シャツバトル

 一般市民が参加できる全国各地のマラソン大会では、参加賞として、大会名などをプリントしたオリジナルのシャツをもらえることが結構あります。


 使う機会が少なく、わりと持て余しがちなこのシャツですが。

 実は、有効な活用法があるのです。

 シンプルに、走るときに着ればよいのです。


 といっても、ただ、通気性や吸水性といった機能が優れているから着るのではありません。

 このシャツには、もう一つ、重要な役割があるのです。

 それは、練習や大会本番において。

 周囲のランナーを、”威嚇”する役割です。


 この威嚇の役割とは、どういったものか。

 威嚇の効果を高める三つの要素とともに、説明していきましょう。


 まず、一つ目の要素は、そのシャツにプリントされている、大会の"走行距離"。

 ハーフマラソンよりもフルマラソンの、フルマラソンよりも100kmウルトラマラソンのシャツを着ているほうが、”より長距離を走れる人”アピールが出来、周囲のランナーをビビらせる効果、すなわち、威嚇の効果が高いといえます。

 100マイル(約166km)トレイルランのシャツなどは、おそらく最強格です。


 二つ目の要素は、そのシャツに刻まれた、大会の"開催地"。

 例えば、下関海響マラソン2023に、下関海響マラソン2022のシャツを着て参加し、常連アピールをするのもよいですが。

 同じ大会に、例えば仙台国際ハーフマラソンなど、より遠くで開催された大会のシャツを着て出場すれば。これは、"遠征して各地の大会に出る強者”アピールが出来、走力の高さがうかがえる故に威嚇の効果が高い、"強い"シャツとなります。


 そして、三つ目の要素は、そのシャツの大会が開催された”年”。

 例えば、仙台国際ハーフマラソン2024に、同2014のシャツで出場すると。”毎年出場を続けている古参”アピールが出来そうな一方で、近年の出場歴がない、”恐るるに足らぬ枠”とみなされる可能性もあり、威嚇の効果は安定しません。

 しかし逆に、最近開催された大会のシャツならば。これは現在の走力の指標となり、シンプルに”強い”シャツといえるのではないでしょうか。特に、2週間前に開催された大会のシャツなどを着て次の大会に臨めば、”大会出場頻度が高い猛者”アピールが出来、ことさらに”強い”シャツとなるでしょう。


 もちろん、いずれの場合も、「シャツを着ている人が、その大会を完走したとは限らないし、完走していても速いとは限らない」という点は無視できませんが。

 その点がむしろ、心理戦の要素として、このシャツによる威嚇合戦を、より深く面白くするのです。


 シャツによって、自分をより強く見せたり、あるいは逆に、弱く見せたり。

 ランナーたちは、そんな水面下の戦いを、常に繰り広げているのです。

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