第9話 そして、始まりの日 その3

『うわ〜』


声には出さなかったものの、固まってしまった私。


猫様が、一斉にこちらを見て、少し動いたり姿勢を変えたりしたあと、それぞれの持ち場?に戻った。


「いらっしゃいませ、初めてですか?」

固まったままの私に、小さめの声で問いかける若い男性。


コクコクと、首を縦にふる挙動不審な私。


「こちらへどうぞ」とソファーに案内され、素直に座る私。


間違えて入りました、とは言えなかった。


諦めて、メニューを手に取り、アイスコーヒーと猫様のおやつを注文。

注文内容が分かるのか、とたんに猫様が私の周りに集まりだした。


結果、猫まみれになりました。

癒やされました。


猫様のおやつのせいだけではないと思いたい。

小動物を撫で回すのがこんなにも癒やされるなんて。


ふと、気がつくと、さっきまで聞こえていた悲しそうな小さな声が、嬉しそうな声に変わっている。

「あれ?」

少し、大きめな声が出てしまった。

「どうされました?」

奥にいた、先程の若い男性店員さんが出てきて問いかけられた。

「いえ、なんか、誰かの嬉しそうな声が聞こえたような気がしたのでびっくりして…」

つい、正直に答えてしまう。


「へえ〜、それは、猫様の精霊の声でも聞こえたのかな?」

「へっ?」

変な声が出てしまった。

ニコニコしている彼の顔を見て、明るく笑わせようとしているのが感じられた。

思わず吹き出すと、

「少しは気分が晴れましたか?」

私、そんなに暗い顔してたのかな?


恥ずかしくなった私は、

「また、来ます。」

と急いで会計を済ませ店を出てしまった。

五千円札しか無かったので、

「お釣りで猫様のおやつを」

と返事も聞かずに飛び出してた。

本気で、恥ずかしかった。

多分、今、顔が真っ赤になっていると思う。

ナゼダロウ。

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