愛を捧げてくる。半分遊んでいる、絶対に。狼狽える白雪の反応を楽しんでいる。極悪の顔ではないか。

 耐えきれず耳を塞げば心底嬉しそうに頬をすり寄せた。


「はは、反応良すぎだろ」


「げんかいです。これ以上は私がこわれます。なにより人前です自重してお願いだからたすけて」


「まじでかわいい。すき」


「こわれた」


「かわいい。壊れてないから安心しろ。俺が死んでも壊させたりしねぇから」


 壊れたと言っているのに。蒼汰の甘すぎる恋に早々にギブアップした。ユルシテ、と蚊の鳴くような声で訴えた。


 だが。好きな子は可愛がりたい、そもそも答えないお前が悪い、と彼は止まらず。


 チャイムが鳴る瞬間まで、砂糖の海に溺れさせる行為は続いた。その間、香奈恵は何故か満足そうな顔で親指をぐっと立て見守っていた。できれば素知らぬ顔で立ち去るか彼をどかしてほしかった。




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